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《オニヤンマ・コオニヤンマ・ウチワヤンマ》



 トンボの仲間の世界最大種は中南米のハビロイトトンボで、体長が12cm、羽を広げると20cmにも達するという。しかし、身体のがっちりさにおいては、我が国のオニヤンマが世界一ということで、日本には八重山諸島に産する世界最大級の羽の面積を有する蛾“ヨナクニサン”も産しているのだから、狭いながらも世界に誇れる昆虫が生息していることになる。このうちヨナクニサンは、絶滅が心配される程に個体数が減少していて、しかも、遠く八重山諸島まで出かけなければ観察できないのに比べ、オニヤンマはほぼ日本全国に分布し、普通に見られるのだからとってもうれしい。しかも、細い流れがあれば、都市近郊にも生息しているのだから、一度、観察に出かけて欲しいものである。
 オニヤンマは身体が大きいばかりでなく、飛ぶスピードもものすごく早く、餌を追いかけたり逃げる時には、なんと時速100 キロメートルにも達するという。オニヤンマの餌になる昆虫は同じ仲間の小型のトンボやチョウ等だが、時には恐ろしいスズメバチさえも捕らえるらしい。こんな頼もしいトンボの王様も、向かうところ敵無しがためか、以外とおっとりしている面もある。
 普通、オニヤンマは雑木林の縁や細流や農道などに沿って、陽が当たる所と日陰の境付近を往復して飛んでいる。時折、疲れた身体を休めるために、枯れた木の小枝に止まる習性がある。この習性を利用して、オニヤンマが休みたくなるような棒を見つけて来て地面にいくぶん斜めに刺して、遠くから眺めていると、案の定、止まってくれるから楽しくなる。この時がオニヤンマを至近距離で観察するチャンスで、うまく近づけば30cm位にまで近づくことができる。立てる棒は、オニヤンマが抱えるのに最適な直径1cm位のものが良く、竹のように表面がつるつるしていると、オニヤンマといえども滑ってしまう。
 秋が近づいて来ると、さすが頑丈なオニヤンマといえども体色は煤け、羽はボロボロに痛んで、時には飛べなくなって路上でバタバタもがいている。こうなっては、いづれ命は尽き果て、アリが群がって分解され、巣に運ばれてしまうことだろう。もがいているオニヤンマを手にとって、しげしげと詳細に観察してみよう。エメラルドのような輝きを持つ複眼は実に大きく美しい、獲物を捕らえて離さない足の刺や獲物にかぶりつく鋭い口器をみて驚くに違いない。誰が何と言ったって、オニヤンマはやっぱりトンボの王様なのである。
 最後に図鑑を開いてみると、コオニヤンマというオニヤンマに良く似た名のトンボが出てくる。しかし、コオニヤンマの複眼が離れていて、一点でくっついているオニオンマ科とは別グループのサナエトンボ科の仲間で、低山地の中流域で多く見られる。平地の雑木林のサナエトンボの仲間は数少ないが、初夏に自然度の高いフィールドでヤマサナエが、山すそでダビドサナエが発生する。











<写真>林道のオニヤンマ、谷戸田のオニヤンマ、オニヤンマの羽化殻、ウチワヤンマ、コオニヤンマ、ダビドサナエ、ヤマサナエ。



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