(41)奇麗所が大集合
《クジャクチョウ・キベリタテハ》



 毎週末フィールド通いで鍛えているとはいっても、首都圏平地の炎熱地獄を耐え忍ぶのは並大抵のことではない。しかも、高原の涼しい風と色とりどりの草花や昆虫たちを知っているのだから、年に一度や二度は高原へ出かけたくなる。高原での昆虫観察、特に蝶に関しては二つの発生ピークがあって、梅雨明けの7月20日前後と、ちょうどお盆休みにあたる8月中旬前後の二回である。一般の方々は前半の7月下旬のピークに休みを取ることは難しいが、8月中旬なら正々堂々と会社に夏季休暇を願い出ることが出来るに違いない。8月も半ばを過ぎると高原では、早くもススキが穂を出し、平地では10月の花とも言えるアキノキリンソウ、ツリガネニンジン、ワレモコウなどが見頃となる。しかも、淡い青紫が美しい高原でしか見られないマツムシソウが、いたる所に咲いて、各種のタテハチョウの奇麗所が吸蜜に現れるのだから最高だ。
 まずその筆頭はクジャクチョウである。羽をぴったりと閉じて止まっている時は暗褐色の羽裏しか見えないので、お世辞にも美麗とは言えないが、ひとたび羽を広げると、燃えるような真っ赤な地に青紫の紋が怪しげに光る。この紋が鳥のクジャクの羽に似ているので、英国でピーコックと呼ばれ、それがそのまま日本語訳となったのだろう。クジャクチョウはユーラシア大陸の北部に分布している典型的な旧北区の蝶で、日本では中国地方以南や四国には分布していない。クジャクチョウの幼虫は、ホソバイラクサなどのイラクサ科やカラハナソウなどのアサ科の葉を食し、夏早くと晩夏の計2回発生する。
 次に登場願うのは、上品なビロードのようなチョコレート色の地が、クリーム色の帯で縁取られ、その帯の内側に沿って、明るい青い小斑が鮮やかに並ぶキベリタテハである。クジャクチョウより大型で、やや高地および寒冷地に生息し、ユーラシア大陸の北部から北アメリカにも広く分布し、旧北区と新北区を合わせた全北区の蝶である。もちろん日本では近畿地方以南には生息せず、中部山岳地帯から北に分布している。キベリタテハの幼虫は、クジャクチョウと異なって草の葉ではなく、バッコウヤナギなどのヤナギ科やシラカバやダカンバなどのカバノキ科の木の葉を食し、年一回、晩夏に発生する。
 この他、やや地味になるものの平地に見られるヒオドヒチョウに似ているエルタテハ、キタテハの秋型に似ているシータテハも高原ならではの蝶である。その名の由来は、後翅裏面の白い紋が、アルファベットのLやCに見えるのでエルタテハ、シータテハと呼ばれ、食草はエルタテハがハルニレやシラカバ、シータテハがコアカソなどを食する。なお、シータテハは、英国の図鑑でもCの紋があると説明されているが、名前はなんとコンマ(,) である。

<写真>クジャクチョウ、シータテハ、エルタテハ、キベリタテハ、シータテハ、クジャクチョウ。




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