ミズキという木を知っているだろうか。雑木林に見られる代表的な落葉高木である。都会で育った方は経験が無いと思われるが、子供の頃、ミズキの小枝を使って引っ張りっこをしたものである。ミズキの先端の芽が付く小枝は真っ直ぐで長く、次の芽はだいぶ下の方に短く斜めに出る。そこを絡めて引っ張る遊びである。ミズキを漢字で書くと水木となる。この名の由来を確かめたくて春に小枝を折ってみたところ、涙を流すが如くに水が溢れて来た。すぐに止まるだろうと思ったのだが、なかなか止まらず大量の涙となって、思わずミズキに“すまんすまん”と謝った。ミズキは雑木林の各種の木の中で新緑が美しい樹種である。ミズキの枝はほぼ水平に扇状に広がり、形の良い楕円の葉が隙間無く広がって、初夏の青空からの光に透かして見ると、何とも言えない瑞々しさがある。また、花にも特徴があって、白い小花が平たく房状に集まって咲くので、遠くからでもすぐ分かる。材は白くて加工しやすく、コケシやコマや器等に利用されるという。近縁にクマノミズキがあるが、花期は約1ヶ月程遅れる。
 このミズキが大好きなカメムシがいる。エサキモンキツノカメムシである。名前は長くて覚えにくいが、胸にハートの形をしたクリーム色の紋があるから一度見たら忘れない。野外で出会った人に“ハート模様の付いているカメムシを知ってますか”と聞くと、名前は出てこないものの、かなりの方が知っている。ミズキの生えてる雑木林なら小面積でも普通に見られるカメムシである。確実に会いたかったら6月にミズキの葉上や葉裏、ミズキの周りの下草に注意していれば発見の確立は相当高くなる。特に6月中旬になると産卵が始まり、葉裏で卵を守る雌に出会えるかもしれない。雌は卵が孵化して2齢幼虫に育つまで、しっかりと足を踏んばって子供達を守り、天敵が近づくと羽を開いて激しく羽ばたき、追い払うという母性の持ち主でもある。
 こうして2齢幼虫まで成長すると、親から離れて主にミズキの果汁を吸って成長し、成虫になるとミズキからやっと離れて、各種の樹木の汁を吸いに旅立つと言われている。12月に入ると雑木林の樹木の幹や民家の板壁で、日向ぼっこや虚ろにウロウロするエサキモンキツノカメムシに良く出会う。やって来る冬の越冬場所を探しているのである。越冬場所は落ち葉の裏や檜や杉の樹皮の下などであるが、民家の板壁の隙間なども利用しているようである。エサキモンキツノカメムシが所属するツノカメムシ科の仲間の中で、同じミズキが大好きなセアカツノカメムシや、ハナウドやウコギ、タラなどで見られる山地に行くと多いベニモンカメムシが少ないながら平地の雑木林に生息している。


<写真>エサキモンキツノカメムシの交尾、エサキモンキツノカメムシの越冬、ミズキの花、セアカツノカメムシ、ハサミツノカメムシ、ベニモンカメムシ。




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《エサキモンキツノカメムシ・セアカツノカメムシ》