木々の葉もすっかり開いて、爽やかな青空に若葉が美しい。こうなるとスプリング・エフェメラルの植物たちも、春の饗宴の幕を閉じなければならない。この頃、雑木林の小道を歩いていると、何やら黒い甲虫が地面を這うように低く飛んでいるのに出くわす時がある。それ程のスピードではないので、手のひらで“飛ぶのはおよし”と軽くはたくと地面に落ちることだろう。とっさの不意打ちでびっくりした甲虫は、おとなしく地面にうずくまっているに違いない。近づいてじっくり観察してみよう。飛んでいる時は黒く見えたが、黒紫のつやつやとした金属光沢を持った丸っこいコガネムシであることが分かる。センチコガネである。どういう訳かは分からないが、センチコガネは春から初夏にかけて良く出くわす。幼虫で越冬して春に成虫になるので、お腹を空かしていて餌を探し求めているのかもしれない。センチコガネの大好物は何と動物の糞なのである。
 コガネムシの仲間の中で動物の糞を餌にしている一群を、昆虫愛好家は“フン虫”と呼んで専門に収集しているマニアがいる程の人気者である。○○センチコガネとか、○○ダイコクコガネとか、○○エンマコガネとか、○○マグソコガネ等という名が付いている。首都圏平地の雑木林では、餌になる動物の糞が不足しがちで、センチコガネを除けば小さなフン虫がほとんどだが、高原の牧場へ行くと、立派な角をはやしたダイコクコガネやゴホンダイコクコガネなどに出会えるはずである。とは言っても、牧場の中の牛や馬の落とし物を移植ゴテでかき分けたり、ひっくり返したり、糞の下の土を掘ったりといった、ご婦人たちにはまこと卒倒するようなことをせねばならない。奈良公園や春日大社周辺には、鹿がたくさんいるのでフン虫もたくさん生息していて、センチコガより美麗な緑色やルリ色に輝くオオセンチコガネにも出会えるという。
 フン虫が糞の清掃人なら、動物の遺骸が大好きなシデムシ(死出虫)の仲間も、雑木林になくてはならぬ清掃人である。特に首都圏平地ではミミズが這い出る梅雨時にたくさん現れる、藍色の弱い金属光沢を持つ黒くて平たいオオヒラタシデムシが最もポピュラーな存在である。太いミミズの遺骸にかぶりついているのに良く出くわし、カップルが仲むつまじくしていることも多い。次に、オオヒラタシデムシと格好は同じだが前胸背が朱色のベッコウヒラタシデムシやヨツボシモンシデムシも少ないながら観察できる。真っ黒で大きなクロシデムシ、黒地に橙色の紋を持つマエモンシデムシなどは、自然度が相当に高い所に行かないと見られない。自分のフィールドにどんなシデムシが生息しているのかを調べるには、紙コップに腐肉を入れて地面すれすれに埋めておく罠(トラップ)を仕掛けるのが一番で、自然度を計る重要な物差しともなっている。
 フンムシにしてもシデムシにしてもあまり馴染みたく無い虫かもしれないが、生態系の中での物質循環の重要な位置を担っていて、彼らがいなけりゃ、糞も遺骸も長い間、フィールドに横たわっていることだろう。



<写真>センチコガネ、ムネアカセンチコガネ、センチコガネ、ヨツボシモンシデムシ、オオヒラタシデムシ、ベッコウヒラタシデムシ。




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(8)雑木林の清掃人
《センチコガネ・オオヒラタシデムシ》