(38)昆虫界のキラキラ星
《タマムシ・ウバタマムシ・マスダクロホシタマムシ》



 東京都の八王子市小津町は静かで平和な山里である。タマムシの生態を知らない頃、何とかタマムシを撮影したいと真夏の真っ昼間に、小津町にあるケヤキの大木の下で半日も待っていたことがある。ケヤキの梢に数匹のタマムシが飛んでいて、伸ばすと5mにもなる捕虫網で捕らえて撮影しようと考えたのである。しかし、もうちょっとで届くという所まで降りて来るのだが、この作戦は見事に失敗に終わって、ずっと見上げていたので首がすっかりこってしまった。この大木のある家のおかみさんが、一体何をしているのだろうとやって来た。事情を説明すると、家の中に戻ってタンスの中にしまい込んであるタマムシを持って来た。なんとタマムシの他に、憧れのアオタマムシまで持っているのには驚いた。タンスの中にタマムシをしまっておくと、着物が増えると言われている。おかみさんは、古くからの言い伝えを忠実に実行していたのである。
 その後、ふとした事でタマムシの生態を知った。カミキリムシを撮影しようと切り出した丸太の積んである所を注視していたら、産卵に来たタマムシを多数発見したのである。信じられない光景に出会って、カメラのシャッターを押し続けたのは言うまでもない。タマムシは山から切り出した丸太が積んであれば、どこでも良いというわけでは無いようある。平地に近い山里の民家周辺や小道に積んであるサクラやケヤキ、エノキなどの広葉樹の丸太に産卵にやって来る。このタマムシの習性を知ってから、赤松の丸太ではウバタマムシやクロタマムシ、ムツボシタマムシ、欅の丸太ではケヤキナガタマムシ、桧の丸太ではマスダクロホシタマムシを発見した。
 タマムシの産卵を観察していると、丸太の上をよちよちと行ったり来たり、触覚をぴこぴこ動かして産卵に都合の良い小さな穴を発見する。発見したら触覚で穴の寸法や中の様子を探って、好適だと判断すると向き直ってお尻を向け、産卵管を伸ばして小穴に差し入れ、ホワイトクリームのような液とともに卵を生み落とす。後ろ向きになるわけだから、触覚で確認した穴をぴたりと当てるのは難しいはずなのに、ほんの少しずれることはあっても、ほとんど的中するのだから素晴らしい。
 タマムシと言えば、キラキラ光る羽を使って装飾した法隆寺の玉虫厨子が有名である。一体何匹のタマムシを使っているのだろうか、と各種の本を調べてみたが記載はない。しかし、相当な数に昇ることだけは確かだろう。法隆寺は聖徳太子が建立したといわれている。いくら自然が残っていたとはいえ、タマムシをたくさん集めるのは大変であったはずである。日本の歴史の中でも最も華麗な時代に、昆虫界で最も美麗なタマムシが利用されたことは興味深く、同時に、時の権力の強大さをタマムシを通して想像することが出来る。

<写真>タマムシ、ウバタマムシ、ケヤキナガタマムシ、クロタマムシ、マスダクロホシタマムシ、ムツボシタマムシ。



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