黒と黄色の横縞模様と言えば何を思い出しますかと質問したら、たいがいの方は動物の虎とか、危険を表す標識などを思い起こして答えるだろう。それでは昆虫では?と質問したら、必ず蜂という答えが帰って来るだろう。このように黒と黄色の横縞模様は、怖いもの危ないもののシンボルカラーとなっているようで、しかも一番目立つ色の取り合わせであるとも言われている。ご婦人の方は、黒と黄色の横縞模様の昆虫を見ると、蜂が飛んでいると眉をしかめる方も多いようである。良く見るとアブの仲間(双翅目)のハナアブやヒラタアブであったりする場合も多く、ご婦人たちも前述したベイツの擬態に騙されているのである。人間を刺す蜂は、膜翅目の有剣類の仲間たちで、特にスズメバチやアシナガバチやミツバチ等である。しかし、巣に近づいたりしない限り、こちらから危害を与えなければ、刺されることはほとんど無いということを肝に命じて欲しい。
ベイツ型擬態については(11)で詳しく紹介したが、今度は食べると吐き気を催す蝶ではなく、食べると痛い思いをする黒と黄色の横縞模様の蜂に擬態しているカミキリムシの登場である。カミキリムシの仲間は、日本では600種類以上知られているが、黄色と黒の横縞模様を持つ一群がいる。その中でもトラフカミキリはスズメバチに擬態していて、遠くからでは判別できないほど極似している。最近、養蚕農家も少なくなって、桑の大害虫であるトラフカミキリも希少種となってしまったったが、身近なフィールドでアシナガバチに良く似たヨツスジトラカミキリには出会えるだろう。モッコクやマサキやモチ等の害虫であり、これらは農家の生け垣の主立った樹木で、ヤブカラシの花に集まるから必ず見つかると思う。この他、枯れ木が積んであれば、キスジトラカミキリやエグリトラカミキリ、キイロトラカミキリに出会えるだろう。
ところで、スズメバチやアシナガバチの様に黒と黄色の横縞模様で蜂に擬態していれば、本当に天敵から身を守れるのだろうか。この疑問に対しても、アメリカのブラウワー博士らがヒキガエルを使って実験した。お腹をすかしたヒキガエルに、最初、糸でつるしたトンボを目の前に持っていったところ、ヒキガエルはパクリと食べた。次にマルハナバチに姿形が似たムシキアブを与えるとこれもパクリと食べた。次にマルハナバチを与えるとパクリと食べたが、チクリと刺されて吐き出してしまった。次にムシキアブを与えると、今度は頭を低くして警戒姿勢をとって食べなかった。最後にトンボを与えると、少しためらったがパクリと食べてしまったという。ヒキガエルはマルハナバチを食べて痛い思いをし、黒と黄色の横縞模様は危険であると学習したのである。それにしても善良なるヒキガエル君には、まこと気の毒な実験であったが、我々人間だって、痛い思いをして始めて気づくことが多いのだから経験者の意見は神妙に聞くべきである。
<写真>トラフカミキリ、キイロトラカミキリ、キスジトラカミキリ、クビアカトラカミキリ、ニイジマトラカミキリ、ヨツスジトラカミキリ、エグリトラカミキリ、シロトラカミキリ、ウスイロトラカミキリ、シラケトラカミキリ。