昆虫と言えば6本(3対)の足と4枚(2対)の羽を持っているのが普通である。しかし、ハエや蚊、アブなどの双翅目の仲間は後翅が退化して微小な平均棍となり、2枚しか羽を持っていない昆虫のようにも見える。2枚の羽(前翅)の付け根の中胸の羽を動かす筋肉は後翅が無い分非常に発達していて、飛翔速度ばかりでなく曲芸飛行も上手にこなす連中が多い。羽が2枚となったのは、より早くより巧みに飛ぶための形態変化であったのだ。例えば、身体が平べったいのでヒラタアブと名のついたアブの仲間は、空中で飛びながら静止するホバリング(空中停止飛行)が得意である。ヒラタアブの仲間は1cmに満たない身体ながら、吸蜜に訪れた花の前で空中停止するし、時には交尾したまま空中停止するという離れ技まで繰り出すのだから恐れ入る。本によると、ホバリングは羽の大きさと羽ばたきの回数が問題のようで、蝶のように羽が大きく毎秒10回前後の羽ばたきでは到底無理のようである。ホバリングが可能なトンボで毎秒30回位、スズメガが毎秒70回位、ミツバチが毎秒200 回以上、双翅目のハエや蚊、アブなどの仲間は、何と毎秒300 回以上なのだそうである。
このヒラタアブの仲間はあまり注目されないが、テントウムシと同じようにアブラムシを食べる益虫なのである。母虫は子供たちが順調に育つようにと、食料であるアブラムシの群れを見つけて白い米粒型の卵を産み付ける。かえった幼虫は乳白色のウジムシで、アブラムシを見つけてはガブリとかぶりついて体液を吸って成長する。蛹はナメクジ型で木の幹や葉の裏で見つけることができる。テントウムシ(幼虫も成虫も)にしてもヒラタアブ(幼虫)にしても、アブラムシにとっては人(虫)喰い怪獣のような怖い存在なのだろう。ヒラタアブの近縁で、一見するとミツバチのようにも黄色いハエのようにも見えるハナアブの仲間の幼虫は、下水の汚泥を食べる変わり者である。幼虫はオナガウジ(尾長蛆)とも呼ばれ、尾端に伸縮する細長い管を備えていて、これで水面の上の空気を取り入れている訳である。言うなれば昔の忍者の竹筒や、現在のシュノーケルのようなものである。このような汚い場所で成長するハナアブの仲間ではあるが、成虫は各種の花を訪れ花粉を媒介する益虫でもある。
双翅目の仲間がみんな益虫なら良いのだが、人や家畜の血を吸うとんでもないアブやブユ、蚊、伝染病の蔓延をつかさどるハエなどもいるのだから困ったものである。アブ科のシロフアブやブユ科のアシマダラブユは本当に困ったもので、アカイエカやヒトスジシマカなどの蚊は可愛いもので、刺されても虫刺されの薬を塗れば直ぐに痒みが納まるが、アブやブヤにやられたら“どうにかしてくれ”と叫びたくなるほど、一週間も痒くて仕方がないのである。
<写真>ナミホシヒラタアブ、ヒメヒラタアブ、ホソヒラタアブ、ハナアブ、シマハナアブ、アシブトハナアブ、オオハナアブ。