(34)日本一の力持ち
《カブトムシ・コカブトムシ》



 若いクヌギの幹に中型のカブトムシを見つけた。“しめしめ”と顔がにんまりとしたのも束の間、“おお何としたことかオオスズメバチもいる”としかめ面に変わった。オオスズメバチに刺されたら大変である。しかし、カブトムシも手に入れたい。ハムレットの心境となってしばらく立ちすくんでしまったが、そこは霊長類の王様、人間様だからと付近から細長い棒を見つけだし、カブトムシの角に棒を挟ませ引き剥がし、カブトムシを手に入れようと考えた。なかなかの名案だとほくそ笑んで棒を角の間に通すと、案の定、カブトムシは角でしっかりと挟んでくれた。すかさず引き剥がしにかかり、棒を横に動かしたが、長い棒のために思うように力が入らない。手前に引っ張れば良いと思ったが、するりと抜けてしまう危険性があると考え、棒を回転して引き剥がそうと試みた。力をいれると、なんと胸にある角の先端が折れてしまった。
 さすが昆虫界の王様の力は強い。角で挟む力も強いが足で踏ん張る力もなかなかのものである。本で調べてみるとカブトムシは、爪が良くひっかかる場所で引っ張る物に車を付けると、何と自分の体重の2000倍以上の物をひく事ができるという。人間なら100 トン以上の車を引く換算となり、とてつもなく力があることが分かる。子供の頃、素肌の腕からカブトムシを引き離そうとして、引っかき傷を作ったのは当たり前の事だったのだ。
 カブトムシは昼間でも見つけることが出来るが本来は夜行性の昆虫で、夕方になるとブーンと羽音を響かせながらクヌギやコナラの樹液を吸いにやって来る。懐中電灯を片手に見回ると、昼間とは異なって多数の個体を見つけることが出来る。毎年、夏の1シーズンに50匹以上のカブトムシを見つけるのだが、シーズン最初に出会った時には“今年もまた会えましたね”と微笑んで声をかけたくなる。子供の頃に遊んだ懐かしさと圧倒的な存在感が、普通種であっても素通りすることを許さない。きっと、100 年たっても1000年たっても、カブトムシは日本の子供たちのアイドルであるに違いない。
 カブトムシは鞘翅目(甲虫類)のコガネムシ科の昆虫で、カナブンやマメコガネなどと同じグループに属している。カブトムシに一番近いコガネムシは、その名もずばりコカブトムシである。いちおう雄は角をもってはいるが、頭に小さい角がはえている程度で、体長もカブトムシの半分にも満たない。平地の雑木林にも生息しているのだが、樹液には集まらないから見つけ出すのが難しい。かつて開発が進む前には灯火に多く飛来したが、小さくて角が無ければ子供たちは見向きもしない。カブトムシの親戚筋だがとっても地味な甲虫で、その生態についてもまだ良く分かっていないらしい。













<写真>雨宿りするカブトムシの雄、コカブトムシ、カブトムシの雄、カブトムシの雌、クロカナブン、カナブン、アオカナブン、シロテンハナムグリ、アカマダラコガネ。



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