夏休みに緑豊かな山間地に出かけることがあったら、水銀灯や蛍光灯で明るく照らされている場所に出向いてみょう。カブトムシやクワガタムシなどの甲虫や各種の蛾の観察には絶好であるが、目を大きく開いてカマキリモドキを探して欲しい。カマキリモドキは日本に数種類生息しているが、体長が4cm以下の小型なものばかりで、その名の如くカマキリと瓜二つの鎌(捕獲肢)を持っている。カマキリはバッタやキリギリスなどが属する直翅目に近いカマキリ目(学者によっては直翅目カマキリ科とする説もある)に対して、カマキリモドキはツノトンボやウスバカゲロウなどが属する脈翅目(アミメカゲロウ目)の昆虫である。このようにカマキリとカマキリモドキは、分類上、相当かけ離れた存在にもかかわらず、昆虫を捕食して生活するという方向に進化したために格好まで同じようになってしまったのである。このような例は、動物界では数多く見られ、モグラと昆虫類のオケラの前足を思い起こせば“なるほど”と合点が行くはずである。
雑木林が近くにあれば、カマキリの鎌を普通の足に変え、複眼を小さくし、身体を細くしたようなグロテスクな昆虫が灯りにつられてやって来るかもしれない。後述するナナフシと異はなって羽を持つトビナナフシである。親戚筋のナナフシと同じように、美しい模様が刻み込まれた蓋の付いた樽形の卵を産む。トビナナフシの仲間は日本に数種類生息していているが、トビナナフシ、シラキトビナナフシ、ヤスマツトビナナフシが互いに良く似ている。しかし、前2種の卵の形と紋様は似ていて学者によってはトビナナフシと一括している場合もあるが、ヤスマツトビナナフシの卵は誰が見ても別種のものと直ぐに分かる。
トビナナフシより尚一層、草木の枝に擬態している羽の無いナナフシやエダナナフシも見分けがつきにくい。しかし、本州にはナナフシ(ナナフシモドキ)と触覚の長いエダナナフシの2種類しか生息していないので何とかなる。成虫は極似しているが卵は全く異なっていて、ナナフシは萎びたソラマメ、エダナナフシは茄子のようである。ナナフシは漢字では節のある竹の小枝に似ているので“竹節虫”となるが、食事のメニューはコナラやサクラなどの広葉樹で、竹の葉は食べないと思われる。以上のようにトビナナフシやナナフシの仲間は、身体が小枝に似ているばかりか、卵までもが種子に似ているという、実に熱心に擬態に取り組んだ虫たちである。時間があったら、ナナフシの仲間の卵を図鑑でとっくりと鑑賞して頂きたい。
この他、カマキリモドキと同じ脈翅目のオオツノトンボやキバネツノトンボ、ツノトンボの仲間も、とっても奇妙な虫だと思うのだがいかがだろうか。
<写真>ヒメカマキリモドキ、キカマキリモドキ、エダナナフシ、トビナナフシ、キバネツノトンボ、ツノトンボ、オオツノトンボ、ウスバカゲロウ、ウンモンヒロバカゲロウ、クサカゲロウの一種、トゲナナフシ。