(25)日の丸背負って生きてます
《オオムラサキ・ゴマダラチョウ》



 現在地球上に見られるあらゆる生物は、それぞれが長い進化の歴史を背負っているのだから、学校の通信簿や企業の人事考課などのように優劣をつけるのは、まことに失礼千万なことである。われわれ人間だって、それぞれの人となりを忠実に生きて一生懸命努力しているのなら、お金が有ろうが無かろうが、学歴が有ろうが無かろうが、社会的地位が有ろうが無かろうが、どうでも良いことのはずである。しかし、21世紀に入ったとはいえ現実にはいまだそうなっていないのだから、人間社会はまだ途上にあるのだろう。ここで紹介するオオムラサキは日本の国蝶である。以前は『何んでオオムラサキが国蝶なんだ』と疑問を感じていたのだが、オオムラサキと接する機会が増えるに従って、日本を代表する蝶として最もふさわしいと考えるようになった。
 まずは身体の大きさである。実寸法ではナガサキアゲハやモンキアゲハには負けてしまうが、頑丈な作りからして日本で一番大きな蝶に思える。また、青紫に光る羽は、厚いトレペに鱗粉をつけたようで、がさつだがとても分厚い。身体は小指ほどの太さで、親指と人差し指で掴むと、羽を動かす筋肉の強さで逃げられそうになる。羽ばたきの力強さも特筆もので、数回羽ばたいて滑空する姿は勇壮で、小鳥と間違えた人がいたというのも納得できる。次に生態面から見ても頼もしい。オオムラサキは夏の樹液酒場の常連なのだが、あの恐ろしいオオスズメバチだって一歩控えることはあっても、決して物怖じしているようには思えない。また、オオムラサキも他の蝶と同じようにテリトリーを張ることがあるが、侵入してきた小鳥を物凄い勢いで追い出したりもする。こんなに逞しいオオムラサキであるから、もし、世界の蝶のオリンピックでも開かれたら表彰台に上がって日の丸をあげることが出来るに違いない。
 オオムラサキを一度は飼育して、新鮮な青紫に輝く羽を見てみたいものだと蝶に関心を持つ者なら誰もが思う。オオムラサキの幼虫は冬に食樹であるエノキの根元の落ち葉の裏側で越冬するから、入手は簡単である。しかし、エノキは何処にでもあるが、水揚げが悪くて小枝を切り取って瓶に刺しておくとすぐに枯れてしまう。小さな植木鉢に植えてもカイガラムシにやられて順調に育たない。この為、大きな植木鉢や地植えにせざるを得ないから大変だ。もしオオムラサキの飼育にチャレンジ出来たら、小鳥に食べられないように十分注意して最後まで育ててあげよう。餌が十分でなくて小型のオオムラサキが羽化したとしても、その感激は一生忘れない程に強烈である。最後に、オオムラサキの親戚に当たるゴマダラチョウが、開発が進んでオオムラサキが消滅した雑木林でも元気に頑張っているので、ぜひ観察に出かけて欲しい。











<写真>オオムラサキ、オオムラサキの裏面、オオムラサキの越冬幼虫、スミナガシの幼虫、ゴマダラチョウ、コムラサキ、スミナガシ、ルリタテハ。


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