(26)死んだふりが大得意
《オオゾウムシ・オジロアシナガゾウムシ》



 哺乳類のゾウのように鼻がとても長い甲虫がいる、ゾウムシの仲間である。日本には約500種類以上もの仲間が知られ、甲虫界きっての大グループである。ゾウの鼻のように見える部分は吻と呼ばれる頭の前の部分で、その先端に口器が開いている。長い吻はどのような時に役に立つかというと、植物の根や茎、果実、種子等を食べる時、これらに穴を開けて卵を生み付ける時に大いに威力を発揮する。どうみても哺乳類のゾウの鼻とはだいぶ様子が異なる。しかし、ゾウムシの身体は人間の指の力では押し潰せないほどに堅く、恐らく昆虫界随一の堅牢さで、この点ではゾウの皮膚に通ずるものがある。
 ゾウムシの仲間は前述したように多数にのぼるが、最も大きいものでは24mmにも達するオオゾウムシは存在感があり、平地の雑木林にも見られるから観察して欲しいゾウムシの筆頭である。オオゾウムシの身体は特に頑丈で、昆虫採集に熱中していた頃、虫ピンをオオゾウムシの身体に差し込むのに苦労させられた経験がある。細い虫ピンでは針先はふにゃりと曲がり、一番太い虫ピンを小さな金槌を使って差し入れた程である。体色は樹肌に溶け込む茶褐色で、胸部にはお寺の鐘の表面のようなぶつぶつがあり一見不気味に見えるのだが、噛んだり刺したりしないから指でつまんでも大丈夫である。
 オオゾウムシの好物はお酒で、クヌギの樹液酒場の常連でもあるし、リンゴの落果にかぶりついていたこともある。また、人間が大好きなビールにも目がなく、特に黒ビールが好きで、紙コップにビールを少し入れて地面すれすれに埋めておくと、たくさんのオオゾウムシがやって来るという。やって見る価値はありそうだが、何となく平和主義者に思えるオオゾウムシをたぶらかす気にはなれない。オオゾウムシを見つけるには、山から切り出された丸太に注意することも大切で、産卵のためにやって来る雌に出会える。オオゾウムシは、マツやスギ、ナラやカシ等の弱った木や枯れて倒れた木の樹皮の下に産卵するとあるから、積んである丸太も格好の産卵場所なのだろう。
 次に観察してもらいたいゾウムシは、平地の雑木林でも最も普通で、クズの葉や茎に注意していると発見できる、身体の配色がパンダに良く似たオジロアシナガゾウムシやシロコブゾウムシである。近づいて捕まえようと手を伸ばすと、ぽとりと地面に落ちて死んだふりをする。小鳥の糞にそっくりで、しかも身体が堅いのだから天敵等はなさそうに思えるのだが、餌とする小鳥が存在するのであろう。最後に、地味な色の多いゾウムシの中で黄緑色に光るオオアオゾウムシは出色で、やや山間部のタデ科の植物等に多いから、ハイキングに出かけた折りにでも観察して欲しいゾウムシの一種である。



<写真>オオゾウムシ、オジロアシナガゾウムシの顔、オジロアシナガゾウムシの死んだふり、シロコブゾウムシ、ヒメシロコブゾウムシ、オジロアシナガゾウムシ、オオアオゾウムシ。

                          

 <様々なゾウムシの仲間たち>

マダラアシゾウムシ/コフキゾウムシ/フキヒョウタンゾウムシ/オオタコゾウムシ










ハスジカツオゾウムシ/カツオゾウムシ/トホシオサゾウムシ/ヤサイゾウムシ










エゴシギゾウムシ/クリシギゾウムシ/リンゴコフキゾウムシ/スグリゾウムシ











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