(21)カミキリ界の貴公子たち
《ラミーカミキリ・ヤツメカミキリ・ルリボシカミキリ》



 栗の花が満開である。ゼフィルスの観察が済んだら、付近にある空き地や道の両脇に繁茂するカラムシに注意してみよう。薄緑色に黒い文様のある美しいカミキリムシが、ちょこんと葉の上に鎮座しているに違いない。ラミーカミキリである。日本には約1000種類のカミキリムシが生息しているが、その殆どが様々な斑紋を持つものの、地味な褐色を基調としたカミキリムシが多い。金属光沢を有していたり鮮やかな色彩のカミキリムシはむしろ少数派で、山間地に生息していたり、夜間に活動したり、樹上高く咲く花に集まったりと、一般の方が観察するには難しい種類ばかりである。しかし、ラミーカミキリなら山里はもちろんのこと自然度の高い雑木林周辺で、カラムシやヤブマオさえ繁茂していたら容易く観察できる。とは言っても無造作に接近すると敏感に接近を感知し飛び立ってしまうから、慎重に近づかなければならない。尚、北海道にはラミーカミキリは生息せず、カラムシも分布していないようである。
 ラミーカミキリのラミーとは聞き慣れない植物の名前である。私が持参する図鑑には載っていないので図書館で分厚い植物図鑑を開いてみた。東南アジア原産のイラクサ科のチョマ(英名=ラミー)であることが分かった。日本でも西日本に行けば帰化していて、名前もナンバンカラムシと呼ばれているそうである。茎から強靱な繊維(麻)が採れるので、東南アジアを中心に栽培され、年に数回刈り取り、ロープや網や麻袋などの原料とするのだそうである。日本ではカラムシが同じ目的で古くから栽培されていたが、現在、首都圏で見られるカラムシは麻の原料として利用さることの無い雑草である。年に数回刈られても絶える事なく毎年同じ場所に生えてくる強靱さに、かねてから注目していたのだが、図書館で調べてその訳がやっと分かった。ラミーという日本人に馴染みの薄い名から色々勉強にはなったが、ラミーカミキリなどとは言わずに、カラムシカミキリと名付けた方が正解だと思うのだがどうであろう。
 ところで『土場』という言葉を知っているだろうか。切り出した木を皮がついたまま山積みして置いておく場所のことを言う。このような土場を見つけたら観察には最高で、特に広葉樹の丸太なら各種のカミキリムシに出会える。しかし、土場は危険も多く、近づく前に丸太は落ちてこないか、マムシなどの蛇はいないかと確認することが大切である。安全確認が終わったら丸太に近づいてみよう。ゴマフカミキリ等の地味なカミキリやハチに擬態したトラカミキリ等に混じって、薄緑色に黒い紋を持つヤツメカミキリ、水色に黒い紋を持つルリボシカミキリ、運が良ければ緑色に光るハンノアオカミキリなどの、カミキリ界の貴公子に出会えるかもしれない。




<写真>ラミーカミキリ、ルリボシカミキリ、シラホシカミキリ、ハンノアオカミキリ、ヤツメカミキリ、ミドリカミキリ。




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