(33)やっと地上に現れ出ました
《アブラゼミ・ミンミンゼミ・ツクツクボウシ》



 ギラギした太陽が地平線に没して、ようやく涼しい風が吹き始める頃、アブラゼミやミンミンゼミの終齢幼虫が地中から這い出て来る。ニイニイゼミに約2週間遅れての発生で、後一週間もすればツクツクボウシも仲間入りすることだろう。アブラゼミやミンミンゼミは、ニイニイゼミと異なって都市部の公園にも多いから羽化の観察には最適である。長い丸5年にもおよぶ暗い地中の生活を終えて地上に現れるのだから、地表を這っている幼虫を踏みつけたりしないよう十分の注意が必要である。懐中電灯で照らしてみると落ち葉や木の根などで凸凹がある地面を一生懸命に這っている幼虫や、好適な場所を探して木の幹を忙しそうに登って行く幼虫に気づくことだろう。
 幼虫を発見したら、手で触ったり指でつかんだりすることは禁物である。少しでも怪我をすると完全な羽化には至らない。また、懐中電灯の光を照らし続けると不安になるのだろうか、足場を決めて羽化することをためらうようである。だから、ちょうど背中が割れ始めた幼虫を見つけるのが観察には最適で、なぜなら、背中が割れ始めた幼虫なら懐中電灯の光を照らし続けても、最後まで羽化をし続けるからだ。羽化に要する時間は1時間とちょっと、長いように思えるかもしれないが、神秘的な羽化のドラマはあっという間に終わってしまう。羽が完全に伸び切ったら観察は終了にしよう。羽の色が茶褐色になるまで待っていたら、短い夏の夜はすっかり明けてしまう。
 セミの寿命は昔から約1週間とされいて、儚い命の代表格であったが、最近の研究では約30日間にも及び、昆虫としては普通の寿命であることが分かって来た。また、アブラゼミやミンミンゼミは、9月に入ればすべて死に絶えると思っている方も多いと思うが、10月下旬まで生き延びる個体もある。さらに、セミが長い地中生活を送るのは、セミの食べ物である木の根の汁が栄養価が少ないためで、アロエやサトウキビの汁を吸わせて飼育すると、幼虫期間は大幅に短縮できるようである。このようにセミに関する研究は、このところ急速に進んで、いろいろな謎が次々と明らかになって来た。
 親子で楽しめるセミの観察の中で、虫メガネを通してセミの抜け殻で種類を当てるのも面白い。気分はまるで名高い昆虫研究家にでもなったようで、抜け殻の触覚が種の判別の決め手となる。抜け殻をたくさん集めて来て自宅で判別することも可能であるし、また、学校の庭、公園、池の周辺、雑木林とか場所で決めたり、公園の南側、北側、東側、西側などのように方位で決めたり、桜の木の周辺などのように樹木の種類で集める場所を決めたりしたら、きっと素晴らしい夏休みの自然研究ができるに違いない。
















<写真>ミンミンゼミ、ツクツクボウシの羽化、クマゼミ、アブラゼミ、アブラゼミの交尾、地面から顔を出したアブラゼミの幼虫、ツクツクボウシ、ミンミンゼミの羽化。



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