おもしろ昆虫記
(1)

美しい虫、可愛い虫、面白い虫、奇妙な虫、面白い習性の虫等を、つれづれなる気ままに取り上げて行く
ページです。ゆっくりやって行きますが、どんな虫が登場するのか自分でも楽しみです! ことによった
ら全ての虫に興味深々の私のですから、途方も無い数を取り上げることになるかもしれませんね。


No.1 ヤマトシジミ/ギンイチモンジセセリ/コアシナガバチ/コバネイナゴ/ギフチョウ/モンシロチョウ/ハンミョウ/エサキモンキツノカメムシ/タマムシ/ジンガサハムシ/マダラアシゾウムシ/ラミーカミキリ/トラフカミキリ/ヤマトシリアゲ/イタドリハムシ/ウシカメムシ/シロコブゾウムシ/キノカワガ/アカスジキンカメムシの幼虫/マダラマルハヒロズコガの幼虫。 No.2 ルリボシカミキリ/ヒシバッタ/ノミバッタ/コカマキリ/テングチョウ/ベニシジミ/トノサマバッタ/カワトンボ/コツバメ/アオマツムシ/キベリタテハ/シオヤトンボ/ミヤマセセリ/ホタルガ/カラスアゲハ/アブラゼミ/アオオサムシ/マメコガネ/オオスズメバチ/オンブバッタ。 No.3 コチャバネセセリ/ホソオビヒゲナガ/ガカナブン/ウスバシロチョウ/アオスジアゲハ/テントウムシ/オオニジュウヤホシテントウ/カブトムシ/マルカメムシ/ツマキチョウ/コシアキトンボ/オオシオカラトンボ/チャイロオオイシアブ/アカスジキンカメムシ/ヨコズナサシガメ/ウズラカメムシ/アカガネサルハムシ/スジグロシロチョウ/ビロードツリアブ/コガタルリハムシ。 No.4 キバネツノトンボ/ツバキシギゾウムシ/コジャノメ/サトキマダラヒカゲ/サビキコリ/イチモンジチョウ/コミスジ/オトシブミ/ヒメシロコブゾウムシ/カワゲラ/ベニカミキリ/アオカミキリモドキ/カツオゾウムシ/カメノコテントウ/ジョウカイボン/ミヤマカワトンボ/ヤマサナエ/ダビドサナエ/クモガタヒョウモン/ダイミョウセセリ。No.5 オオムラサキ/ヒオドシチョウ/コクワガタ/ノコギリクワガタ/ミヤマクワガタ/アゲハモドキ/オオミドリシジミ/ミドリシジミ/ゴイシシジミ/ウラナミアカシジミ/キマダラセセリ/カノコガ/ゴマフカミキリ/ミズイロオナガシジミ/ヒメシジミ/ゲンジボタル/アカシジミ/ウラゴマダラシジミ/コアオハナムグリ/ホシハラビロヘリカメムシ。No.6 ツノアオカメムシ/ヒメカマキリモドキ/ノコギリカミキリ/ヤブキリ/スミナガシ/ウスバカミキリ/コシロシタバ/オニベニシタバ/アサギマダラ/スジボソヤマキチョウ/ヒカゲチョウ/キンモンガ/アミガサハゴロモ/ヒグラシ/ナキイナゴ/コムラサキ/ウバタマムシ/ゴマダラカミキリ/キマワリ/ホソバセセリ。No.7 シンジュサン/クルマスズメ/ミヤマカラスアゲハ/キアゲハ/アカタテハ/クジャクチョウ/カンタン/トゲアリ/ショウリョウバッタ/コノシメトンボ/ミンミンゼミ/ツクツクボウシ/アオバハゴロモ/スケバハゴロモ/アオイトトンボ/キイトトンボ/モノサシトンボ/ルイスアシナガオトシブミ/ジャノメチョウ/ベニヒカゲ。

最も普通な日本の蝶(ヤマトシジミ)

 東京のど真ん中の公園や住宅街でも、土さえあれば必ずお目にかかれる日本の蝶の中で最も普通の蝶である。最も普通の蝶と言えば、一般の方はモンシロチョウやアゲハチョウを思い出すに違いない。確かにそうかもしれないが、絶対的な個体数から言ったらヤマトシジミが断然多い。しかし、余りにも小さいし、地面すれすれを自己主張無く飛んでいるので気づかないのだろう。雄の羽の表面は水色に輝くなかなかどうして可愛らしく美しい蝶なのである。花の写真を撮っていて「カタバミという花は、とっても可愛らしいですね。黄色い花の造りも、尖がり帽子のような実も」と同好の趣味の方が、かつてフィールドで言われたのを思い出す。カタバミは何処にでもあって、それこそ日本の野花の普通種なのだけど、余りにも小さいがために注目されない。ヤマトシジミはそのカタバミを幼虫の食草としている。何の因縁か最も普通な黄色い可愛い花を咲かすカタバミと最も普通な可愛い水色のヤマトシジミの関係。なんだかこの関係は微笑ましさで一杯である。ヤマトシジミは4月に現れて、第2化が出現する6月までは少し間があくものの、その後は断続的に発生して晩秋まで見られる。なお、帰化種である大きな花をつけるムラサキカタバミは食べないと言う。
<1990年8月25日、神奈川県横浜市港北区>

ススキの原の住人です(ギンイチモンジセセリ)

 雑木林のススキの原の住人といえば、ジャノメチョウや各種のバッタやキリギリス等を思い出すが、ギンイチモンジセセリは雑木林のススキの原は好みではない。もっと湿気がある場所が好みのようで、河川敷や高原のススキの原が大好きである。ギンイチモンジセセリの首都圏での発生時期は、ゴールデンウィークの前後と夏になる。写真は春型で、後翅裏面に一文字の銀白条が目立つが、夏型は黄褐色となって地色に溶け込んでほとんど目立たなくなる。ギンイチモンジセセリがギンイチモンジセセリたるのは春型である。ギンイチモンジセセリは、意外と私たちの近くの川原にも住んでいるのだが知らない方が多い。誰だって、ヘビが出そうなアシやオギやススキが混生している河川敷に分け入って行く勇気が出ないからなお更だ。しかし、そのような場所でも釣り人やオフロードバイクや4輪駆動車がつけた小道が必ずあるもので、そんな所なら安心して観察できるから行ってみよう。5月初旬でもススキは芽を出したばかりで、枯れたススキの間を縫うように銀色の帯を陽に光らせながら弱々しく飛んでいるのを見つけることだろう。ちょうどその頃、河川敷のススキの原が大好きなミヤマチャバネセセリや、ツマキチョウ、ヒメウラナミジャノメ等にも出会えるだろう。
<1999年6月5日、山梨県山中湖村平野>

お母さんは強いです(コアシナガバチ)

 初夏の頃、地面に突き刺してある皮を剥いだ丸太の杭や樹木の支えに使われている丸太に、アシナガバチの仲間がやって来て、大顎で一生懸命に表面を削っている。何をやっているのだろうと不思議に思った。丸太を食べてもセルロースはあるかもしれないが、肉食性のアシナガバチには栄養にならないだろう。そんなことを思っていたら、昆虫図鑑に巣を作る繊維を集めていると紹介されていた。口の中の唾液と混ぜて薄く伸ばし、巣の材料にするのである。この巣の材料にはヤニの成分も混ざっているらしく防水性に優れ、もちろんその強度も抜群らしい。遠い昔、古代中国で、このアシナガバチの巣作りの観察によって紙が発明されたと言われている。ここに紹介したコアシナガバチ等のアシナガバチの仲間やあの恐ろしいスズメバチの仲間は、女王蜂だけが単独で越冬する。そして春の訪れと共に目覚めて、最初は一人で巣作りを始めるのである。写真を見て頂ければ分るように、女王蜂はとっても可愛らしい巣を作る。その巣房の中に白い卵を生み育てて子供が成虫になると、やっと女王を手伝う働き蜂となり、今度は共同作業で巣をどんどん大きくして行くのである。どこかに写真のような小さな巣を見つけたら、足繁く通って観察されたら面白い。
<1997年4月29日、神奈川県横浜市港北区>

水田の落し子です(コバネイナゴ)

 イナゴは漢字で書くともちろん「稲子」で、イナゴなくして健全たる水田はないし、食べても心配ない米は取れないといっても過言ではない。戦後、DDT、BHC、パラチオン等と言う強力な殺虫剤によってイナゴが水田から姿を消していた時代もあったが、現在では何処へ行っても見られるようになった。米どころの茨城県の雑木林に囲まれた水田に行ったら、昔のようにザザーと言うほどの音を立ててイナゴが逃げた。こんなに沢山いるならイナゴの佃煮用にすぐに捕れるのにと思ったのだけど、最近、イナゴの佃煮は人気が無いようである。我が家でもイナゴの佃煮を食べられるのは私一人、しかも家族の「信じられない」という目を掻い潜って食べなければならないのである。しかし、イナゴを昔のように食べなくなると少なからず米の減収に繋がるだろうから、少し骨っぽいけど積極的にイナゴを食べて、稲作栽培とイナゴの生息の共存をはかって、いつまでも安心な米を食べたいものである。なお、平地の水田にいるのはほとんどがコバネイナゴで、イナゴの佃煮もコバネイナゴがほとんどだという。しかし、山里や谷戸田の奥には尾端より羽が長いハネナガイナゴも生息しいて、日本にはもう一種、仙台平野で見つかったニッポーイナゴがわずかながら生息していると言う。
<1999年9月20日、神奈川県中井町雑色>

里山の春の女神です(ギフチョウ)

 桜の花がもうすぐ咲くという頃になると、蝶に興味を持つ者は毎年そわそわとし始める。この時期にしか現れない春の女神と言われるギフチョウに会いたいが為である。例年なら3月下旬から4月上旬なのだが、2002年は異常な程の春の進み具合で、3月の中旬に早々と発生していた。もちろん、桜の花も開花していたのだから、ギフチョウに会うには桜の開花が目安となる。かつては多摩丘陵の北部、現在の中央大学が建つ辺りにも多産していた。ギフチョウの食草はカンアオイの類で、里山が大切に維持管理されていないとカンアオイは消滅してしまうのである。5月の初旬に、遠く新潟や山形、長野へ行くと、残雪を残した山々の麓に、野草の女王とも言うべきカタクリが一面に咲いて、ギフチョウが吸蜜にやって来る。こんな光景を目にしたいがために、私は毎年遠路遥々遠征する。一般の方には奇印の人と思われるかもしれないが、その美しさを知ったら虜になるに違いない。近場でも神奈川県藤野町の石砂山には、地元の方々の努力によってギフチョウが保護されて必ず見られる。カタクリこそ咲いていないがタチツボスミレ、ヒトリシズカ、クサボケ、シュンラン等の春の花を観察しながら、雑木林の疎林の中を舞うギフチョウに是非会いに行って欲しい。
<2001年4月11日、神奈川県藤野町石砂山>

キャベツ畑で待ってます(モンシロチョウ)

 「ちょうちょ、ちょうちょ、菜のはに止れ、菜のはに飽いたら桜に止れ」と童謡にあり、切手にも登場して、日本の蝶の中で最も普通種と言えるのがモンシロチョウである。しかし、モンシロチョウは中国大陸から渡って来た外来種と言われ、アブラナ科の栽培種が導入された頃に渡来したというのが一般的な見解である。その頃まで、白い蝶と言えばスジグロシロチョウとエゾスジグロシロチョウだけであった訳で、タイムマシーンでもあれば、モンシロチョウが舞う以前の日本のフィールドに立って見たいものである。モンシロチョウは2月に入って暖かい日が続くと羽化が始り、初めて見た日が「モンシロチョウの初見日」と呼ばれ、全国的な統計がとられている生物暦の指標種である。前述の童謡の菜の花はモンシロチョウの大好きな花として異論はないが、桜の花にもやって来るのだから間違いとは言えないが、春のモンシロチョウの大好きな花は、写真のように路傍に咲くタンポポが筆頭である。モンシロチョウの幼虫はキャベツの葉が特に好きで、キャベツ畑があればその上に数匹のモンシロチョウが舞っているのが普通である。しかし、著名な高原の広大なキャベツ畑には一匹たりとも見当たらない。強力な殺虫剤の散布ではなく冷涼な気候のためと思いたいが。
<1991年5月18日、神奈川県横浜市港北区>

昆虫界の猫ちゃんです(ハンミョウ)

 ハンミョウを漢字で書くと「斑猫」になる。写真のように赤、紺、白の斑紋が散りばめられていて、殊に頭部は光り輝く金属光沢を持った美しい甲虫である。これで「斑」に関しては納得されたと思うが、「猫」に関しては分らない。共に肉食性の動物だから?と思ったのだが、図鑑で調べてみると、猫は獲物に背を低くして近づくが、ハンミョウも獲物を見つけると背を低くして近づくからとある。なるほどそうかと昔の人はハンミョウの習性を良く知っていたのだなと感心する。この美しいハンミョウは自然度の高い丘陵や山里の舗装されていない道を歩いていると良く出会う。人が接近すると飛び立って数メートル先に着地する。また近づくと同じ動作を繰り返す。このため道案内をしているようで「ミチオシエ」、「ミチシルベ」等とも呼ばれている。幼虫は土の中に穴を掘って獲物が近づくのを待ち伏せ、獲物が穴に近づくと物凄い速さで顔を出して喰らい付き、引きずり込んで捕食する。こんな習性を昔の子供たちは良く知っていて、ニラのような細長い葉を穴に差し込んで吊り上げるという遊びがあったそうである。逃げ足がとても速いから素手で捕まえることは難しいが、捕虫網で捕らえても、とんでもなく鋭い牙(大顎)で噛み付かれたら大変だから、気をつけて観察しよう。
<1999年9月11日、神奈川県城山町八菅山>

ハートマークの臭い奴(エサキモンキツノカメムシ)

 自然観察が好きでフィールドへしょっちゅう出かける方なら、一度と言わず何べんも観察したことがあることだろう。黄色いハートマークをつけたエサキモンキツノカメムシである。ミズキという樹木を知っているだろうか。春に小枝を折ると延々と止め処も無く涙を流す木である。田舎で育った方ならミズキの小枝で「かぎっこ相撲」をした経験をお持ちの方も多いはず。そのミズキの葉が大好きなのがエサキモンキツノカメムシなのである。特に、6月頃や越冬前の12月初旬、ミズキの大木の周りの木々や草の葉上を探すと、たくさん見つけることが出来る。まだ私は観察したことが無いのだが、生んだ卵の上に四つんばい(昆虫だから6つんばいが正解かな?)になって、天敵から卵を守る習性は有名である。エサキモンキツノカメムシはとても長い名であるが、各種の図鑑を調べてみても出ていないのだが、私の想像では昆虫学者の江崎悌三博士が見つけたか同定した紋が黄色いツノカメムシと言うことなのだろう。良く似たものに背中の紋が角の丸い逆正三角形のモンキツノカメムシ(マルモンツノカメムシ)という山地性のものがいて、こちらも同じく卵を守る習性があるという。写真は間違いなくハートマークで、首都圏にいるのはエサキモンキツノカメムシである。
<1998年6月1日、神奈川県秦野市渋沢丘陵>

昆虫界の飛ぶ宝石です(タマムシ)

 飛ぶ宝石と言えばカワセミを思い出すが、昆虫界ではタマムシが筆頭である。タマムシを見なくなりましたね!と良く質問されるが、個体数はかなり減じているものの、かなりの雑木林が残されていれば少なからず生息している。モダンな町並みが続く港北ニュータウンの公園にもいるのである。しかし、真夏の炎天下のエノキやケヤキの梢を旋回していて降りて来ないのだから、なお更、見る機会が減っているのだろう。以前、奥多摩の山里で沢山飛んでいる梢を見上げて半日も粘ったのだが、手の届く所まで降りて来なかった。タマムシを至近距離で見るには、広葉樹の皮がついたままの丸太や薪が沢山積んである場所に行けば産卵にやって来た雌に出会える。だから、梢を見上げて生息を確認したら、そのような場所を見つけて見回れることが大切となる。昔からタマムシを箪笥の中に入れておくと着物が増える、すなわちお金持ちになって幸せになると信じられていて、前述した山里に住むご婦人は、それを実行してのには驚いた。また、タマムシを持っていると人に恋慕されるというから、異性にもてない私にはもってこいかもしれない。タマムシは中国では吉丁虫と書くのだそうで、正倉院の玉虫厨子には、何と4500匹の玉虫の羽が使われているのだとある。
<2000年8月19日、東京都町田市小野路町>

コンタクトレンズ虫(ジンガサハムシ)

 5月頃、良く行くフィールドで知り合いの方が、さっきコンタクトレンズのようなキラキラ光る虫を見つけたんだけど何ていう虫?と質問してきた。私が昆虫のことを良く知っているから聞けばすぐに分ると思ったようだが、コンタクトレンズのような?と聞き返したまま考え込んでしまった。そこで、昆虫好きの仲間に援軍を求め協議した結果、どうやら写真のジンガサハムシということに落ち着いた。亀のような虫とか陣笠のような虫と言ってくれたら即答出来たのに、コンタクトレンズのような虫では考え込んでしまう。しかし、よくよく見ると、この方の観察眼の鋭さは素晴らしい。黒褐色の模様があるものの、半球形で透明でキラキラ光っているのだから、誰かが草の葉の上に落としたコンタクトレンズに見えて来る。ジンガサハムシは昔の書物に「金亀子」と書かれているらしく、昔の方の観察眼も素晴らしい。しかし、標本にするとこの輝きは消えてしまうそうである。ジンガサハムシは、ハムシとつくように葉っぱが大好きな甲虫で、ヒルガオの葉を丸く穴をあけて食べる。しかし、人間の接近には敏感だから、ゆっくりとその美しさを鑑賞したいのだがすぐに飛び立ってしまう。なお、ジンガサハムシと同じカメノコハムシ類は、首都圏平地のフィールドでも5種類くらいは楽に見ることが出来る。
<2001年5月12日、神奈川県横浜市港北区>

写真写りが悪すぎます(マダラアシゾウムシ)

 昆虫の写真を撮っていて上手く撮れないのは、まず第一は撮影技術が未熟ということなのだろうが、絵になる場所に絵になるようにいてくれなければ、優れた技術も発揮できない。故秋山庄太郎先生にスタジオで写してもらえばバッチリなのだろうが、人間の場合でも写真写りが悪い方がいる。昆虫でもいくら努力してもなかなか上手く撮れない昆虫は確かにある。自由自在のライティングが出来ない屋外ではなお更だ。その筆頭とも言えるのが写真のマダラアシゾウムシである。マダラアシゾウムシは樹肌に擬態している。そんなに凝らなくても良いのにと思う程に、身体中の細部に至るまで、念入りに凝りに凝っているのである。マダラアシゾウムシは、コナラやクヌギの樹液で観察することが多かったから、てっきりこれらの木の樹肌に擬態しているのだと思っていた。しかし、その奇怪な姿を昆虫好きの知人に見せたくて、その習性を各種の図鑑で調べたら、ヌルデの老木や衰弱した木に多いとある。そこで、そのようなヌルデがたくさんあるフィールドへ行ったら、いるわいるわでびっくりした。マダラアシゾウムシはヌルデの樹肌(写真はコナラ)に擬態していたのである。恐らく始めての方は、ヌルデの幹にいるマダラアシゾウムシを、樹肌の瘤に思うに違いない。
<1996年8月10日、神奈川県横浜市港北区>

カミキリ界の貴公子です(ラミーカミキリ)

 
歳が分ってしまうがジェス・ハパーが活躍したララミー牧場のララミーではない、ラミーである。ラミーとは一体何んであろう。この正体が知りたくて大きな図書館へ行って百科事典を紐解いたことがある。ラミーとは英名で、東南アジア原産のイラクサ科の植物であるチョマのことである。茎から麻を採るのである。日本にも西日本に行くとお目にかかれるらしいが、日本では同目的でカラムシ(別名:マオ)が古来から利用されていた。カラムシは何処にでもある。農家の方が刈り取っても、いつのまにか同じ場所に同じように群落をつくる強靭な多年草である。このカラムシを含めたイラクサ科の植物は昆虫たちに縁が深く、アカタテハの食草でもある。ここで紹介するラミーカミキリも、6月頃、低山地に成虫となって現れ、葉を後食する。一般にカミキリムシと言えば、幼虫が樹木を食すると考えがちだが、キクやヨモギを食べるキクスイカミキリなど幼虫が草の茎を食べるものもいるのである。写真をじっくりご覧いただければ分るように、ラミーカミキリはなかなか素晴らしいいでたちで、胸部の緑色が一際目立つカミキリ界の貴公子である。しかし、じっくり観察しようと近づくとすぐに察知されて飛んでいってしまう困り者でもあるが、中には気の良いものいるから粘ってみよう。
<1996年6月1日、神奈川県秦野市弘法山>

スズメバチではありません(トラフカミキリ)


 とある横浜の自然公園で、昆虫好きの人たちと公園内を歩いていたら、桑の古木でトラフカミキリ(別名:トラカミキリ)を見つけた。初めて見たご婦人は、眉をしかめて遠ざかろうとするではないか。写真を見れば分るように、黒と黄色の縞縞模様は危険カラー、そうスズメバチに擬態しているカミキリなのである。ご婦人が一瞬たじろぐのは大正解で、恐らく天敵である小鳥たちも毒針を持つスズメバチと勘違いすることだろう。しかし、写真を良く見れば分るように、スズメバチのような黒褐色の羽は付いていないし、複眼だってずいぶん小さいことが分る。同行していたもう一人のご婦人によれば、子供さんが通っている学校の授業で、トラフカミキリの写真を先生に見せられた時、ほとんどの生徒がスズメバチに間違えたらしいが、さすが昆虫好きのそのご婦人の子供さんは、ずばりカミキリムシと答えたのだと言っていた。さあ、ここで写真を見た方は、もうトラフカミキリの擬態に騙される事は無いだろう。トラフカミキリは桑さえあれば何処でも生息しているわけではなく、養蚕の桑畑などでは見られない。桑の古木がたくさんあるような場所にしか見られないから、かなり希少価値のあるカミキリムシである。また、図鑑によれば飛んでる姿もスズメバチにそっくりだとある。
<2002年7月9日、神奈川県横浜市戸塚区>

雑木林のサソリです(ヤマトシリアゲ)

 
古い図鑑ではシリアゲと書かれているが、最近ではヤマトシリアゲと統一されているようである。年に2回発生の昆虫で、ちょうどゴールデンウィークの頃、雑木林に接する谷戸の日陰になる小道を歩いていると、葉上で休んでいるのを良く見かける。これといって美しくも無く、2本の黒い帯を持つ羽は油ぎっていて、何となく触れるのがはばかれるので近づかない方が多いと思う。この一般の方の直感は人に危害を加えない昆虫という意味では不正解だが、尾端をまるでサソリのように持ち上げているのだから正解とも言えるだろう。この尾端を持ち上げているので日本ではシリアゲ、イギリスでは、スコーピオン・フライ、すなわちサソリ蝿という名がつけられている。また、口吻は尖っていて、他の昆虫の体液を吸うというドラキュラを彷彿させる昆虫でもある。写真はヤマトシリアゲの雌で、雄は尾端が膨らんでいるので区別がつく。こんな風袋からは想像もつかないのだが、雄は自分で捕まえた獲物を食べずに、じっと雌がやって来るのを待っていて、それを雌にプレゼントし、雌が獲物を食べている間に交尾をするという、高等な恋愛戦術をとる昆虫としても知られている。ヤマトシリアゲムシはお世辞にも飛翔上手とはいえないが、完全変態をする昆虫である。
<1999年5月4日、埼玉県小川町>

テントウムシではありません(イタドリハムシ)

 4月頃、雑木林と田んぼが接するあたりや小道の脇に、暗赤色のタケノコのような、いかにも美味そうなイタドリの芽が出て来る。本によると酸っぱいが美味しいとあるので生で齧ってみたり、茹でてみたりしたのだがどうも私には美味しいとは感じられなかった。しかし、昆虫の仲間には、このイタドリが大好きなものが多く、その名もズバリのイタドリハムシはその筆頭にあげられる。成虫で越冬していたイタドリハムシは、イタドリの芽が伸び始める頃に目覚めて、その葉を食べると同時に交尾して産卵する。図鑑を調べてみると年に数回発生するようだが、柔らかい葉が沢山ある5月に多く見られる。写真を見ての通り、テントウムシに擬態していることが分るだろう。テントウムシを手にしことのある方なら経験があると思うが、テントウムシは小鳥などの敵に会うと、体からオレンジ色のとても嫌な臭いの体液を出すのである。これには流石の小鳥たちもお手上げで、こうしてテントウムシは天敵から命を守っているのである。黒地にオレンジの配色と言えば、テントウムシカラーとも呼ばれる独特なものだから、同じような格好で同じような配色なら小鳥たちも食べようとしないのである。また、イタドリハムシは近づくとすぐにポロリと落下するという弱きものの戦術にも長けている。
<2002年5月6日、新潟県六日町>

闘牛だって敵うまい(ウシカメムシ)

 2月中旬の暖かい日に本当に久しぶりにウシカメムシに出会った。この所の暖かさのために、越冬していた落ち葉のフトンの中で目覚めてしまったのだろう。以前、横浜市緑区三保市民の森で晩秋の頃、丸太で作った手すりの上を歩いているのを観察して以来の2度目で、是非とも出会って写真を撮りたかった昆虫の一種である。良く写真を見て欲しい。前胸背の両角が著しく大きく鋭く尖っていることに気づくことだろう。そしてその盛り上がった前胸背から急角度で目や口のある頭部が続いている。このウシカメムシと真正面からにらめっこをすると、大きな角を生やした牛に見えるので、ウシカメムシという名になったに違いない。しかし、ただの牧場で平和に草を食む乳牛や和牛のようなおとなしい牛には見えない。スペインの闘牛に出て来る牛や東南アジアの水牛に思えるほどの迫力がある。最も真上から見ると牛の顔にも見えて来る。この鋭く尖った大きな角は何のために役立つのだろう。普通に考えると天敵を驚かして怖気づけさせ、もし口にした場合は、その角が鋭く刺さって、天敵が痛さのために思わず吐き出して命拾いするめなのだろう。図鑑を開いてみるとアセビ、シキミ、サクラ、ヒノキやミカン等の樹上に住み、ナツミカンを吸汁するとある。
<2003年2月13日、東京都町田市小野路町>

死んだ振りが大得意(シロコブゾウムシ)

 マメ科の植物、特にクズやハギの葉に注意しているとシロコブゾウムシに出会える事だろう。東京都文京区の小石川植物園のハギ園にも生息しているから、ちょっとした緑が残るフィールドでも見つけることが出来るに違いない。見つけたら抜き足、差し足、忍び足、静かに近づいてみよう。そうしないと接近を素早く察知して、ポロリと地面に落下してしまうのである。こうなったら草の根、落ち葉を掻き分け、目をらんらんと光らせても発見は難しい。上手く近づけたら、もちろん、不意の落果を予期して、葉の下に帽子や手の平等の受け皿を用意して、指先で摘んで見よう。手足を硬直させ、触覚をだらんとさせて死んだ振りをすることだろう。そうしたら写真のようにクズなどの葉の上においてみよう。いくら待っても死んだ振りが解けないのだから面白いやらじれったいやら。ちょっとした事で気分を害してしまって、いつまで待っても振り向いてくれない恋人のようなものである。一時間、それともそれ以上、いつになったら死んだ振りが解けるのだろう。それに付き合っている時間が無いので、誰か実験して私にメールしてくれたら有り難い。また、多くのゾウムシが死んだ振りをするから、見つけたら実験、実験、実験だぁー。なお、ゾウムシは人には絶対危害を加えません。
<2002年6月30日、東京都町田市小山田緑地>

樹肌に溶け込んでいます(キノカワガ)

 左の写真を見て何が写っているのかすぐに分る方は、かなりの昆虫通である。樹肌に溶けこんで天敵から身を防いでいる、その名もズバリのキノカワガ(木皮蛾)である。先日、昆虫が大好きらしい女性に、ミズキの幹に運良くキノカワガを見つけたので教えてあげたのだけど、大きな目をキョロキョロさせるだけで見つけられなかった。あそこにいますよと指で指しても目をキョロキョロといった按配で、実に巧みに樹肌に化けているのである。キノカワガは調布市の神代植物公園の雑木林でも見られるから、かなりの普通種であると思われるが、その気にならないとご覧のように素通りしてしまう。発生時期は年に2、3回と見られていて、晩秋に発生したものは成虫のままで越冬する。もっとも冬であっても樹木の幹にずっと張り付いているのではなくて、夜になると活動をしているようである。良く行くフィールドで、多分同じ個体と思われるものが、行くたびに同じ木の幹の違った場所に止っているのである。良く見つける樹種や場所は、ミズキやケヤキのちょうど目の高さ位の樹肌が荒れてる部分が多いから、観察するものが少ない冬の時期に挑戦してみたらいかがだろうか。1回見つけたら次からは比較的簡単に見つけることが出来るだろう。食樹はカキやマメガキとある。
<2003年2月10日、東京都町田市小野路町>

オムツを着けて歩いてます(アカスジキンカメムシの若虫)

 ホームページを開いてから、秋の終わり頃、この虫何ですか?という質問を度々受けた。どこにも普通に見られ、しかも存在感溢れる目だった存在なのだけど、一般の図鑑には載っていない。それもそのはずで、梅雨時に見られるあの美しいアカスジキンメムシの5齢(終齢)の若虫なのである。若虫等と聞き覚えのない言葉を使うが、図鑑の仕事を協力していて分ったことだが、卵、幼虫、蛹、成虫と完全変態をする昆虫の幼虫は幼虫、カメムシやバッタ等の卵、幼虫、成虫と不完全変態する虫の幼虫は若虫と呼ぶ方が相応しいようである。誰しも昆虫の幼虫と言えば、芋虫、蛆虫、青虫を想像するだろうから、成虫の赤ちゃんのような不完全変態の昆虫の幼虫は、若虫と呼ぶのがぴったりである。カメムシの仲間は、卵から孵った若虫が、それぞれの齢によってみんな色彩や格好が異なるのだから楽しいやら苦しいやら。カメムシ専門の図鑑でなくては種名が分らないのである。写真のアカスジキンカメムシの終齢幼虫は、人によっては鳥の糞に擬態していると思うようだが、私には白い紙オムツを着けた赤ちゃんに思えるのである。また、秋の終わり頃から越冬場所を探して木から降りてきてウロウロするから、この虫何の虫という質問が晩秋に殺到するわけである。
<2002年5月23日、神奈川県秦野市弘法山>

種の鞘ではありません(マダラマルハヒロズコガの幼虫)

 ゼフィルスという美麗な蝶の仲間が飛び始める6月初旬の頃、雑木林の広葉樹の幹に注意して歩いていたら、何やら動くものがある。近づいて見ると、まるでマメ科植物の種子が入っている枯れた鞘のようなものが動いているではないか。良く見ると幼虫がその中から首を伸ばして、鞘のような巣を引き寄せるという動作を繰り返しているのである。すなわち樹木の上の方へ移動していたのである。舌がもつれてしまいそうな長い名で困ってしまうが、マダラマルハヒロズコガの幼虫とその巣なのである。この幼虫は別名をツヅミミノムシとも呼ばれるようで、成虫は風体の上がらない地味で小さな蛾であるが、この巣は特筆すべき頭の良い素晴らしい作品である。どう見ても、殊によったら中身の無い鞘としか見えないから、天敵たちも大いにだまされてしまうことだろう。そう思っていたのだが、後日、あの恐ろしい風体のヨコズナサシガメが、ぴったり貝のように閉じた鞘の隙間に口吻を差込み、中にいる幼虫の体液を吸っている場面に遭遇した。どんなに上手くカムフラージュしたりして天敵のからの捕食を免れようと努力していても、それ以上の能力を身に付けようと天敵たちも日夜努力しているのに違いない。たかが昆虫だが、本当に面白い世界である。
<2002年6月6日、神奈川県秦野市弘法山>


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