(55)私たちは飛べません
《アオオサムシ・ヒメオサムシ・エゾカタビロオサムシ》



 空を飛ぶ動物といえば、誰もが鳥を思い起こすに違いない。しかし、鳥が出現した1億5千年前よりずっと昔に、昆虫たちはすでに空を飛んでた。初めて空を飛んだ昆虫はカゲロウの仲間と言われ、続いてトンボの仲間がより力強く空に飛び出した。今から3億年以上も昔の古生代石炭紀の頃である。空に飛び上がってしまえば天敵はいないし、移動能力も飛躍的に増大して大発展を遂げたのは言うまでもない。現在の昆虫たちの最大の敵である鳥が出現するまで、同じ昆虫による捕食はあったにしても、昆虫というグループにとっては天国が続いたようなものである。しかし、そうした飛ぶという最大の能力を放棄したものがたくさんいるのも、昆虫ならではの面白い現象である。また、飛ぶということを放棄した鳥の仲間が滅びの道を歩んでいるものが多いのに対し、飛ぶということを放棄しても昆虫の仲間はさらなる繁栄を続けているようである。こんなところにも昆虫の適応能力の素晴らしさを見る思いがする。
 飛ぶことを放棄した昆虫で、まず思い出すのはオサムシの仲間である。鉄腕アトムで有名な漫画家の故手塚治氏のペンネームの“治”はオサムシから来ているのはあまりにも有名な話である。首都圏平地ではアオオサムシが最も普通で、これにクロナガオサムシや灯火にやって来る飛ぶことの出来るエゾカタビロオサムシ、カタツムリが大好きなヒメマイマイカブリ、やや山地性の小型のヒメオサムシが加わる。これらのオサムシの仲間は、昼間は落ち葉や石の下などに隠れていて夜になると活動を開始する。このため私達のごく身近に生息しているにもかかわらず、見たことが無い方が多いようである。最も普通に見られるアオオサムシは緑色の金属光沢を持つ美しい甲虫で、主にミミズを食べると言われ、時には地面に接して噴き出しているクヌギの樹液を吸っていることもある。冬期は後述するように、朽ち木や土の中で成虫で越冬する。
 飛ぶことを放棄して歩くことだけに専念しているアオオサムシやヒメオサムシは移動能力が減じているため、急峻な山や大きな川や海峡を渡ることが出来ない。このため地方ごとに独自な進化を遂げて、地方亜種に分けられる程にまで分化している。例えばアオオサムシでは房総半島の山間部に暗銅赤褐色のアカオサムシが、愛知県にはやや小型で赤銅色または黒色のミカワオサムシが、近畿地方北部にはマヤサンオサムシが、静岡県にはシズオカオサムシがといった具合に地方的変種や亜種が知られている。
 オサムシ科ではないが近縁のゴミムシの仲間は非常に似ているものも多く、また、その名のようにゴミの中や草の根際に生息していて、見つけてもすばしっこくてすぐ隠れてしまうため撮影が難しい。こんな習性もあって一般の方には馴染みが薄いと思うが、何とか撮影できたものを紹介しておく。草むしりの時などに、是非、注意して欲しいものである。



<写真>アオオサムシ、ヒメオサムシ、ヒメマイマイカブリ、エゾカタビロオサムシ、オオマルガタゴミムシ、キボシアオゴミムシ。



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