(47)僕たちが赤トンボです
《アキアカネ・ナツアカネ・ミヤマアカネ・ノシメトンボ》



 保育社の原色日本昆虫図鑑によると、わが国には日本本土に133 種類、琉球列島に40種類、小笠原諸島に5種類の合計178 種のトンボが生息していると記載されている。その中で赤とんぼの仲間のアカトンボ属(Sympetrum )は21種類も生息するとあり、トンボの仲間の大所帯である。特に、都市周辺の開発の進んだフィールドではトンボの種類は減少していて、赤とんぼの仲間が占める割合は、種類数だけではなく個体数においても他のトンボを圧倒している。平地の雑木林周辺や田畑で見られる赤とんぼは、個体数の多い順にアキアカネ・ナツアカネ・ミヤマアカネ・マユタテアカネ・ヒメアカネの5種類で、この他に、所によってはノシメトンボ・コノシメトンボ・リスアカネが加わる。
 赤とんぼの仲間が最も多く見られる時期は、水田の稲が実り、もうすぐ刈り入れ時となる9月下旬の頃である。見られる場所は種独自の生態的な要素も加わって、アキアカネとナツアカネは田んぼや田んぼの近くの畑などに多く、ミヤマアカネは、圧倒的に個体数の多い前2種に気後れするのかのように、フィールドの端っこのほうに慎ましく場所を占めている。マユタテアカネは雑木林の裾に多く、ヒメアカネは雑木林の小道を少し登った、木漏れ日が射す半日陰の様な場所に見られる。なぜ、秋になると赤とんぼが多くなって、目立つようになるのだろうか。夏の間、発生場所から数十キロ離れた山や高原に避暑に出かけていたアキアカネが、産卵のために池や水田のある里に帰って来るのが一番の理由で、次に雄の身体がその名の通り真っ赤に色づくからだろう。しかし、そればかりではないようで、他の赤とんぼの仲間たちもアキアカネ程には移動しないものの、夏の間、観察がしにくい場所、例えば、雑木林の中や日陰などに潜んでいるのではないかと思われる。ことにナツアカネは初夏から夏にかけての正体は不明で、一体どこで暮らしているのであろうか。
 赤とんぼと言えば棒の先にテリトリーを張っている姿が印象的で、飛び立っては小さな蚊や蠅を捕らえて戻り口をもぐもぐ動かして食べ終わると、また獲物が来るのを目をギョロギョロさせて待っている。直射日光が強いとお尻を持ち上げて、身体にあたる光の量を減らす得意技を持ち、逆に、気温が低い午前中は身体を太陽に直角にして暖をとっている。しかし、10月半ばを過ぎると棒の先には止まらなくなって、日だまりの落ち葉や暖まった樹の幹などに止まるようになる。棒の先では寒くてしょうがないのだろう。こんなに秋が深まっても生き残っているところをみると、発育が遅れて子孫を残していないのだろうか。赤とんぼは最も見慣れている昆虫のはずだが、観察のしがいのある昆虫の一つである。


<写真>ミヤマアカネ、アキアカネ、ナツアカネ、ノシメトンボ、コノシメトンボ、マユタテアカネ、ヒメアカネ。



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