(31)道を教える宝石たち
《ハンミョウ・ニワハンミョウ・トウキョウヒメハンミョウ》



 低山地の林道を歩いていると、飛び立っては数メートル先に止まり、近づくとまた飛び立って同じことを繰り返す虫がいる。このような習性から、『ミチオシエ(道教・路導)』とも呼ばれるハンミョウである。静かに近づいて観察すると、金属光沢を有する赤や緑の斑紋が美しい甲虫であることが分かる。かつては首都圏の平地の雑木林にも生息していたというが、現在では見かけることは少なくなり、すっかり山里の昆虫となってしまった。ハンミョウを漢字で書くと『斑猫』、英語では『Tiger beetle』といい獲物を見つけると素早い動きで、がぶりと食らいつくことから名づけられたと言われている。
 三浦半島の付け根にある葉山町に、大山林道という二子山に通ずる林道がある。首都圏では珍しく鬱蒼とした自然が残されていて、野鳥やトンボ、シダ植物の観察地として著名である。この大山林道の入り口には、ハンミョウがたくさん見られ、ハンミョウばかりでなくニワハンミョウも観察できる。以前この地を訪れた時、捕虫網を持った青年に出くわした。捕虫網から蝶の採集者だろうと思ったら、何とハンミョウを研究しているのだという。虫の世界で一番人気があるのは蝶で、次にカミキリムシという具合に続くが、ハンミョウを集めている人に出会ったのは初めてである。タマムシばかりを集めている人がいるというから、美麗なハンミョウだけを集めていてもおかしくは無い。
 私のような“昆虫なら何でもござれ”という専門が無い昆虫大好き人間が巡り会ったハンミョウの仲間は、残念ながらまだ数える程で、ハンミョウ・ニワハンミョウ・コニワハンミョウ・ミヤマハンミョウ・マガタマハンミョウ・トウキョウヒメハンミョウの7種である。日本には24種、世界には約2000種のハンミョウがいると言うから、集めがいも研究しがいもある甲虫で、世界を旅してハンミョウを探し求めている人もいるらしい。ハンミョウがいくら美しいからと言って素手で捕まえることは厳禁で、鋭い大顎でぐさりと痛い目にあう。なお、漢方で有名なハンミョウとは、ツチハンミョウやマメハンミョウで、ここで取り上げているハンミョウとは異なった科に属する甲虫である。
 さて、ハンミョウの仲間に興味を覚えたら、その姿かたちを頭の中にしっかり刻み込んで、付近の雑木林や公園に出かけてみよう。一戸建ての持ち主なら自宅の庭でもよい。1cm程の小さなハンミョウが葉の上に止まっているに違いない。トウキョウヒメハンミョウである。ハンミョウのような鮮やかな美しさは無いが、姿かたちは間違い無くハンミョウであることがわかる。こんな身近にハンミョウの仲間が生息していることを知ったら、今度は美しいハンミョウに会いたいと低い山に行きたくなるだろう。


<写真>ハンミョウ、ニワハンミョウ、ミヤマハンミヨウ、コニワハンミョウ、マガタマハンミョウ、トウキョウヒメハンミョウ。




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