(39)私は農家の嫌われ者
《シロスジカミキリ・クワカミキリ・キボシカミキリ》



 オオムラサキ、カブトムシ、オニヤンマと各界の大物たちを紹介したのだから、日本のカミキリムシ界きっての大物、シロスジカミキリにも登場してもらわねばなるまい。かつては首都圏の雑木林でたくさん観察できたシロスジカミキリだが、最近ではすっかり鳴りを潜めてしまった。決して絶滅してしまったわけではなく、自然度の高い雑木林には確実に生息している。その証拠に、クリやクヌギ、コナラなどに、はっきりとした生息のサインが数多く見られる。そのサインとは、地上1メートル位の高さに、シロスジカミキリが卵から丸3年かけて成虫となって脱出した直径2cm位の穴や、産卵のために樹皮を丸く傷つけた跡である。どうして固い幹に穴を開けられるのだろうかと不思議に思うかもしれないが、鋭い大顎を見ればすぐに納得が行くはずである。
 シロスジカミキリがなかな見つけにくいのは、夜行性であることと高い木の上の小枝をかじって暮らしているためだと思われる。このため、シロスジカミキリがいそうな木を足で蹴ったり、長い棒で梢をたたいたりして地面に落とさなければ捕まえることは難しい。もっとも、昼間でも薄暗い所にあるコナラなどの若木を見て回れば、シロスジカミキリが産卵していたり、樹液を吸ったりしているのに出くわせる。薄暗い所で幹を登ったり降りたりしているシロスジカミキリは、その面構えからして不気味であり堂々としていて存在感があり、カブトムシやクワガタムシに決して負けない王者の貫禄を感じる。
 シロスジカミキリにはぜひ出会って欲しいが、シロスジカミキリが大好きな直径10〜20cm位のコナラやクヌギの木々が減少している。かつて雑木林は15年おき位に伐採され、薪や炭やシイタケのほだ木などに利用されていた。切り株からは再び芽が吹いて若々しい木に成長し、シロスジカミキリの生息には絶好であった。現在、首都圏の雑木林はまったくの荒れ放題で、クヌギやコナラ、クリなどの木々は、一抱えもある程の大木に成長している。このような状況だから、近場の雑木林で、シロスジカミキリにはなかなか出会えないかもしれないが、少し小振りになってしまうが、カミキリらしいカミキリ、クワカミキリやゴマダラカミキリ、キボシカミキリなら確実に出会えると思う。
 シロスジカミキリが栗の栽培農家の嫌われ者なら、大型のクワカミキリやとっても触覚が長いキボシカミキリは養蚕農家の嫌われ者で、蚕の餌であるクワの木の大害虫である。だからクワやコウゾ、イチヂクの木があったら必ず足を止めて、幹はもちろんのこと小枝にいたるまで詳細に探せば、皮をかじっている面々に出会えるはずである。言うまでもないが、養蚕農家が大切に育てている健康体のクワではなく、管理の行き届かないクワ畑や雑木林にあるクワやコウゾが絶好の狙い目となる。











<写真>シロスジカミキリの顔、シロスジカミキリ、シロスジカミキリの産卵痕、クワカミキリ、キボシカミキリ、センノカミキリ、ゴマダラカミキリ。


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