(30)青い目のならず者
《オオイシアブ・シオヤアブ・アオメアブ》


 多種多彩な昆虫界にあって、双翅目ムシヒキアブ科の仲間は怖い風体の持ち主の筆頭である。このような怖い風体の昆虫は肉食性のものが多いが、ムシヒキアブも昆虫やクモに飛びついて抱きつき、獲物に鋭い口器を差し込んで体液を吸う昆虫である。たぶんその名のいわれも“虫を引くアブ”という意味から来ているのだろう。ムシヒキアブの仲間は世界に約5000種類、わが国には約40種類の仲間が生息していると言われているが、首都圏平地で見られるものは数種類に限られるようである。その中でも地味で体が貧弱なマガリケムシヒキを除くと、オオイシアブ、チャイロオオイシアブ、シオヤアブ、アオメアブの4種類は威風堂々たる存在で、天敵も一目置くのかはたまた素早い飛行能力で難を逃れるのか、雑木林周辺で微動だにせずじっと静止している場合が多い。気の弱い方々や心優しいご婦人方には、その恐ろしい風体から“刺すのでは”と一瞬たじろぐかもしれないが、人間には危害を与えないから静かに近づいて観察して欲しい。
 まずオオイシアブだが、雑木林の縁の各種の草木の葉上でじっと獲物を待ち構えているのに良く出会う。オオイシアブは大型で頑丈な毛むくじゃらの真黒な身体をしていて、ムシヒキアブの仲間というよりはクマバチに近いのではという印象を持つに違いない。しかし、良く見ると複眼の間に白い毛を生やし、腹部の末端半分はオレンジ色で、私のような昆虫好きにはユーモラスで可愛らしくさえ感じられる、なかなかのキャラクターの持ち主である。次に尾端に白い毛があるシオヤアブは、雑木林の未舗装の小道や草地の土が現れた部分や畑の棒の先などで静止して、じっと獲物を待ち構えている印象的なムシヒキアブの代表格である。図鑑によると捕食する昆虫の半数以上が甲虫類で、中でもコガネムシの仲間を好むのだという。また、ハチやハエ、アブ等は勿論のこと、自分よりはるかに大きいセミを捕食した例もあるというから恐れ入る。
 最後に一番注目して欲しいムシヒキアブであるアオメアブは、その名のごとく複眼が青緑で、恐ろしい風体を見ずに、目にだけ焦点を合わせて注視するならば、とっても美しい昆虫の一つである。しかし、標本にすると青緑色は失われてしまい、クーラーの効いた博物館ではその美しさを味わえないから、暑い最中にフィールドへ出かけなければならない。アオメアブは雑木林周辺の田畑に多く、垂直に突っ立った細い棒の側面に抱きつくように止まってじっと獲物を狙っている。一番多く見かけるのは直径5mm前後のアズマネザサの枯れた棒で、時にはニラの花茎に止まっているというシャッターチャンスに巡り会うこともある。しかし、その恐ろしい風体からして、傑作写真といえども額に入れて飾ってくれることはないだろう。
















<写真>ナナホシテントウを捕まえたチャイロオオイシアブ、獲物を見張っているオオイシアブ、チャイロオオイシアブ、シオヤアブ、アオメアブ、マガリケムシヒキ、サキグロケムシヒキ、アシナガケムシヒキ。



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