(1)
「おもしろ昆虫記」を始めたのだから、その花編が無くては寂しいなと思って、とても大変だけれど始めます。
昆虫と異なって花については多くの文献を読まなければ書けないので、カタツムリの速さでやって行きます。
No.1 タネツケバナ/ユキヤナギ/ミツマタ/ナズナ/スギナ/ヒメオドリコソウ/ネコヤナギ/セツブンソウ/ザゼンソウ/ジンチョウゲ/ウグイスカグラ/サンシュユ/フキノトウ/アセビ/オウバイ/クロッカス/オオイヌノフグリ/フクジュソウ/シナマンサク/ニホンスイセン。 No.2 ムラサキサギゴケ/ハコベ/ヤマブキ/ナシ/チューリップ/シャガ/カタバミ/ニリンソウ/ヘビイチゴ/フデリンドウ/タチツボスミレ/ムラサキハナナ/カントウタンポポ/カラスノエンドウ/スイバ/レンゲソウ/クサボケ/ヒトリシズカ/ハナモモ。 No.3 スイカズラ/ナワシロイチゴ/ハコネウツギ/ミヤコグサ/ノアザミ/ニワゼキショウ/タツナミソウ/ゼニアオイ/エゴノキ/ムラサキカタバミ/シロツメクサ/シャクヤク/キツネアザミ/キンラン/イカリソウ/イチリンソウ/キンセンカ/スズラン/クマガイソウ/カキドオシ/ジシバり。No.4 シモツケ/ホタルブクロ/アジサイ/ビョウヤナギ/ウツボグサ/ハナショウブ/キンシバイ/オオテンニンギク/オオキンケイギク/ツユクサ/ヘラオオバコ/コンフリー/ミカン/カルミヤ/ウツギ/アカツメクサ/クサノオウ/イボタノキ/ドクダミ/スイカズラ。No.5 シュウメイギク/ヤマホトトギス/ツリフネソウ/ゲンノショウコ/ジュズダマ/フヨウ/ベニバナ/シシウド/ハス/キキョウ/ヒャクニチソウ/ヘメロカリス/ルドベキア/オカトラノオ/ネジバナ/ナツツバキ/ビロードモウズイカ/ワルナスビ/ポーチュラカ/クチナシ。
水とは縁が切れません(タネツケバナ)
アブラナ科タネツケバナ属タネツケバナ(種漬花)、日本全土
縮こまってまだ充分に成長して無いが花を付けている株を厳冬期に田んぼで見かけるが、3月に入ると陽光の強さと比例して株が大きくなり、時には田んぼ一面を覆っているのも良く見かける。そうなると真っ白な田んぼとなって、とても奇麗である。その名の由来は、苗代に蒔く種籾を水に漬ける頃に花咲くからとある。分布は日本全土で日本在来種と思われがちだが、多くの水田の雑草と同じように、稲作文化が日本に到来した弥生時代に渡来した史前帰化植物であると言われている。タネツケバナの仲間は水と縁が深くて、流水沿いや渓流沿いにヒロハコンロンソウ、オオバタネツケバナ、エゾワサビ等が知られている。葉や茎を噛むと辛いことから「タガラシ」とも呼ばれ、柔らかい葉や芽を摘んで、おひたしや辛子和え、汁の実等に利用できるとある。しかし、あまりにもあり過ぎてか、タネツケバナを摘んでいる方を見かけたことが無い。また、漢方としては下痢止めや整腸作用があると言われている。
<2003年3月24日、東京都町田市図師町>
柳ではありません(ユキヤナギ)
バラ科シモツケ属ユキヤナギ(雪柳)本州関東以西、九州
名前にヤナギと付くし、葉がヤナギに似ているし、ヤナギのように風に揺れるからヤナギの仲間だと思っている方が多いと思う。しかし、バラ科のシモツケ属に属していて、シモツケやコデマリに近い仲間である。別名をコゴメバナと称されるが、一つ一つの花を観察してみれば分るように、バラ科特有の花弁が五つにはっきりと分かれている。花が咲いてない時には、これといった特長もなく風情や魅力を感じさせない低木であるが、ひとたび純白の花を付けると目が眩む程の鮮やかさになる。特に桜やレンギョウなどの他の花木の根元にたくさん植えられていると、他の樹木の花と相まって、春の華やかさを一層盛り上げる。図鑑によると川岸の岸壁の割れ目や岩礫地で、川が増水すると水に洗われるような所に自生しているとある。このためか日当たりが良く水はけの良い所を好み、挿し木で簡単に増やせ、寒さにも強いことから管理のし易いものとして公園や庭園に盛んに植えられている。また、日本に自生しいるものは栽培品が野生化したものであるという説もある。
<2003年3月18日、東京港野鳥公園>
お札の紙の原料です(ミツマタ)
ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属ミツマタ(三叉、三椏)、中国原産
ミツマタはご存知のことと思うが、和紙の原料となる。ミツマタの樹皮は丈夫で、ガンピと同様に高級な和紙作りに利用されるという。千円札や一万円札を出して来て「なるほど、これがミツマタから作られたのか」と思っても良いようである。我が国では四国の山の中で、斜面を利用して栽培されているという。枝を刈り取って蒸し、皮を剥いで、更に外側の皮を剥ぐという大変な手作業の末に、紙漉きされて和紙になるのだという。原産地は中国で、江戸時代に渡来した。名前の由来は、枝が必ず三つに分かれていることより来ていて、丸い独特な花が咲いてなくとも識別は容易である。ミツマタの花は3月中旬に開花するのだが、厳冬期に銀色の毛に包まれた蕾も独特で美しい。また、開花してからの花期が長いことや挿し木で増やせることもあってか、公園等にも植栽されている。また、一口にミツマタと言っても各種の品種があるようで、花の塊(頭状花序)の大きさが野球のボールのような大きなものや、アカバナミツマタと呼ばれる紅色のものもある。
<2003年3月19日、小石川植物園>
ペンペングサです(ナズナ)
アブラナ科ナズナ属ナズナ、日本全土
田園地帯へ行けば何処にも普通なのに、江戸時代には七草粥の時に、ナズナ売りの声があちこちで聞かれたというから不思議である。現代の新暦による1月7日の七草粥の頃は、まだ地面にへばりついている状況だから、良く知ってないとナズナを摘むのは難しいが、旧暦だと普通、新暦の2月に入ってからだから、さほど摘むのに難しくは無いはずである。江戸庶民も近くに行けばいくらでも摘めたのに、それが面倒臭かったのかもしれない。ナズナは子供の頃ペンペングサと呼んでいて、何個もの果実を引っ張って、葉柄の根元に茎の繊維を1cmくらいつけてブラブラさせ、茎を回したり振ったりすると、果実がぶつかってペンペンと鳴らした遊びが懐かしい。別名のペンペングサはこの音より由来するものかと思っていたら、ペンペンと弾く三味線のばちのような格好の果実から来ているとある。上記した七草粥や手入れをしないでほったらかしで荒れ果てた状況を「ペペングサが生える」と言うほど、日本人にとても馴染みの深い植物だが、史前帰化植物であると言われている。
<2003年3月16日、町田市小野路町>
本名はツクシではありません(スギナ)
トクサ科トクサ属スギナ、沖縄を除く日本全土
ツクシ誰の子、スギナの子と歌われるように、ツクシはスギナのいわば花で胞子を作る器官である。このためツクシという名で図鑑を引いても出てこない。スギナが本名なのである。大人でそれを知っていない方は皆無だと思うが、子供にそれを信じさせるには、掘って、地下茎で繋がったスギナとツクシを見せてやるしかない。ツクシと言えば思い出すのがその味覚、私が一番好きなのは、油で炒めて醤油で味付けしたものだが、この他、天婦羅、卵とじ、佃煮といった調理法がある。スギナと言えば思い出すのが子供の頃の遊び、茎の鞘に囲まれた節の部分で茎を離し、また元の鞘に戻して「何処が接いである」と当てさせる遊びである。この遊びを「接ぎ松」というらしい。そう言えばスギナは何処となしに松葉に似ている。最近、ツクシがたくさん生えている所を探すのが大変になったが、地方に行くと群生していて、夕飯のおかず位はすぐ摘める。スギナが属するトクサ科は古生代石炭紀が全盛で、石炭の元となったが、現在では世界で25種、日本で9種と数えるほどとなっている。
<2003年4月19日、神奈川県愛川町八菅山>
粋な畑の雑草です(ヒメオドリコソウ)
シソ科オドリコソウ属ヒメオドリコソウ(姫踊子草)、ヨーロッパ原産。
ヒメオドリコソウは明治の中頃に日本に侵入を果たした、ヨーロッパ原産の帰化植物である。花の付き方や縮れた葉を見ると、なる程と納得が行くように、食用とするシソに似ている。花は早いものだと1月の中旬頃から咲いているものもあるが、この頃は茎が地を這い全体もかなり小さい。まだ、霜も雪も降ることもあるのだから地面にへばりついている訳である。しかし、3月に入ると茎は垂直近くに立ち、全体も大きくなって花の数も多くなる。ヒメオドリコソウの名の由来は、日本原産で雑木林や竹林の藪のような所に見られるオドリコソウの小さいものということで、オドリコはオドリコソウの花が傘を被った踊り子の姿に似ていることより由来している。ヒメオドリコソウもオドリコソウも、葉や茎を折ったり揉んだりするととても嫌な臭いがする植物としても著名である。ヒメオドリコソウは典型的な畑の雑草だが、畑の雑草の多くは窒素の要求度が高く、特にヒメオドリコソウはその傾向が強くて、畑の耕作を休むとすぐに進入して来て群落を作るという。
<2003年3月10日、神奈川県平塚市土屋>
早春の陽に光ってます(ネコヤナギ)
ヤナギ科ヤナギ属ネコヤナギ(猫柳)、北海道、本州、四国、九州。
ネコヤナギを知らない方は、いないだろう。その名の由来となった猫の尻尾のような白銀に輝く花の穂は独特である。別名カワヤナギと呼ばれるように、川沿いの湿地に株立ちして生えるとあるが、首都圏平地の河川改修が進んだ河川や小川で、自生しているものを見かけることはほとんど無い。しかし、春を告げる貴重な存在として何処の植物園や自然公園に行っても、一株くらいは植えられている。独特の花の穂は余りにも有名だが、花については意外と知らない方が多いようである。雌雄別株で、雌花をつける株と雄花をつける株とが違うのである。紅色の葉柄に包まれていたは花の穂は、春が近づくにつれて顔を出し、3月に入ると成長して葉が出る前に咲き出す。雌花はクリーム色一色で風情は感じられないが、雄花は紅色の葯と葯が破れて覗かせる黄色い花粉、少し残った白銀色の綿毛が作り出す花は独特で美しく、一度見たら好きになること請け合いである。果実は綿毛に包まれた種子を出すと言うから、ネコヤナギに綿毛はつきものとの感が強い。
<2003年3月5日、栃木県栃木市星野>
儚い早春の夢(セツブンソウ)
キンポウゲ科セツブンソウ属セツブンソウ(節分草)、本州関東地方以西。
栃木県栃木市星野では、例年3月1日頃に満開になるので、その名のごとく節分頃に咲くようには思われない。しかし、図鑑によると多くの自生地では、やはり節分頃に開花するらしい。写真を見ての通り、寒風や低温、時には雪が降ることも多い節分頃に咲いて、本当に大丈夫なのかしらと思うほどの可憐な花である。スプリングエフェメラルと呼ばれる、落葉樹の葉が生い茂って林床に光が届かなくなるまでの間に、大急ぎで咲いて子孫を残し、光合成をして夏になると全てが跡形も無く消えてしまう植物がある。このため「春の儚い命」とも呼ばれていて、セツブンソウはそのトップバッターで、落ち葉の間から顔を出す。このため下草が伸び放題の雑木林等では生育できない。また、セツブンソウは石灰岩質の土壌を好むようで、関東地方では自生地が少なく、上記の他に埼玉県の両神村の四阿屋山が有名である。セツブンソウは日本特産種であるが、レバノンに黄色の近縁種が自生していて、厳しい岩肌に咲いて「聖地の贈り物」と言われているそうである。
<2003年3月5日、栃木県栃木市星野>
一度見たら忘れない(ザゼンソウ)
サトイモ科ザゼンソウ属ザゼンソウ(座禅草)、北海道、本州中部以北。
サトイモ科と言えば熱帯や暖かい地方のものとばかり思っていたのだが、このザセンソウとミズバショウは寒冷な地域まで広がった異端児である。一度見たら忘れられない黒ずんだ赤紫色に見えるのは包葉で、仏炎ほうと呼ばれ花びらではない。花は仏炎ほうの中に鎮座する楕円形のいがぐり頭のような格好をしたもので、葉は花が終わってから伸び始める。その名の謂われは、達磨禅師が座禅を組んでるように見えるので、そう名が付いたと言われ、このため別名「ダルマソウ」とも呼ばれている。まだ嗅いだことはないのだが、その臭いは強烈らしく一度嗅いだら忘れられない悪臭だと言う。アメリカ東海岸に近縁のものがあり、その名もずばり「スカンクキャベツ」と呼ばれているそうである。また、ミズバショウにもサゼンソウ程では無いが悪臭があるそうだ。いずれにしても、ミズバショウとサゼンソウは、まだ雪が溶け切らない大地から顔を出す、北国の春を知らせる尖兵とも言える存在で、日本にはこの他、花が少し小さく花期が遅いヒメザゼンソウがある。
<2002年3月1日、栃木県大田原市>
ほのかな臭いで誘います(ジンチョウゲ)
ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属ジンチョウゲ(沈丁花)、中国原産
暖かい日に住宅街や公園等を歩いていると、ほのかな甘いジンチョウゲの花の香りが漂って来る。その芳を嗅ぐと「春だな」と感じる方も多いのではなかろうか。ジンチョウゲは室町時代に渡来した中国原産の樹木である。その名の由来は香りが熱帯産の香木「沈香」と、熱帯産のフトモモ科の常緑高木からとる香辛料である「丁字」に例えたものであるという。ジンチョウゲは雌雄異株で、日本にあるものはほとんど雄株で実がつかないようだが、稀にある雌株に付く実は赤くてコショウのように辛いとある。ジンチョウゲ科の樹木には和紙の原料となるミツマタやガンピがあり、ジンチョウゲの茎を折ってみれば分るように、その樹皮は非常に強靭で、このような性格からか挿し木で簡単に増やせるから、庭付きの家に住んでいる方なら、ちょっと一枝をご近所から貰い受けて増やして欲しい。また、香りだけでなく蜜も美味しいものらしく、山里に咲くジンチョウゲに、あの幻の蝶とも言えるほどに稀少になったギフチョウが吸蜜に訪れていたのが忘れられない。
<2003年2月21日、東京都小石川植物園>
雑木林の提灯花(ウグイスカグラ)
スイカズラ科ウグイスカグラ(鶯神楽)、北海道、本州、四国、九州。
ニワトコの花も早く咲くが、首都圏平地で最も早く咲く樹木の花と言っても間違いでは無いであろう。雑木林の中の落葉低木として普通に見られ、名前の由来は定かではないものの、一説にはウグイスが初めて鳴く頃に花開くので、そう名付けられたという説もある。また、チョウチンバナという方言もあるようで、黄色い雄しべや雌しべがちょこんと顔を出した、淡紅色の5裂に割れる漏斗状の花冠が垂れ下がっ咲く様は、なる程と頷ける。しかし、高級電化製品として売られている洒落たデザインの照明器具と形容した方が、現代でマッチする。また、ウグイスカグラは初夏になると可愛らしい格好の真っ赤な実を付け、各種のお菓子など売られていない頃、子供たちのおやつとして大切な役目をしたが、現代では口に含む子供を見たことが無い。また、山村ではちょうど田植えの頃の6月に熟すので「田植えグミ」と呼ばれているそうであるが、横浜ではウグイスカグラを、別名タワラグミとも呼ばれるナツグミと区別するために、ただ単に「グミ」と呼んでいた。
<1999年2月21日、東京都神代植物公園>
春黄金花とも言います(サンシュユ)
ミズキ科サンシュユ、中国、朝鮮半島原産。
ウメが満開になる頃咲いて、梅林近くに植えられていると、白梅、紅梅、そしてこのサンシュユの黄色と華やかさが一層増したものとなる。サンシュユという名は中国名を音読みしたものだが、牧野富太郎博士は「春黄金花」と呼ぼうと提唱したようである。しかし、何処の植物園に行ってもサンシュユと書かれていて定着はしなかったようだ。確かに春になると黄色い花が枝一杯に咲くのだから、この名も捨てがたいが、小判を連想させる「黄金」という言葉に現世的な欲望を感じて、花のロマンは失われてしまう。サンシュユは江戸時代(1720年頃)に渡来したもので、最初はボタンやウメ等と同じく薬用植物として寺に植えられていたいう。漢方では赤く熟した実から種を除いたものを乾燥させて用いる重要な生薬で、また、果実を酒に浸して作る果実酒は強壮強精作用があるそうで、元気の無くなった男性に絶好の妙薬秘薬である。花は黄色い火花が飛び散っているように咲き、古木になると樹皮が剥がれて淡褐色のまだらとり、見間違うことの無い独特なものである。
<2003年3月1日、東京都東京港野鳥公園>
ほろ苦さが最高です(フキノトウ)
キク科フキ属フキ(蕗)、本州、四国、九州、沖縄。
小林一茶の句に「草の戸に春は来にけり蕗のとう」とあるように、フキノトウは春を告げる最も身近な存在である。しかし、都市化が進んだ現在、かなり遠くの山里へ行けば普通に見られるのだが、首都圏平地のフィールドでは見つけることが難しくなった。なぜなら、フキは各所に生えているのだが、その早春のほろ苦さを天婦羅で味わいたいと、地面に顔を出したら最後、人の手によって摘まれ、胃袋の中に直行してしまうからである。先日、都立東京港野鳥公園なら誰も採らずにあるだろうと出かけたのだが、人目のつかない場所のフキノトウは、フキノトウの天婦羅が大好きな方によって採られてなくなっていた。フキほど我々人間に多くの恵みを与えてくれる植物も珍しい。フキノトウは言うに及ばず、葉柄はキャラブキに、葉は佃煮にと日本人に無くてはならい味覚である。雪国のものほど香りが高く美味だとある。なお、北海道や本州北部では、葉柄が2m、葉が1m以上になるアキタブキが生えているというから、その眺めはとても雄大なことに違いない。
<2003年3月1日、東京都東京港野鳥公園>
奈良公園の鹿も食べません(アセビ)
ツツジ科アセビ属アセビ(馬酔木)、山形県宮城県以南。
山形県宮城県から九州までの山の尾根などの乾燥した痩せ地に見られ、自生種は花が白い。写真のアセビは「アケボノアセビ」と言って園芸品種で、公園に行くと必ず植栽されていると言っても良い程のお馴染みの花である。アセビは葉を噛むと苦く、有毒植物で鹿も食べないから奈良公園にはアセビの木が多いとある。鹿ばかりでなく、漢字で馬酔木と書くように、馬がアセビの葉を食べると酔っぱらってしまうらしい。馬酔木と言えば短歌の雑誌があったことを思い出す方もいるかもしれない。また、このためか馬酔木という名の喫茶店も多いと言う。何となく郷愁を感じさせる名前である。アセビは前の年の秋頃に小さな蕾を付ける。それがだんだん暖かくなり、何べんも雨が降ると大きくなって色づいてくる。殊に写真のアケボノアセビは、艶々としていて先端がピンク色の可愛い下を向いた壷のような蕾を房のようにたくさん付け、先端が5裂すると開花したことになる。なお、花言葉は「あなたと二人で旅をしよう」と言うことらしいが、どうしてだろう。
<2003年3月1日、東京都東京港野鳥公園>
風に揺れるジャスミンです(オウバイ)
モクセイ科オウバイ(黄梅)、中国原産
オウバイは江戸時代に中国から渡来したモクセイ科ジャスミン属の仲間である。中国では「迎春花」と言い、他の花に先駆けて咲き出す。この木の枝はいくらか蔓性があるようで、家の石等の土留から垂れ下がるように咲いている。この土留めの高さが高いと、まるで天空から降って来るように咲いて、実に見事である。オウバイはジャスミンの仲間だけれど香りは無く、良い香りがするのは白い花が咲くソケイやマツリカ(茉莉花)と呼ばれるジャスミンで、暖かい地方でしか生育しない。ジャスミンは夜に開花して素晴らしい芳香を放ち、この花から香水のジャスミンがとれるのである。また、花を早朝に摘んできて乾燥させ、お茶の葉に混ぜてマツリカ茶、ジャスミン茶として飲用する。なお、フィリピンの国花はマツリカであるサンパギータ、インドネシアの国花はジャワソケイで、みなオウバイ属の香り高き花である。また、ソケイは漢字で「素馨」と書き、中国で名高い美女の名で、女優の岡田茉莉子さんの茉莉はマツリカからとられた芸名であるという。
<2000年3月5日、横浜市港北区新吉田町>
花言葉は青春の喜びです(クロッカス)
アヤメ科クロッカス、地中海沿岸原産。
クロッカスの花言葉は「陽気」とか「青春の喜び」と言うのだそうである。まだ霜が降り寒風が吹く時もある早春の2月に、地面に松葉のような葉が現れ、風船のように蕾が膨らんで、しばらくすると暖かい日に風船が破れるて地面に灯かりが点る。特に黄色い品種のマンモス・イエローが沢山咲いていると、まさに花言葉の「陽気」が花壇一杯に感じられて、そこだけ暖かい陽炎が立ち上っているように感じられる。ヨーロッパでは、雪解けと同時にいっせいに咲き出すというから、一度、クロッカスを見にヨーロッパへ旅行したいものである。また、花言葉の「青春の喜び」という表現はとっても素適である。両親の愛情溢れる元に過ごす幼少期はそれはそれで楽しいのだけれど、自我に目覚め、無限の可能性に胸躍らせる青春期、そしてその喜び。クロッカスは寒い冬をじっと球根で地中で耐え、太陽の光が強さを増して地面を温め始めると咲き出す。こんなに的を得た花言葉はないのではなかろうか。写真はリメンブランスという青紫の品種で、この他、白や絞りなどの花色がある。
<2000年3月7日、厚木市自然保護センター>
野原に青い水溜り(オオイヌノフグリ)
ゴマノハグサ科クワガタソウ属オオイヌノフグリ(大犬陰のう)、ヨーロッパ原産
新年明けて最初に野原で見られる花は、コバルトブルーが美しいオオイヌノフグリであろう。陽光が輝きと強さを増して来ると野原の所々に群落が広がって、まるで青空を映しこんだ水溜りがあるようである。場所によっては青々とした海が広がっているような景観を感じさせる大群落まで出現する。こんなに日本の風土に溶け込んでいるのに、明治17年に牧野富太郎博士が上野で発見したのが最初で、大正年間に全国に広がったとある。もともと日本に自生していたのは小さな花のイヌフグリであるが、このオオイヌノフグリやタチイヌノフグりに押されて山里に少数残っている状況だとある。オオイヌノフグリの群落を覗いてみると萎れた花など一つも見当たらない。それもそのはずでオオイヌノフグリは1日花なのである。ヨーロッパでは「聖女ヴエロニカの草」と呼ばれ、写真家や画家の守護聖人としてあがめられているそうである。聖女ヴエロニカとは、ゴルゴタの丘に向かうキリストの汗をハンカチで拭い取った女性の名で、オオイヌノフグリの属名にもなっている。
<2003年2月9日、東京都町田市小野路町>
春の光の落と子です(フクジュソウ)
キンポウゲ科フクジュソウ属フクジュソウ(福寿草)、日本・中国東部・シベリア原産。
幸福の福に長寿の寿、福寿草はとっても目出度い名前の花で、正月を飾る鉢物に欠かせない。旧暦の正月ならぴったりなのだが、フクジュソウの花期は関東地方の平野部では2月中旬で、正月の鉢物は促成栽培で開花を早めたものだという。寒が明けた2月とはいえ寒さは相変わらずで、太陽の光が次第に強くなってくると、フクジュソウは待ってましたとばかりに地面を割って現れ、暖かい灯かりの火を灯す。それもそのはずで、フクジュソウと同じ仲間のキンポウゲ科の春の田んぼに普通に見られるケキツネノボタンやタガラシと同様に、花弁に独特のてかりがあって、太陽の光を反射させるのである。福田蓼汀の句に「福寿草家族のごとくかたまれり」とあるが、何年もたって株が大きくなると沢山の花が固まって咲き、冷たい風の中で励ましあって生きてるようで、まるで暖かい家族のように思えたのもの肯ける。フクジュソウは可憐な花だが根にアドニンを含み有毒で、強心剤や利尿剤に使われるが副作用が強く、薬事法で劇薬とされているとある。
<2002年3月7日、栃木県栃木市星野>
黄色い紙切れがついてます(シナマンサク)
マンサク科マンサク属シナマンサク(支那満作)、中国中部原産。
枝一杯に咲くので「豊年満作」、一年のまず最初に咲くので「まず咲く」が訛ってマンサクとなったとどの図鑑にも書いてある。私のような首都圏平地の植物園やフィールドで花の写真を撮る者にとって、一年の最初に咲く花はソシンロウバイやロウバイだが、山地の野生種においてはマンサクが一番先に咲くのだろう。山野に自生するマンサクを図鑑で見ると、葉が全て落ちた枝にシナマンサクより小ぶりで明るい黄色の花が枝一杯に咲いている。ここで紹介する中国中部原産のシナマンサクは、枯葉を残したままで花を付ける。しかし、植栽されている場所によってか多く残っているものから、ほとんどなくなっているものまである。また、花も小枝の先端近くに咲くようで枝一杯とは言いがたい。以前、とある自然公園へ出かけたら、係りの方が一生懸命にシナマンサクの枯葉を挟みで摘み取っている。何をしているのだろうと思ったら、見る方に美しく見てもらうために取っているのだという。写真を撮る者にとっては有り難い事だが、自然のままで良いのではなかろうか。
<2003年2月25日、東京都町田市薬師池公園>
寒の内から咲いてます(ニホンスイセン)
ヒガンバナ科スイセン属ニホンスイセン(日本水仙)、地中海沿岸地方原産。
ここではニホンスイセンと表記したが一般にスイセンとも呼ばれ、伊豆半島の爪木崎、淡路島、越前海岸に群落を作って自生しているものの原産地は地中海沿岸地方で、日本には江戸時代に中国経由で渡来した。私の住んでいる横浜では12月中旬になると咲き出して、2月一杯咲き続けている。その間に雪が降ろうが寒波が襲って来ようが咲き続けるのだから、別名「雪中花」と言われるのも頷ける。花言葉は「自己愛、自惚れ」である。属名のNarcissusはギリシャ神話の美少年ナルキッソスから来たもので、水面に映った自分の姿に恋をして死んでしまう話は有名である。花言葉はここから来ているようである。しかし、ギリシャの詩人ホメロスは「水仙は驚異の花。不死の神々にも、現し世の人間にも、燦然と輝く高貴な姿を見せてくれる」とあると言う。純白な花びらに黄色の副花冠、そして緑色のすっと伸びた葉、、こんなにシンプルな花はそうないと思う。なお、球根は有毒で、消炎や鎮痛作用があり、肩こりや腫れ物に有効であると言われている。
<2003年1月19日、神奈川県秦野市震生湖>