クワガタムシという名は、田畑を耕す鍬から来ていると思っていたが、昔の武将の兜の角(鍬形)から由来しているのだという。英語では、スタッグ(牡鹿の角)ビートルと言い、いずれにしても立派な角のような大顎から名付けられている。昆虫に関心の薄い方にはクワガタムシの立派な大顎も、カブトムシと同じ構造なのではと思っている方も多いと思われる。しかし、良く見てみればすぐに分かると思うが、カブトムシの角は、頭部や胸部の皮膚が変形して出来あがった言わば本物の角で、クワガタムシの口器の一つである大顎が大きくなったものとは根本的に異なっている。その使用目的は共に武器で、カブトムシの角は上下に動き、クワガタムシの大顎は左右に動く。喧嘩したらどちらが強いかというと、どうもカブトムシに軍配が上がるようである。
クワガタムシの仲間は世界で約900種類、日本で約30種類生息しているが、すべてのクワガタムシが立派な大顎を持っているわけではなく、おしるし程度の小さなものも多い。首都圏の平地の雑木林で普通に観察できるクワガタムシは、ノコギリクワガタとコクワガタである。コクワガタは、お屋敷町として著名な東京都大田区田園調布の近くにも生息していて、小規模な緑地でも生息が可能のようである。かつて自然がたくさん残っていた頃には、多摩丘陵でもミヤマクワガやアカアシクワガタ、スジクワガタ等も生息していたが、今は山里に行かなければ見られないクワガタムシとなってしまった。
最も人気が高いクワガタムシはオオクワガタで、大きい雄は高値で取引されるという。夏になるとオオムラサキの観察に甲府盆地に出かけるが、ここはオオクワガタの産地としても著名で、夜になると地元の人は勿論のこと、東京方面からもオオクワガタを探しに多くの人がやって来る。また、冬期には幼虫や蛹、羽化したばかりの成虫を狙って、枯れたクヌギやコナラをナタで割って採集するらしく、あちこちにその傷痕が見受けられる。これではオオクワガタが絶滅してしまう。私もオオクワガタを撮影したいと頑張っているのだが上記のような状態では万が一の確率となってしまった。それでも熱意が天に通じたのか、オオクワガタの雌にたった一度だが出会うことが出来た。
年々少なくなって行くクワガタムシの仲間、特にオオクワガタは、前述した神奈川県藤野町の石砂山のギフチョウのように、地域を絞って全面採集禁止にし、地元で厳重に保護したらどうだろう。また、どうしても欲しい方々には養殖したものを売ってあげたら良いと思う。そこで得た代金でオオクワガタの生息地を増やして管理し、オオクワガタワールドを作って都会の子供たちに見に来てもらう。21世紀の古里再生、村興しのキーポイントは安易なテーマパーク造成などではなく、その土地土地の特色ある自然が大きくクローズアップされてしかるべきだろう。そうなったら私のような昆虫を撮影する人間にも大助かりである。
<写真>ノコギリクワガタのペア、ミヤマクワガタの雄、アカアシクワガタのペア、ミヤマクワガタの雌、ノコギリクワガタの雄、ノコギリクワガタの雌、コクワガタの雄、コクワガタの雌、スジクワガタの雄、スジクワガタの雌、オオクワガタの雌。