2005年2月22日、横浜市戸塚区舞岡公園

 身体の調子が今一の時は、あまり遠くへ出かける気がしないものだ。もう一度、埼玉県の国営武蔵丘陵森林公園へ行きたいと思っているのだが、いつの事になるのだろうか。また、国道246号線を越えると、やはり気温は3度程度低くなるし、アップダウンの激しい丘陵地帯を歩く元気ももちろん出ない。ましてや丹沢の麓等へ行ったら、気温が5度程度も低くなるのだから、尚一層身体の調子が悪くなりそうだ。「薬飲み、待ち望まれるや、春と健康」等と言う下手な句を作って、今日は舞岡公園で気の向くままに散策しようと出かけた。今月に入って4回目の舞岡公園であるが、来る度に春に向かっての微妙な行進が感じられるのは素晴らしい。これが多摩丘陵だったら厳然として破られる事の無い冬が居座っているのだが、温暖な地にあるからか、それとも多摩丘陵より自然度が浅いためだろうか、いずれにしても毎週通っても微妙な変化が感じられるのだから貴重な公園である。瓜久保の家脇のピンクの枝垂れ梅もだいぶ花が多くなり、白梅も咲き出し、ブンゴウメの蕾も赤く膨らんでいる。ただその脇にあるアンズの蕾はまだ固いようである。低木として植栽されているミツマタの蕾も心なしか大きくなり、その綿毛の煌きも一層増したように感じられる。ことによったら降り注ぐ日差しが勢いを増して来ている証拠なのかもしれない。火の見櫓の向こうの青空も心なしか暖かさを増し、たなびく雲も綿飴のようにふんわりと美味しそうになった。
 土曜、日曜と雨が降ったから、河童池奥のキノコの穴場も生き生きとしているのではないかと登って行くと、舞岡のKさんとお連れのHに出合った。「この間のエノキタケは素晴らしかったですね、もう生えていないのかしら」と聞かれたので行ってみると、可愛らしい幼菌が顔を出していた。「もう少したったら立派に生長しそうですね」と撮影は止めにして、たくさん生えているアラゲキクラゲを撮った。「生で食べても大丈夫だから」と、その場で食べる事を勧めたが、もちろん誰も食べなかった。それでも八宝菜等の中華料理に入れたら、さぞかし美味しいだろうと言う事にはなった。瓜久保を後にすると、Hさんが一度も行った事がないという宮田池上の丘の上の畑へ行った。畑にはコマツナの花がたくさん咲いていて、もしやツクシが生えているのではと、去年見かけた場所に行ってみると、小さいものだが生えていた。「去年は鎌倉の宇宙人集団の方々と、ここでツクシを撮りましたね」とKさんに話しかけると、「もう一年経ったんだ」と、月日の経つ速さに感慨深げであった。丘の上の畑から降りて宮田池のバッコヤナギを見に行ったが、まだ綿毛は弾けてはいなかった。きざはしの池には野鳥撮影の方々が集まっていて、久しぶりに日限山の舞岡コウチュウさんにも出会えた。小谷戸の里へ行くと、早くもツバキの一品種であるピンクの三浦乙女が咲き、フクジュソウは見頃となり、浅い池のアカガエルの卵はだいぶ黒くなって、もうすぐ孵化が始まりそうだ。
 昼食をとりに舞岡のKさんとお連れのHとお別れして瓜久保の家に戻ってくると、なんと懐かしい野庭のTさんが座っている。去年の観察記に何べんともなく登場して貰った舞岡のファーブルさんである。怪我が治ってやっと4ヶ月振りに一人でやって来たのだと言う。「石砂山のギフチョウに今年も会いに行けますね」と言うことになった。後、鎌倉のNさんが再び舞岡公園に顔を出せば、蝶大好き人間が勢ぞろいする事になる。いよいよみんな春近しと感じて、啓蟄を前にして蠢き始めたようである。昼飯をとった後、野鳥撮影用機材に変えて一回りするものの野鳥のお出ましがとても少ない。“鳥撮りが、鳥撮りに来て、鳥撮れず、窮地の一策、タイワンリスを撮る”てな訳で、竹垣の天辺でなにやら食べているタイワンリスを撮影した。タイワンリスは様々なものを食べるのはまだしも、食べ物がなくなると樹木の樹皮を食べるという困り者である。しかし、舞岡公園の住人になって久しいので何とか上手く撮影したいと思っていたのだが、なかなか良いチャンスに遭遇しなかったのである。鳥は撮れずに栗鼠を撮ってきざはしの池に戻って来ると、工務店の若社長らが葦原を真剣な目をして双眼鏡で覗いている。アリスイが来ているのだと言う。葦原からは「ぽろろ、ぽろろ」と、カエルの鳴き声に似たアリスイの囀りが聞こえる。図鑑で見ると何となく爬虫類ぽい風体で、決して美しい野鳥ではないが、まだ一度も見た事が無いので頑張って待っていると葦原に現れた。葦に遮られて写真を撮っても仕方が無いが、その正体をしかっと確認することは出来た。その横顔は図鑑とは異なって、かなり可愛らしい顔である事も分かった。「とっても可愛い顔をしていたよ」と、下倉田のKさんに言うと、大きな腰につけているカバンからアリスイの写真を取り出し見せてくれた。やっぱりカメラのファインダーで見た通りの可愛い顔が写っていた。

<今日観察出来たもの>花/ウメ、ソシンロウバイ、アカバナマンサク、ツバキ、ウグイスカグラ、オオイヌノフグリ(写真下左)、ヒメオドリコソウ、ホトケノザ、ナズナ、アブラナ、クロッカス、フクジュソウ、ツクシ(写真下右)等。鳥/ウグイス、ジョウビタキ、シジュウカラ、アリスイ、アオジ、ノスリ、コゲラ、モズ、シロハラ、ツグミ、シメ、メジロ、コサギ、カルガモ、スズメ等。キノコ/エノキタケ、アラゲキクラゲ(写真上左)、カワラタケ等。その他/タイワンリス(写真上右)等。


2005年2月15日、横浜市戸塚区舞岡公園

 今週はぐずついた日が多くなると予報されている。気温は相変わらず低いものの、立春を過ぎて10日程も経ったのだから、そろそろ移動性低気圧が周期的にやって来るという春の気候に入ったのだろう。今日は風も無くとても暖かい一日であったが、明日は一日中、冷たい雨が降るという。こんな日の午前中は虹の家周辺で、オオイヌノフグリ、ヒメオドリコソウ、ホトケノザ、ナズナ等の路傍の花を愛で、農家の敷地のフキノトウは伸び始めたか、1月19日に早くも咲いていた民家の庭先のオウバイはどのくらい花をつけているかと、気の向くままにのんびりと散策するのはとても楽しいものである。いつものように車を停めて瓜久保の家に行くと、とても感じの良い管理事務所の女性が朝の清掃にやって来ていた。私が動植物に少しは詳しいと知っているので、「あそこに咲いている花の赤いマンサクはなんて言う名前ですか」と聞かれた。「東京港野鳥公園にも植栽されていて、確かベニバナマンサクと書いてあったと思いますが」と答えると、「牧野植物図鑑によると、葉が丸くてマルバノキと呼ばれるものがベニバナマンサクと書いてありましたが」と言うので、「多分、シナマンサクの赤い品種ではないかと思いますよ」とお茶を濁した。そこで帰宅して調べてみると、舞岡公園のも東京港野鳥公園のも同じ種類でアカバナマンサクというのが正式名称で、俗称としてベニバナマンサクと呼ばれているとあった。また、逆にマルバノキは別名ベニバナマンサクと呼ばれるらしい。すなわち、どちらも紅色の花をつけるマンサクだからベニバナマンサクとつい呼んでしまうのだろう。正確にはアカバナマンサクとベニバナマンサク(マルバノキ)は別種で、区別して呼ばなければならないようだ。そこで過去の「舞岡公園散策手帖」も、間違ってはいないようだがベニバナマンサクを全てアカバナマンサクと書き改めた。また、ベニバナマンサクはマルバマンサクの一品種で、マンサクが太平洋側に多くみられるのにたいして、マルバマンサクはマンサクの変種で、おもに日本海側に多く寒冷地型といわれているとある。どうやら舞岡公園のベニバナマンサクはシナマンサクの品種ではなく、マルバマンサクの赤いものらしい。 今日の朝の会話はナチュラリストではなくてウィークエンド・ナチュラリストで良かったという会話であったが、疑問点はすぐ調べるのだから間違っても勘弁して欲しい。しかし、ここで調べたものが数ヶ月経つと薄れてしまうのには困ったものである。
 だいぶ話は横道にそれてしまったが、虹の家周辺の農地では、オオイヌノフグリ、ヒメオドリコソウ、ホトケノザ、ナズナ等の路傍の花が暖かい陽に花開き、フキノトウも伸び始め、オウバイは満開と呼んで良いほど美しく咲いていた。また、民家の花壇にはクロッカスも咲いていて、やはり春が確実にやって来ていると感じさせるのに充分であった。午後からは重たい野鳥撮影用機材に変えて谷戸奥まで行ってみた。稀少種を撮りたいという欲求はないものの、普通種でも美しく撮りたい、なるべく背景を広く取り入れて図鑑的な写真から抜け出た情緒溢れる写真を撮りたいと思うのは、鳥に限らずいつもの私のスタンスである。今日はいつもより暖かく穏やかな日だが、午後2時頃まではこれといった野鳥はお出ましにならなかったものの、午後3時を過ぎると常連さんが数多くやって来た。やはり野鳥も昼休みないし昼寝をしていたのだろう。まず最初にかなり熱心に撮影したのはコゲラである。近づいても採餌に夢中なようで、長いこと観察させてくれたが、小枝が邪魔をしてなかなかシャッターを切ることが出来なかった。小谷戸の里の小さな池に行くと、カワセミ、ジョウビタキの雌、ウグイスのペアが現れて、その場から立ち去る気配はまったく無い。特にジョウビタキの雌、ウグイスのペアは飛んだり跳ねたりして、暖かいから空中を飛んでいる蚊の仲間を捕らえているようである。「あそこにある枯れたクワの枝に止まってくれたら最高なんですがね」と、同好の方々と話し合っていると、カワセミもジョウビタキの雌も写真のように大サービスして止ってくれた。しかし、ウグイスは一度だに近くには寄ってはくれずに、証拠写真すら撮影する事は出来なかった。今日の舞岡公園は、鼻高々になる稀少種の素晴らしい写真を手にする事は出来なかったものの、いつものように平和で心温まる道端自然観察及び写真撮影の場を提供してくれた。

<今日観察出来たもの>花/ウメ、ソシンロウバイ、アカバナマンサク、オウバイ、ツバキ、オオイヌノフグリ、ヒメオドリコソウ、ホトケノザ(写真上右)、ナズナ、アブラナ、クロッカス(写真上左)、フクジュソウ等。鳥/イカル、ウグイス、ジョウビタキの雌(写真下右)、シジュウカラ、アリスイ、アオジ、カシラダカ、ハイタカ、オオタカ、チョウゲンボウ、コゲラ、モズ、シロハラ、アカハラ、ツグミ、シメ、メジロ、カワセミ(写真下左)、コサギ等。


2005年2月9日、横浜市戸塚区舞岡公園

 先週行った時にイカルの良い写真が撮れたので、今日も野鳥の傑作写真を期待してまた出かけた。しかし、天気予報では晴れと言う事だったが、家を出た時からずっと曇りで、やっと青空がのぞいて来たのは帰宅時間間際と言った按配であった。いつものように瓜久保の河童池へ登って行くと、左手の路傍に植栽されたアカバナマンサクは先週よりだいぶ花開いていて、たったの一週間でも着実に春へ近づいていることが感じられた。また、瓜久保の家の脇にある枝垂れ梅も咲き始めていて、河童池奥の紅梅は満開でとても美しかった。相変わらずソシンロウバイは花をつけていて、花期の長さに改めて唖然とした。今日は野鳥撮影の日と決めていたが、万が一の事を考えてアカバナマンサクと紅梅をカメラの中に納めた。それでは野鳥撮影開始と勇んでみたものの、モズ、ツグミ、シロハラ、アオジ、エナガ、シジュウカラが見られたのだが、今一絵になる場所に止っていない。今日はアオジを美しく撮りたいと考えていた。しかし、地面で餌をついばんでいる姿や込み入った薮の中はノーサンキューで、田んぼに沿って生えているハンノキの枝ぶりの良い場所に止まって、しかも美しい鶯色の胸が見えるように身体はこちらを向いて、なおかつアオジが一番可愛らしく見える横顔をと考えているのだから、たくさんいてもおいそれとは希望通りにはいかない。
 そんな訳で瓜久保を後にして、きざはしの池に向かうが、今日は誰も姿が見えない。きっとみんな小谷戸の里の古民家裏のヌルデの実に集まるイカルを撮っているのだろうと行ってみると、ここにも誰もいない。お仲間がいないだけでなく、野鳥の姿も見られないのだから困ったものである。そこで更に谷戸奥へ歩いて行くと、古井戸のあたりで真剣にカメラを構えている一団がいる。何がいるのだろうと静に近づいてみると、イカルの群れがヌルデの実をついばんでいる。「もう古民家裏のヌルデはかなり食べ尽くしたようで、ここに場所がえしたようだよ」との事である。「Fさんの車があったけど、今日は何処にいるの」と、顔見知りのKさんに聞いてみると、「少し雑木林を登った所で撮っているよ」との事であった。しばらくしてイカルは去り、Fさんが雑木林から降りて来たので、「先週、あんなに撮ったのに良いカットがなかったの」と聞いてみると、「気に入ったものは無かった」との事である。私なんかそのシーズンに一つの種類の野鳥が美しく撮れると満足してしまうが、Fさんは撮れる時にあらゆるカットを押さえておきたいのだろう。ここが何でも屋の私と野鳥専門にかけるFさんとの差なのかもしれないと感心する。確かにイカルの群れが舞岡公園現れるのは毎年とは限らないのだから、撮れるチャンスに徹底して撮っておくと言う姿勢が肝要なのだろう。イカルはいたものの、どうファインダー上で作画しても前回以上の写真は撮れないと悟ると、すぐに諦めてしまうのは悪い癖なのかもしれない。
 「今日は鳥の出が悪いな」と愚痴りながら谷戸奥まで行って戻ってくると、宮田池にマガモの夫婦が泳いでいる。舞岡公園でマガモを見るのは初めてなので、泳いでいる所を高速シャッターで写し撮った。こんなに池がたくさんある舞岡公園だが、大きくて深い池がないためか訪れるカモの種類は少ない。聞くところによると、マガモ、コガモ、カルガモを観察した程度だと言う。車に戻り昼食を済ませると、今日は野鳥は難しそうと一般撮影用機材に変えて、オオイヌノフグリ等の野の花を撮影しようと歩き回ったものの、生憎の曇り空では花を開いているものはわずかばかりだ。ヒメオドリコソウ、ナズナ、ホトケノザもあったものの、やはりこれらを撮るには虹の家周辺へ行くしかないなと考え、ならば昨日雨が降ったからキノコはどうだろうと探してみると、地上に落下した太いエノキの枝にエノキタケが爆生していて溜飲を下ろした。撮影が無事済むと、このままにしておくと誰かに摘み取られてしまうかもしれないと、管理事務所に電話をかけてキノコ好きのK女史に連絡した。するとあっと言う間に現れて、「展示用にぴったりだわ」と肩にひょいと軽々担いで帰って行った。きっと、今週末の3連休に小谷戸の里の何処かに展示されて、もやしのような栽培エノキタケしか知らない方々がびっくりするに違いない。今日の収穫は期待していた野鳥ではなく、なんとキノコとなったが、転んでもただでは起きない花虫とおるの面目躍如とはなった次第である。

<今日観察出来たもの>花/ウメ(写真上左)、ニホンスイセン、ウグイスカグラ、ソシンロウバイ、アカバナマンサク(写真上右)、オオイヌノフグリ、ヒメオドリコソウ、ホトケノザ、ナズナ。鳥/イカル、ジョウビタキ、シジュウカラ、エナガ、アオジ、モズ、シロハラ、アカハラ、ツグミ、シメ、スズメ、メジロ、カワセミ、コサギ、マガモ(写真下左)等。キノコ/エノキタケ(写真下右)、アラゲキクラゲ、カワラタケ等。


2005年2月1日、横浜市戸塚区舞岡公園

 今年の冬は例年より寒いのかそれとも暖かいのかは良く分からないが、私から見ると暖冬のように思えるのだ。確かに雪こそ降ったが、フィールドへ出向いて霜が真っ白に降りている光景に出会わない。もっとも家を遅く出るようになったからとも言えるのだろうが、日陰にそんな光景が残っていてもおかしく無い筈である。しかし、今日は北風が強いにもかかわらず、河童池奥の草原には真っ白になる位に霜が降りていた。また、霜柱もあちこちに立ち、この冬一番の寒さではなかろうかと感じた。こんな日に多摩丘陵の小野路町等へ行ったら、一面真っ白な凍りついたフィールドを眼前にする事だろう。こんな日は霜を題材として写真を撮るのも最適なのだが、冬鳥の撮影が本格化してしまうと、とても面白くって何も目に入らなくなってしまうのだから困った事である。ちょこちょこ動いてすぐに逃げ去る野鳥の撮影は、非常にエキサイティングで一度やったら止められなくなるのである。それでも木の花は目につくのか、河童池に上って行く途中の左手に植栽されているアカバナマンサクが、早くも蕾がほころびて真っ赤な細長い花弁が伸び始めているのが目に入った。また、河童池の傍らにあるソシンロウバイがいまだに花をつけていた。去年の12月中旬に咲き始めたのだから、なんと花期が長いことだろう。黄色い真ん丸の蕾がたくさんついているから、順次咲いてこんなに花期が長いのである。時期外れかもしれないが今日が一番美しく、思わずカメラを向けた事は言うまでも無い。こんなに北風が強く寒いから野鳥の出が心配されたが、河童池奥の草原で早くもカワラヒワを発見した。普通、カワラヒワは群れで行動しているのだが、1羽だけの単独行動のようである。まるで寂しがり屋なのに単独行動が好きな私のようである。また、地面にはツグミは勿論のことシロハラが見られた。去年はあまりシロハラに出会わなかったが、今年は何処へ行っても必ずお目にかかる。
 草原でじっと野鳥の出を待っていると、舞岡公園常連の工務店の若社長と顔見知った野鳥好きの方がやって来た。「昨日なんてたくさん出て、とんでもなく長い間いたから、みんなばんばん良い写真を撮っていたよ」と、工務店の若社長に話しているのが聞こえたが、肝心要の主語と場所が聞こえなかったので、「何か出たんですか」と聞くと、「ここ連日、小谷戸の里の古民家の裏のヌルデにイカルがやって来るんだ」と言うことであった。「でも僕がイカルに出会った八王子の公園は、人影を見るとすぐに飛んでいってしまうけど、そんなにじっくり撮れるんですか」と聞くと、「昨日は9時半に現れて11時半までいたよ。かなりわいわいやっていたけど逃げなかったね」と言うではないか。先だって南大沢の長池公園でたくさんのイカルに出会ったものの、良い写真が撮れなくてもう一度撮り直しに行かなければと考えていた矢先であったので、急いで小谷戸の里へ歩いて行った。しかし、期待してヌルデを見上げたのだがイカルの姿は無い。時折、メジロ、ツグミ、ジョウビタキがやって来て実をついばんで去るだけであった。写真は撮らないが舞岡公園きってのバードウォッチャーのOさんがやって来て、「今日はイカルまだ来ていない」と聞かれたので、両手を広げて「だめですね」と答えた。「おかしいな昨日まで3日続けてやって来たんだけどな、今日は風が強いからかな」等と失望するような事を言う。「かなり近づいても逃げないんですってね」と聞くと、「あのキンカンの木の少し手前までだったら大丈夫だよ。なにしろやつら食べることに夢中だからな」と言う。「それならばんばん良い写真が撮れたでしょうね」と聞くと、「みんなもういいやと言う位撮ってたよ」との事である。これは待って撮るしかないなと、じっと我慢した事は言うまでも無い。
 しかし、そんなイカル撮りたしの欲望も空腹には耐えかねて、一旦、車に戻って食事をとった。今日出合った方々は皆、イカルは午前中に現れるといっていたので、これは今日は風が強いから駄目なんだろうなと思って、午後からはジョウビタキやモズと遊びながら、また小谷戸の里へ行った。すると空から中型の鳥の一団が飛んで来て一斉にヌルデの木に降りた。イカルである。彼らも私と同様に空腹に絶えかねてやって来たようである。そこで逃げられては元も子もないと、遠くからばんばんシャッターを切って近づいた。ひとしきりイカルをカメラに納めて安堵していると、後ろで軽やかに連写のシャッターを切る方が近づいて来た。誰だろうと振り向くと舞岡公園の主的存在であるFさんである。彼は何しろカメラは連写がきくニコンD2Hで大砲のような600ミリF4のレンズ、三脚はジッツオの超大型カーボン三脚のプロ装備である。私のようなカッチャン、カッチャンではなく、カチャカチャカチャとリズミカルなシャッター音を響かせる。これは凄いやと思っていたら、すぐにコンパクトフラッシュを取り替えた。そして一緒になって撮影していたら、「もう300枚撮ってコンパクトフラッシュが一杯だから帰る」と言う。まさに神業のような疾風怒涛のFさんには参った。その後、私はしつこくカッチャン、カッチャンを繰り返したが、100枚撮るのがやっとで、1ギガバイトのコンパクトフラッシュをやっと半分使ったのみとなった。私のカメラだってFさんのもの程ではないがかなり連写がきくが、無駄撮りをすると帰宅してからのバソコンでの選択に時間がかかるからと、いつもカッチャン、カッチャンだが、今後、Fさんのようにカチャカチャカチャも必要なのかもしれない。その後、散策に来た方がイカルに余りにも近づいてしまったためにイカルは飛び立ち、寒さも一段と増したので早々と、しかし、満足しての帰宅となった。

<今日観察出来たもの>花/ウメ、ニホンスイセン、フクジュソウ、ウグイスカグラ、ソシンロウバイ(写真上右)、アカバナマンサク、オオイヌノフグリ、ヒメオドリコソウ。鳥/イカル(写真下左)、ジョウビタキ(写真下右)、シジュウカラ、モズ、カシラダカ、シロハラ、アカハラ、ツグミ、シメ、カワラヒワ、スズメ、メジロ、コジュケイ、コサギ等。その他/ヤツデの実、ハンノキの花(写真上左)等。


2005年1月19日、横浜市戸塚区舞岡公園

 気難しいバーダーのためにお友達が一人現れなくなったのはとても寂しい限りだが、月に2回の舞岡公園行きを中止する訳には行かない。そのうち心が落ち着いて、そんな変梃りんな人間を無視出来るようになるまで、「瓜久保の家で弁当を食べる会」はしばし中断である。もっとも春になれば気難しいバーダーも来なくなるし、コンビニで買った冷たい弁当も美味しく食べられるようになるし、怪我で冬眠中の舞岡のファーブルさんも復帰するし、それに蝶や花が日替わりメニューのごとくに現れるのだから、冬場の「瓜久保の家で弁当を食べる会」の中断は好都合かもしれない。まあ、そんな内輪の話はこれで止しにして、今日は瓜久保には直行しないで、虹の家周辺に立ち寄った。舞岡公園は何べんも書いているように、地下鉄の駅からすぐに田畑が広がっている。稀少な動植物こそ少ないものの、民家の点在する田園地帯は、何処のフィールドでも見過ごす事の出来ない面白さ一杯の場所でもあるのだ。今日の目的の一番手は虹の家裏にある民家のオウバイを撮影する事にある。民家の敷地に植栽されたオウバイが高い土留めから垂れ下がって毎年見事に花をつけるのである。すなわち個人所有の花を道端から撮らせて貰うと言う事になるのだ。今年は雪こそ降ったけれど、今のところ暖冬だからもう咲いていると思ったのである。その期待は裏切られる事は無かったものの、一面目が覚める程には咲いていなかった。それもそうだろう今日は1月19日、もうそろそろ大寒である。
 数輪咲いていたオウバイを撮影すると、山際の陽のあたる小道を少しばかり散策した。いつもなら農家の生垣のモチノキやツバキの葉裏でウラギンシジミが越冬している筈なのだが、何べんもやって来た去年の台風の為にウラギンシジミの個体数は激減したから、見つけ出す事は出来なかった。それならばモンシロチョウの蛹をと探し回ったが、これまた見つける事が出来なかった。いつもたくさんついている物置小屋にも無かったのだから、キャベツやダイコンを畑で作らなかったのかもしれない。それならば今頃鈴なりに実をつけるキンカンはどうだろうと見に行くと、オレンジ色が一層濃くなっていよいよ食べ頃となって見事に冬の陽に輝いていた。
 午前中は虹の家周辺でと思っていたのだが以上のごとくの貧果であったので、瓜久保に車を停めると、足早に小谷戸の里まで往復して来た。前回来た時は1月3日だったから古民家に入る事は出来なかったが、今日は事務局の方々もボランティアの方々も忙しそうに仕事に励んでいた。久しぶりに事務局のK女史に会ったので丁重に挨拶すると、「もうアカガエルが卵を産んでますよ、今年は早いですね」と教えてくれた。アカガエルは一旦冬眠を中断して、いつもなら2月初め頃に産卵するのだが、今年は少し早いと言う訳である。古民家裏の浅い池に行って見ると、丸っこい寒天質の卵塊がたくさん見られた。ヒキガエルの紐状の卵塊に比べれば左程気持ち悪くは無いものの、私の大の苦手のコンニャクに似ている事には変わらない。この他、古民家裏の良く陽が当たる斜面には、植栽されたフクジュソウが早くもヤマブキ色に花を咲かせ、ウグイスカグラも咲き始めていて、表の庭には紅梅がかなり咲いていたから、小谷戸の里にはちょっぴり早い春が至る所にやって来ているように感じられた。午後からは野鳥撮影だと駐車した車に戻る途中、新年早々にはサワグルミの冬芽「さわちゃん」に挨拶したのだから、今日は水車小屋周辺のネムノキの猿顔の冬芽「ねむくん」と狐久保の羊顔のオニグルミの冬芽「るみちゃん」に挨拶して来なければあいすまないと思い、また、午後から心置きなく野鳥撮影に入れるようにと立ち寄って撮影した。
 今日は幸いな事に気難しいバーダーが来ていないので、「きざはしの池」に集まった鳥好きの方々は、和気藹々と楽しそうにカメラを構えて談笑している。「これでなくては舞岡公園は駄目なんだよな、みんなお通夜のような沈黙のし通しなんて楽しくないんだ」等と一人ごちたが、人一倍大きくて良く通る声の持ち主であると自他ともに認めているので、もちろん遠慮かたがた話の輪に加わった。聞くところによると、やっと舞岡公園にも例年と同じ位の種数と個体数の冬鳥が見られるようになったと言う。もっとも去年お出ましになったウソは一度だに見られず、3日に見られたヤマシギは忽然と姿を消したままだと言う。それでも付近を散策すると、シジュウカラ、メジロは言うまでも無く、ジョウビタキの雄と雌、コゲラ、シメ、ツグミ、シロハラ、ヤマガラと入れ替わり立ち代わりやって来て飽きる暇が無い。しかし、残念な事に絵になる場所になかなか止ってくれない。そんな訳で傑作写真はものには出来なかったものの、気難しいバーダーがいない事もあってか、とっても楽しい鳥見、鳥撮りの午後となった事は言うまでも無い。

<今日観察出来たもの>花/フクジュソウ、ウメ、オウバイ(写真上左)、ソシンロウバイ、ウグイスカグラ(写真上右)。蝶/モンシロチョウの蛹。昆虫/オオカマキリの卵のう。鳥/ヤマガラ、コゲラ、シジュウカラ(写真下右)、シメ、ツグミ、シロハラ、カシラダカ、スズメ、メジロ、アオジ、ジョウビタキ等。その他/サワグルミの冬芽、オニグルミの冬芽(写真下左)、ネムノキの冬芽、アカガエルの卵等。


2005年1月3日、横浜市戸塚区舞岡公園

 舞岡公園はとても不思議なフィールドである。誰が見たって町田市小野路町周辺の多摩丘陵に比べれば、自然度は圧倒的に低い筈である。それなのに特に昆虫は様々なものが少数だが多種類見られるのである。舞岡公園のある横浜市戸塚区は町田市に比べるとだいぶ南の方に位置していることもあって、南方系の蝶、例えばモンキアゲハやナガサキアゲハも数が多い。また、特筆すべき昆虫としては、ムネアカセンチコガネを産し、最近ではアカボシゴマダラと言う中国産の蝶が居ついてしまった。かつては山野草も宝庫だったと言われているが、今は盗掘によって見る影もなくなりつつあるのは悲しい限りだが、丹念に探せばまだ少数だが観察できる。また、様々な樹木が植栽されているから、樹木の冬芽や花を撮影するにも得難い場所である。更に野鳥に関してもかなり多くの種類が観察出来、このように一年を通してとても楽しめるとても貴重な得難い公園なのである。しかも何故だか分からずとっても不思議なことなのだが、とても良い写真も得ることが出来るのである。適度の管理と安全な足場、また、目移りすることの無い手ごろな広さが、ファインダーを凝視させるのにぴったりなようである。そんな舞岡公園に通い始めてもう何年経つことだろうか。恐らく今年で7年ないし8年になる事だろう。今年もまた定期的に通って、これからは心して四季折々に移り行く自然の営みを観察し写真に撮って行きたいと思い、この「舞岡公園散策手帖」を書き記して行こうと思った。今日がその心新たなる舞岡公園行きの初日である。
 舞岡公園はやはり南に位置している事もあって、昨日行った小野路町に比べると、雪はほとんど消えていた。今日はまず最初に舞岡公園入口のシンボルタワーとも言える火の見櫓を、冬の太陽を入れて逆光で撮影した。まさに「これからやるぞ」と言う思いは、富士山のご来光や一月元旦の初日の出と同じように、清々しい太陽は人の心をぴしっとやる気にさせるのだから不思議である。それもそうだろう、私たち人間も生命ある生物の一種、その生物は太陽のエネルギーによって創造され、また、太陽エネルギーを固定する植物によって、全ての生き物は生きながらえているのである。ところで太陽を画面に入れて撮るのはとても難しい。いわゆるゴーストとかフレアーが発生してしまうからである。そこで太陽が雲や梢によって光が薄れて、このゴーストとかフレアーが発生しないように気をつけ、形の良い雲がやって来るのを待ち、しかも火の見櫓天辺にある風見鶏が横を向いてくれるのも待たなければならないのだからかなり辛抱がいる。しかし、1ギガバイトのコンパクトフラッシュを大晦日に安売りしていたので購入したから、何枚シュッターを切ってもへっちゃらだから有り難い。そんな訳で上のような写真を手にすることが出来た。お次は舞岡公園に冬に来たら、必ず挨拶をしなくて掟破りとなるサワグルミのサワちゃんに挨拶しに行った。太い枝が大晦日の降雪によって折れて地面に落ちていたものの、サワちゃん達は今日もとても元気であった。サワちゃんが「今日はいつもの面白いおねえさんたちは来ないの」と寂しそうに聞くので、「お正月は、主婦はとっても忙しいんだよ、そのうち来るだべ」と慰めてやった。これで新年の挨拶をすべて終了したので、重い野鳥撮影用機材を担いで、今日の本来の目的たるバードウォッチングを開始した。
 しかし、急に風がとても強くなって来て、丘の上の雑木林がごうごうと音を奏でる。しかし、南よりの風なのかそれ程寒く無い。まず最初に狐久保入口のエノキの梢にカワラヒワを発見した。毎年、この場所はカワラヒワのお気に入りの場所で、クルミ林に通じる道の右手斜面にカワラヒワの大好きな様々な植物の種子があるようなのだ。今日は同じ梢で帰り道にシメも観察しているから、小鳥達にはとっても重要な餌場で、しかもエノキの梢はちょうど良い休憩の場所なのだろう。カワラヒワを撮影すると、舞岡公園の野鳥観察の本命場所である「きざはしの池」へ行った。早くも目隠しの立てかけられたアシは野鳥観察出来る高さに押し下げられていた。今日は何かいるかなと目を光らせたが何もいない。すると傍らにいた若者がヤマシギを見つけてくれた。ヤマシギは落ち葉にそっくりな保護色をしているから分からなかったのだ。野鳥撮影を始めたばっかりの去年も人に教えてもらってその存在が初めて分かった。それにしてもいつ見ても目がくりくりとしていてとても可愛い鳥である。後でやって来た下倉田のKさんによると、今年初めてのお出ましであると言う。真にラッキーなことなので、これまた1ギガバイトのコンパクトフラッシュのお陰で、撮影枚数を気にせずばんばんシャッターを切った。その後、ますます風は強くなり、黒っぽい雲も出て来て次第に寒くなった。舞岡公園における本年の初日としては後ろ髪を引かれる思いもあったが、火の見櫓、サワちゃん、ヤマシギ君の舞岡公園新春3大スターに挨拶が出来たからこれで良しと、昨日についでの超早々の帰宅となったのは言うまでも無い。

<今日観察出来たもの>花/ソシンロウバイ。蝶/ウラゴマダラシジミの卵。昆虫/クワコの巣、ハラビロカマキリの卵のう。鳥/ハシブトガラス、コサギ、ヤマシギ(写真下左)、シメ、ツグミ、カワラヒワ、スズメ、メジロ等。その他/サワグルミの冬芽(写真下右)、火の見櫓(写真上左)、昔懐かしい電灯(写真上右)等。

横浜市戸塚区

舞岡公園散策手帳
(第1集)




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