藪蚊の活動の静まるのを待って、夜の樹液酒場に集まる昆虫たちの観察に出かける。藪蚊は夕暮れ時が活動が一番活発となり、完全に暗くなると静かになる。夜中にブーンと来る家蚊とは習性がだいぶ違うようである。クヌギやコナラの樹液は、何遍も述べているように各種の昆虫たちの大好物であるが、昼と夜とでは集まるメンバーが大幅に異なる。昼は、各種のスズメバチやオオムラサキなどの蝶の仲間、カナブンやヨツボシオオキスイなどの甲虫の仲間が主体であるが、夜はカブトムシやクワガタムシ、カミキリムシの大物がぞくぞくと集まって来る。その他、各種の蛾の仲間も忘れられない存在である。
夜の観察で注意しなくてはならないことがある。まず、通い慣れた所であることが一番で、出来れば舗装された道路から観察できるような場所が良い。家族連れがカブトムシを探しに来るような所ならば、なお安心である。稀少種を手に入れたいが為に、危険な場所にまで探し回る方を見かけるが、身の安全と自然保護の両面から慎しみたい。懐中電灯は単一電池を4本使用する大型の物が良く、夏だからといってサンダル履きなどで出かけるのはタブーで、長袖長ズボンで出かけて欲しい。クヌギ林に到着したら、昼間確かめておいた樹液のしたたる木に注意するのは当然だが、その他の各種の木にもライトを当ててみよう。セミの羽化など思わぬ昆虫に出くわすことも多いからである。
夜の大物の筆頭はカブトムシなのだが、古武士のような面構えのミヤマカミキリも忘れられない。体長は大きいものでは5cmを越え、触覚は太くて体長より長く、前胸背には風格を漂わせる深い横縞を刻んでいる。滲み出る樹液に首を突っ込んでいることが多いが、太い幹を上下に行ったり来たりしている姿は暗闇の中では不気味に映る。夜間に活動するカミキリムシの仲間には、もう一種類大物がいる。ウスバカミキリである。ウスバカミキリは暗褐色の平べったいカミキリムシで、独特な格好からすぐに見分けがつく。樹液を吸いに来る訳でもなく、樹幹にじっと静止していることが多い。一体何をしに夜間現れるのだろうか。各種の図鑑を調べてみたが分からない。ことによったら夜中過ぎに活動を開始するのかもしれない。謎多きカミキリムシの一つである。
夜間の樹液酒場の常連は、大物の甲虫類だけではなく、各種の蛾も元気一杯に現れる。まず筆頭は、羽を閉じている時は見えないが、後翅に鮮やかな色彩の帯を持つヤガの仲間である。後翅に赤い帯を持つオニベニシタバ、黄色い帯を持つキシタバ、白い帯を持つコシロシタバの各仲間だ。この他、フクラスズメやトモエガの仲間、飛びながら樹液を吸うベニスズメやクルマスズメなどのスズメガの仲間も現れ、夜の宴会場は、昼にも増して各種の昆虫たちでとっても賑やかである。
<写真>ミヤマカミキリ、ウスバカミキリ、トモエガ、オニベニシタバ、キシタバ、コシロシタバ。