5月中旬から下旬にかけて、自宅の椿に群れをなして葉を食べていたチャドクガが7月に入ると羽化して来て数匹壁に止まっている。目を皿のようにして幼虫退治をしたのだが、だいぶ見落としたようである。チャドクガは年に2回発生するから、ここで成虫を出来る限り退治しておかないと秋口に幼虫が大発生して被害にあうのは必至である。もちろん成虫にも幼虫時代の毒毛が付いているというので慎重に退治したことは言うまでもない。チャドクガの幼虫の毒毛にやられた経験がある方なら、その痒さが蚊など問題にならないものであることを、悪夢のように蘇らせることと思われる。しかも、痒いから掻き毟ると毒毛を皮膚の奥深くに差し込むことになり、また、毒毛を皮膚の広範囲にバラ撒くこととなって、いてもたってもいられない悲劇が待ち構えている。運良くガムテープが付近にあれば粘着面で、水道があれば流水で毒毛を取り除くことが出来るが、フィールドでは全くのお手上げの状況となる。兎に角、ツバキ、サザンカ、チャには秋が深まるまで近づかない方が得策である。
クヌギやクリ、サクラやキイチゴなど葉を食するドクガには、幸いなことにまだお目にかかっていないが、チャドクガ以上に要注意の蛾であるようだ。なにしろ幼虫の毒毛は、チャドクガが約50万本に対して約600 万本もあり、しかも毒性が強いから刺されたらチャドクガ以上の症状になるという。幸いにしてドクガの方が個体数も民家周辺での発生も少なく、チャドクガに比べると幼虫による被害は僅少に済んでいるようである。チャドクガもドクガも生態は似かよっていて、蛹になる時も幼虫時代(2齢以後の幼虫)に獲得した毒毛を、繭や蛹の表面にべっとりと残し、羽化した雌は尾端にこの毒毛をたっぷり付けて飛び立ち、卵にも念入りに毒毛をなすりつけるから、孵化した1齢幼虫にも毒毛がついているのだという。嫌われ者の憎まれ者だが、一生の全ステージにわたって、毒毛を保持しているという賢い虫でもあるのである。
こんなに恐ろしいことばかり書いてくると、自然観察に出かける気が失せることと思うが、人間に危害を与える昆虫はそれ程多くはなく、刺す毛虫はこの他にゴマフリドクガ、イラガ、クロシタイラガ、マツカレハ、クヌギカレハ等の数種類であるから、気を付けていればまずは大丈夫である。こう言う私も年間100 日以上の自然観察を17年間も続けているが、藪蚊には刺されるが、マムシやスズメバチはもちろんのこと、アシナガバチやイラガ、ドクガにも刺されたことは無い。ただ一回だけクヌギの樹液に吸蜜するゴマダラチョウを撮ろうとした時に、チャの木にうっかり触れて、チャドクガの幼虫に刺された位である。もちろん、ゴマダラチョウの傑作写真だけはものにした。
<写真>チャドクガの幼虫、チャドクガの雄、チャドクガの雌、ゴマフリドクガ、モンシロドクガ、クロシタアオイラガ。