(22)シックな衣装で生きてます
《マドガ・カノコガ・アゲハモドキ・ホタルガ》



 蛾というと茶褐色で身体が毛だらけで、何となく薄気味悪いイメージを持っているに違いない。しかも、夜になると電灯に集まって、時には家の中に入り込むお邪魔虫でもある。しかし、初夏から梅雨にかけて現れる蛾の中には、とてもシックで目を見張る蛾も数多い。5月に入ると現れるマドガは、身体は小さいが注目に値するなかなか凝った衣装を纏っている。多くの蛾とは異なって昼間活動し、この頃開花するコゴメウツギの花等に飛来して羽を開いて吸蜜する。胸には黄色い縦縞が数本入り、白い縁取りの有るビロードのような質感のある黒い羽に、黄色や白の斑紋が散りばめられている。中でも中央の白斑は大きく、その名の由来となったかは定かでは無いが、窓があるようにも見える。マドガの仲間はアフリカを中心とする熱帯地方が故郷であるが、日本には約10種類が生息していると言われている。マドガの幼虫の食草は、たくさんの白い花を咲かせるボタンズルで、センニンソウと同じ仲間の蔓植物である。
 鹿子模様とはどんな模様であるか知っているだろうか。鹿の身体を見ればすぐ分かるように、白斑が散らばっている模様のことである。6月に入ると雑木林周辺で発生するカノコガは、黒い地に白い斑紋を散らした羽を持つ美しい蛾である。鹿子模様を持った蛾=カノコガと単純明快な命名であるが、一度見たら“なるほど”と納得が行き、細長い腹部の黄色い2本の横縞と共に、忘れられない昆虫の一つとなるに違いない。幼虫の食草はシロツメクサやタンポポなどの何処にでも見られる草だが、日本にはカノコガの仲間は僅かに2種類しか生息していないという。なお、カノコガは年に2回の発生で、ヒマワリが咲く盛夏から初秋にかけても見られるが個体数も少なく、また、鹿子模様は梅雨時のしっとりとした季節にこそ映える。
 6月に発生する蛾の中で、褐色のアゲハモドキも観察して欲しい蛾の一つである。形はジャコウアゲハの雌を小型にしたようで、ミズキやヤマボウシが食樹である。天敵の小鳥が食べないジャコウアゲハに擬態しているためか、雑木林の葉上で羽を開いて止まっている。梅雨明けと同時に、ヒサカキで発生するマダラガ科のホタルガも忘れられない存在である。年に2回の発生で9月にも現れ、羽は黒地に一本の白いストライプが印象的で、頭部はオレンジ色でくりくりとした複眼を持ち、柔らかくて細い羽のような黒い触覚を持っている。ホタルガは蛍に似ているという意味で、西南日本に産する美麗なサツマニシキも同じ仲間である。マダラガと言えば忘れられないのは、西アジアからヨーロッパにかけて産するベニモンマダラの仲間で、開帳30mmの小型の蛾だが、種類によって赤い斑紋が微妙に異なり、蛾とは言っても蒐集欲を沸き立たせる憧れの蛾のグループである。















<写真>鹿の子模様のカノコガ、ジャコウアゲハの雌に擬態するアゲハモドキ、夕暮に飛ぶホタルガ、昼間飛ぶキモンガ、トンボに似ているトンボエダシャク、コゴメウツギに吸蜜するマドガ、昼間飛ぶイカリモンガ、美しいビロウドハマキ。




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