昆虫界のドラキュラ(殺虫鬼)と言ったら、誰もがすぐに頭に浮かぶのはカマキリであろう。逆三角形の小さな顔をしていて、頭部はよく動き、何とも言えぬ目で微笑むような睨むようないやらしい目で見つめられると、ぞっとするご婦人も多いことと思う。カマキリは、5月ごろ卵からかえって夏には成虫となっているのだが、秋に入って見かけることが多く、秋も深まり気温が低くなると、日だまりで暖をとっている個体に出くわす。首都圏の平地のフィールドで普通に観察できるカマキリの仲間は、大きい順にオオカマキリ、チョウセンカマキリ、ハラビロカマキリ、コカマキリの4種類である。この他、多摩川の河川敷では、ウスバカマキリも観察できるという。
この中で、オオカマキリとチョウセンカマキリは非常に似ていて、オオカマキリは、後翅基部の黒紫の部分が広いので見分けがつく。しかし、そのためには、カマキリを素手で捕まえなければならない。前足(鎌)の部分を揃えて持てば良いのだが、そううまくは行かずに鎌に挟まれることも多い。痛いことは痛いが血が出る程では無く、だからと言って長く挟まれていると辛く、一度地面に逃がしてまた掴み直すことになる。もっと簡単な見分け方はないものかと本で調べてみたが、決定打が見つからない。こんなに似ているというのに、卵(卵のう)の形はまるっきり違うのだから面白い。
ハラビロカマキリは、オオカマキリやチョウセンカマキリをずんどうにしたような体型で、慣れればすぐ見分けがつくようになる。しかも、前翅に白い点が付いているので見間違うことはまず無い。他の3種が主に草むらが生活の中心なのに比べ、ハラビロカマキリは樹の上が好きなようで、夏の間は、セミやアオマツムシなどを捕食する。晩秋になってこれらの獲物が減少すると、花に訪れる昆虫を狙いに降りて来る。しかし、卵のうは樹の幹に生み付けるのが普通で、また、良く陽が当たる樹の幹で日向ぼっこをしているのを見ると、樹こそハラビロカマキリの生活の場であると納得する。
コカマキリは、その名の通りだいぶ小型で緑色の個体は少なく、ほとんどが褐色の個体である。前足(鎌)の内側に黒色の帯に白点を配した独特の紋があるので容易に区別がつく。コカマキリは樹に登ることはほとんど無く、主に雑草の生い茂る農道や田畑の縁を生活の中心としていて、秋になるとヒガンバナで獲物を狙っている個体に良く出くわす。カマキリの観察は成虫の時も面白いが、後述するように北風に吹かれながら、それぞれに異なった卵のうを探し歩くのも面白い。種ごとに異なる卵のうと生み付けられた場所を比較するば、自然界の多様性と不思議に迫れる程のテーマとなる。
<写真>オオカマキリ、威嚇するオオカマキリ、チョウセンカマキリ、ハラビロカマキリ、コカマキリ。