温度と湿度が異常に高い真夏に、急な上りが続く雑木林の小道を歩くのは辛かったが、澄み切った秋の青空が現れると広い青空をもっと見たくなって、小道を登って丘の上まで行くことが多くなる。首都圏には谷戸と呼ばれる小さな谷間に水田が、水田を囲む斜面に雑木林が、斜面の上には畑が広がっている。丘の上の畑の土壌は関東ロームで、たいがいサツマイモ畑が広がっている。サツマイモは1492年にコロンブスがアメリカ大陸からスペインに持ち帰り、日本には1655年に長崎の平戸に入って全国に広がったと言われている。また、1732年の亨保の大飢饉の時には、その真価を大いに発揮して多くの人命を救い、徳川幕府は青木昆陽に命じて栽培の普及に力を入れたのは有名な話である。サツマイモは日本人にとって、とても有難い作物なのである。
そんな思いを浮かべながら、もうすぐ収穫期に入るサツモイモ畑の脇の未舗装の農道を歩いていると、沢山のバッタやコオロギが飛び出してくる。大物は前に紹介したトノサマバッタやショウリョウバッタなどだが、今回は目を凝らして、こちらから注視しなければ確実に通り過ぎてしまう微小なバッタやコオロギを見つけてみよう。まずは予行練習にヒシバッタに挑戦だ。大きさは6〜10mmで、形はその名の由来となった菱形で、体はザラザラとしていて褐色の地に様々な斑紋がある。一番多く見られるものは二つの黒い紋がある型で、中には黄褐色の帯が胸から尾端まで通っているものもある。じっくりと斑紋の変化を味わっていたいのだが羽があっても飛べないものの、よく跳ねててこずらせるやんちゃ坊主である。ヒシバッタの仲間は水田に多く、やや大きいトゲヒシバッタやハネナガヒシバッタなど5種類が知られている。
次にコオロギの仲間のマダラスズに目の焦点を合わせてみよう。うんざりする程の多さにびっくりすることだろう。こんなにいたのと驚くに違いない。後ろ足の腿の部分が白と黒のまだらになっているのが特徴で、もちろんその名の由来となっている。最後に目が小さいものに慣れたところで、体長5mmの極小のバッタであるノミバッタに挑戦だ。体色は黒褐色で畑の土と同じような色をしているから見つけ出すのは大変かもしれないが、ヒシバッタやマダラスズで予行練習をしているから見つかる筈である。顔は触覚が複眼の下に付いていて可愛らしく、羽はあるが飛べず、そのかわりに後足の腿が異常に発達していてノミには負けるが良く跳ねる。また、オケラのように土に穴を掘ることも得意で、おまけに水に落ちるとよく泳ぐという。ノミバッタの小ささは驚きだが、肉眼では観察不可能のもっと小さいトビムシやカマアシムシなどの虫が地中にはうようよいるのだから、地球は確かに昆虫の星である。
<写真>ヒシバッタ、ヒシバッタ、トゲヒシバッタ、ハネナガヒシバッタ、マダラスズ、ノミバッタ。