多摩丘陵

小野路図師紀行
(第1集)



2005年 1月2月 3月4月 5月6月 7月8月 9月10月 11月12月



2005年2月26日、東京都町田市小野路町

 今年は月に少なくとも4回は小野路町、図師町のフィールドへ行くと決めていたが、あまり自然の変化がないので前回書いたように2月は2回に減した。それでも自然度が高く懐の深い小野路町、図師町の谷戸や雑木林等のフィールドは、2月はあまり変化がないようである。それに野鳥も近寄らせてはくれないので良い写真を撮ることが出来ない。しかも、このところ身体の不調も手伝って行く気がしなかったのだが、今日か明日行かないと、2月はたったの1回となってしまう。そんな訳でノルマをこなすような思いで出かけたが、有り難い事に昨日の夜半に雪が降ってくれて、まだ雪が少し残っていたから、毎度御馴染みのパターンから抜け出すことが出来てほっとした。しかし、天気予報は見事にはずれて空は曇っているし、北風もかなりある。それでも愛用し始めた超分厚い肌色の股引とぺったんカイロのお陰でちっとも寒く無い。いくら痩せ我慢して格好づけたとしても、身体の調子が悪くなっては元も子もないし、それにこんな日に素敵な年若い女性が小野路に来る訳もないのだから、北国の田舎のおっさんスタイルが最高なのだ。もうすぐ3月に入るから雪をテーマとして撮影するのも面白くはないとは思ったものの、早春の淡雪というテーマで午前中は一般撮影用機材で散策を開始した。
 まず最初に物置小屋のトタン屋根からぶら下がっている氷柱(つらら)を見つけた。雪国や北国へ行けば、氷柱なんていつでも見られるのだろうが、多摩丘陵ではおいそれとは見られない。私の子供時代には何べんともなく氷柱を見たように記憶しているのだが、地球温暖化+都市化による温暖化が加わって、最近見ることがなくなった。この物置小屋のトタン屋根からぶら下がっている氷柱だって、トタンが波板だから積もった雪が氷柱状に落ちて来たと言うのが真相であって、本物の氷柱とは異なることは言うまでも無い。本物の氷柱は鍾乳洞の鍾乳石のように、絶え間なく滴り落ちる水が順次凍ってのものだろうと思うのだ。だから滝が凍ったり、岩肌から滴る清水が凍ったものが真の氷柱ではなかろうか。まあ、そんな氷柱談義はさておき、撮り方によっては本物の氷柱らしく撮影出来るのではないかと頑張ったが、なにしろ規模が小さいからあまり上手くは撮れなかった。次に小松菜の畑へ行くとオオイヌノフグリ、ヒメオドリコソウ、ホトケノザ、ナズナ等の花や蕾が淡雪から顔を出している。今日の撮影テーマはこれだと決めて探し回り、ばしばしシャッターを切った。
 一通り畑の周辺を歩き回り撮影した後、ことによったらツクシが出ていて淡雪から顔を出しているかもしれないと、毎年たくさん見られる草原へ行った。すると舞岡公園程伸びてはいなかったものの、ツクシと分かる姿で顔を出していた。立春を過ぎてから冬芽を撮る気がしなくなっていたが、「雪が積もっているのだから春芽ではなくて冬芽だよね」と雪を背景としたものを探したのだが、1月2日と同様にクズしか探し出すことが出来なかった。その次はもちろん雪を被ったキノコだと頑張ったのだが、ナメコは収穫されたようで、小さいものがまばらにしか生えていなかった。午後からはもちろん野鳥撮影用の機材に変えて散策した。万松寺谷戸へ行った事のある方なら、田んぼや休耕田に何本もの竹が差し込まれているのを知っているはずである。いつもならモズがかならずその先端に止っていて、撮影しようと近づくと飛び立って逃げられてしまうのが常である。デシスコを持っていたら、ほほいのほいと撮影出来るのになあといつも悔しい思いをする。今日もモズは止まっていたが、なんとツグミも止まっていて、こちらも撮影しようと近づくと飛び立って逃げてられてしまった。しかし、ハクセキレイはしばらくポーズをとってくれたので何とか大きく撮ることが出来た。いままでこの万松寺谷戸の竹の先端に止ったものとしてジョウビタキを観察しているが、今日のツグミのように様々な野鳥が止まるのかもしれない。そう思うとデジスコを手に入れて、万松寺谷戸だけではなく様々なフィールドへ出かけて、丸太の杭ないし竹の杭の天辺に止る野鳥の姿だけを撮り集めたら、さぞかし面白いだろうなと思った。天気予報は見事にはずれて空は次第に暗くなって、超分厚い股引とぺったんカイロでも寒くなった。2月はとっても憂鬱な月であったが、もうすぐ3月、本格的な春の陽気が来ることを期待して、早々と万松寺谷戸を後にした。

<今日観察出来たもの>花/ウメ、ナズナ、タネツケバナ、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ(写真上右)、ハコベ、ウグイスカグラ、ツクシ(写真下右)等。鳥/ツグミ、シロハラ、モズ、ジョウビタキ、ムクドリ、シジュウカラ、カシラダカ、ホオジロ、ハクセキレイ(写真下左)、セグロセキレイ等。その他/クズの葉痕(写真上左)、ナメコ等。


2005年2月11日、東京都町田市小野路町

 当初この「小野路図師紀行」は毎週一回(月4回)の予定でいたのだが、いくら自然度のある小野路図師と言っても、厳寒の冬の自然の変化は鈍足であると前回書いたと思う。すなわち自然が深いからそれだけ固く閉ざされていると言っても過言ではなかろう。また、自然が深過ぎるから野鳥の撮影も難しいのだ。いくら散策して心休まる静かな小野路図師のフィールドと言えども、良い写真が撮れなければ行く魅力は半減してしまう。そんな訳で「行ってもなあ」なんて気持ちになってしまうのだ。来年の今頃はデジスコを手に入れている事だろうから、厳寒でも、また、野鳥が遠くとも散策しながら良い写真が撮れるだろうと期待している。そんな言い訳をして、当初の週一回の予定は止めにして、2月は2回行く事だけとした。このところ青空一杯の安定した冬型が続かないが、やはり立春を過ぎてお天気も変わりやすくなって来たのだろう。天気予報では今日は寒いが冬晴れの一日とあったが、横浜市はどんよりと曇っている。しかし、小野路方面は晴れているようだから期待して出かけた。しかし、到着してみると小野路町も陽が差していない。見上げる空は青空なのだが太陽が低い軌道だから雲に隠れているのである。お隣の多摩市や八王子市は真っ青な青空が広がり、東京都内も晴れていて陽が射しているようだ。どうやら海に向かって多摩川より西の地域はどんよりと曇っているようなのである。
 今日もこのところのパターンで、牧場方面へまず行った。まだ梅の花を登場させていなかったので、是非とも撮ろうと思った訳である。牧場上の梅林は満開だが、牧場下の広大な梅林は僅か一輪二輪咲いている。前回来た時は固い蕾のままだったのだから、季節の進行は鈍足ながらも着実に春に向かっている事は確かだ。ここの梅が満開になる頃、モンシロチョウやベニシジミが飛び出す事だろう。そんな期待もようやく芽を出して葉が伸展しだしたスイバやギシギシを見れば遠からずとも思える。心なしかオオイヌノフグリ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ナズナ、タネツケバナの群落もいくらか広がったように感ずる。今日はまだ陽が射していないから、コバルトブルーのオオイヌノフグリの花は開いていないが、梅林の地面に這うようにして咲いているカントウタンポポを写そうと行って見たら、こちらも太陽が出ないと花開かないようである。何処を見回してもナズナの可愛らしい純白の花が目立つ。七草粥の頃ではまだ花が咲いていないからナズナを識別出来ずに、七草摘みはした事がないが、今なら簡単に識別できる。しかし、花が咲き出したらきっとその葉は硬くなってなってしまうのだろう。七草の中でゴギョウ(ハハコグ)、ホトケノザ(コオニタビラコ)も花が咲いていないと識別出来ないから、ハコベラ、セリ、スズナ(カブ)、スズシロ(ダイコン)で粥をつくってもなあと考え込んでしまうのだ。いつか春の七草摘みのイベントに参加しなくてはならない。
 小一時間で梅や野の花の撮影を済ませると、今日は本気で野鳥を撮るんだと勇んで窪地になっている栗林に降りて行った。前回来た時はカワラヒワが見られたのだが、今回はホオジロとカシラダカが多い。ともに近づくとすぐに飛び立って付近の樹木の小枝に止る。この時がチャンスなのだが、焦点距離が1500ミリ位ないと大きく写せない。しからば前進と更に近づくと飛び去ってしまう。これはミヤマホウジロと同じである。ミヤマホウジロが出たところで、ミヤマホウジロはホウジロとカシラダカとどちらに似ているかと言うと、断然、カシラダカである。近づけないものの遠くから超望遠レンズを通してカメラで観察していると、カシラダカの目の上の眉斑が白ではなく黄色だったら、素人目にはミヤマホウジロと区別がつかない事だろう。そんな訳で今日も証拠写真程度にしか撮影出来ずに万松寺谷戸に下りて行った。カラスとスズメでなければモズでもヒヨドリでもムクドリでもツグミでもいいやと言う訳である。しかし、人の多い公園では至近距離で写せるこれらの鳥も、自然度の深い小野路町では近づけない。ただ、そんな無念の連続にお恵みを下さったのは美人のジョウビタキの女の子で、綺麗に撮ってねとポーズをつくってくれたので、やっとのこと大きく野鳥をカメラの中に納める事が出来た。こんな親切で可愛らしい年若い女の子って、下界にはいるのだろうか。「おじさん超ダサイ、邪魔だからどいて」と突き飛ばされそうな女の子ばかりである。まあ、嘆き節はこのへんにして、今日もデジスコが欲しい、誰か恵んでくれないかなと感じた小野路町であった。

<今日観察出来たもの>花/ウメ(写真上左)、ソシンロウバイ、ナズナ、タネツケバナ、オオイヌノフグリ、ホトケノザ(写真下左)、ヒメオドリコソウ、ハコベ等。鳥/ハイタカ、ノスリ、ツグミ、モズ、ルリビタキ、ジョウビタキ(写真下右)、ヤマガラ、メジロ、コゲラ、ヒヨドリ、モクドリ、シジュウカラ、カシラダカ、ホオジロ等。その他/ガガイモの実(写真上右)等。


2005年1月30日、東京都町田市小野路町

 一月に必ず4回この「小野路図師紀行」を書くつもりでいるのだが、やはり厳冬期は四季の微妙なる変化も鈍足である。それならやって来た冬鳥達を撮影すれば良い訳だが、自然度がありすぎてカメラの中に納めるのが至難のフィールドである。野鳥はたくさんいるけど距離がみな遠いのである。そんな訳で今日は日溜りに早くも咲く道端の草花を狙うつもりでいたのだが、朝起きで見ると北風が非常に強い。昨日の不安定な天気は低気圧のためで、その低気圧が北海道沖で非常に発達したのだろう。これでは草花たちも多いに揺れて今日は駄目かもと思ったが、愛車小野路号は逆風の中を頑張ってひたすら走ってくれた。マラソンで良く逆風は走破タイムを著しく悪いものにすると言われているが、今日の逆風の中の走行は燃料をいつもよりかなり消費したに違いない。それほど風が強かったのである。もちろん今日は小野路一暖かい牧場周辺の散策である。そこでいきなり牧場まで行って道端に駐車した。前回行った時より早咲きの梅はかなり開いていたが、風が強くてお手上げである。そこで少し小野神社のほうに下ると、不思議な事に風がほとんど無くなった。自転車に乗ってウサギの餌を採りに来た方が、「ぐるっと丘に囲まれているから風が来ないんだよ」と言っていたが、まさにその通りである。その方がウサギの餌にするのだとノゲシばかりを採集しているので、「ウサギが好きな草ってあるんですか」と聞くと、「白い乳が出るこの草が一番好きなようだね」とおっしゃる。ウサギなんてどんな草でも食べると思っていたので、非常に勉強になった。どうやらウサギはタンポポ等のキク科植物が好きなようである。
 ここの日溜りは寒中暖ありと言った様相を呈していて、オオイヌノフグリ、ナズナ、ホトケノザがかなり咲いていた。しかし、オオイヌノフグリの葉は夜の寒さによってか黄ばんでいるものが多く、3月に入っての生き生きとした緑の葉とは程遠い。一生懸命これらの草花を撮影していたら、クロオオアリがせわしなくファイダーの中を横切って行った。あたりを見回すとかなりの数のクロオオアリがうろうろしている。まだ1月だというのに本当に働き者の昆虫である。この他、ナナホシテントウも徘徊していて、身体の色が真っ赤なものからやや黄色いものまで見ることが出来た。ナナホシテントウは羽化したばかりの時は黄色っぽいのだが、まさか羽化したばかりとは思えず、なんだか不思議な思いに駆られた。ことによったら羽化したばかりのものもいて、寒さのために真っ赤になりきれないのかもしれない。丘の上の畑を見回すと、パクチョと呼ばれる中国野菜の花が黄色く咲いている。その隣にはアブラナの花も少しだが咲いている。どちらもアブラナ科の植物で、その花を「ナノハナ」と呼んでも間違いではないのだが、正真正銘のナノハナはアブラナの花である。一応、今日の撮影目的は無事終了したので丘を再び登って下り、植木屋さんの植え溜に行って見ると、ソシンロウバイは早くも散り、紅梅が美しく咲いていた。その他、去年挿し木して無事に活着したネコヤナギが、ますます銀色の綿毛をのぞかせていたので撮影した。
 午後からは野鳥撮影だと久しぶりに恵泉学園下の谷戸や午前中にカワラヒラの団体さんが見られた植木屋さんの植え溜などへ行ってみたが、野鳥の姿はほとんど見られず、こうなったら小山田緑地の駐車場に車を停めて、反対側の谷戸へと思い行ってみたものの、これまた何もいない。時計を見ると2時半である。午後から重たい野鳥撮影用の機材で散策したのに、一回もシャッターを切っていない。これでは超欲求不満になるわいとばかりに、何か必ず野鳥が見られる小野路町・図師町ではない、お隣の野津田町の薬師池公園へ行って鬱憤を晴らそうと行ってみると、シジュウカラやアオジは勿論のこと、可愛らしいルリビタキの雌が出迎えてくれた。帰り際に初老の男性の方が超望遠レンズを構えているので、「何かいるんですか?」と聞いてみると、オオモズが出たのだとの事であった。聞くところによると、我が国では北海道に稀に見られる白っぽいモズより一回り大きい身体をしていると言う。これが本当なら薬師池公園は野鳥ファンでごったがえす事になるだろう。

<今日観察出来たもの>花/アブラナ、パクチョ、ナズナ、オオイヌノフグリ(写真上左)、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ハコベ(写真上右)、ウメ、ソシンロウバイ等。昆虫/ナナホシテントウ(写真下右)。鳥/ツグミ、シロハラ、モズ(写真下左)、カワラヒワ、ルリビタキ、メジロ、オナガ、コゲラ、ヒヨドリ、シジュウカラ等。その他/ネコヤナギの冬芽、芽生えたサヤエンドウ等。


2005年1月18日、東京都町田市図師町・小野路町

 いくら自然度が高くいつも期待を裏切らない図師町・小野路町のフィールドとは言えども、この時期に毎週行って四季の微妙な変化をカメラに納めようとしても無理からぬ事である。なにしろ本格的な冬となって、今が一番寒いのだから生命だって凍えている。変化したくったて微妙にも変化出来ないようなのだ。牧場方面に行く手をとれば、なんとかかなりたくさんの被写体に巡り会えるだろうと思ったが、今日は久しぶりに図師町の谷戸へ行って、風景写真を撮ることから始めてみた。もうかれこれ何年も通っているから風景写真となると、いつか撮ったものとなってしまうので、とりあえず谷戸田にビニールを被って止まっている耕耘機を入れて谷戸全体を撮影した。他に良い景色はないかと探し回ったが、写欲を誘うものにお目にかかれない。しからばマクロレンズで切り取るものはないかと探したのだが、花の谷戸として名高い場所だが、この時期には何もない。ノハラアザミやベニバナボロギクの枯れた花穂を撮っても余りにも寂しすぎる。また、いくらかは白い綿毛がのぞいているのかなと期待したネコヤナギの冬芽も固いままである。そんな訳で五反田谷戸ではほとんどシャッターを切らずに、お隣の白山谷戸へ行った。12月に来た時にウグイスカグラが咲いていたので、今日はもっとたくさん咲いているかもしれないと期待したのだが、ほとんど蕾ばかりで、本来の花期に戻ったようである。谷戸にある畑にキウイが栽培されていて、おかめ顔の葉痕でも撮ろうと思ったが、自然度の高い谷戸にユーモラスなキウイの葉痕は似つかわしくない。秘密のクリ畑へ行って見ると、相変わらず緑色に光るウスタビガの空繭が4個程風に揺れていた。その他に何かぶら下がっていないかなと探し回ると、ヤママユの空繭も一つ風に揺れていた。そうこうしていると、この場所は暖かだからテングチョウらしき蝶が現れて何処かに消えた。真冬に生きた蝶を見るなんて、なんだか狐に化かされたような心地がした。
 そんな訳で午前中はとても不本意な結果となって、昼食を食べると、まず牧場まで車を乗り入れた。前回も記したと思うが、この周辺で一番先に咲くウメを青空に抜いて撮影しようと思ったからだ。ここのウメ畑は10本程植栽されているが、その内の2本だけが何故かいち早く咲いて二分咲きとなっていた。真っ青の青空に純白の花を浮かべてみるとファィンダーの中はとても爽やかだが、やはり二分咲きでは華やかさに欠ける。この「小野路図師紀行」に登場させるのはこの次に来た時、すなわち五分咲き以上になってからだとの考えに至った。それと同じように日溜りには、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ナズナ、タネツケバナが咲いていたが、これらもこの次までに大切にとって置くことにした。そこで今日の午後の予定である万松寺谷戸にての野鳥撮影へと潔く牧場を下って行った。薬師池公園近くで昼食をとったのだが、万松寺谷戸に行ってもモズとヒヨドリとツグミ位だろうな、このまま薬師池公園へ行った方が多彩な野鳥を撮影できるのにと躊躇したが、今日は小野路図師紀行なのだからと、そんな心をいさめてやって来たが、予想通りモズとヒヨドリとツグミが圧倒的に多かった。しかし、遅れていたツグミもようやくたくさん谷戸に現れ、草原をつついては胸を張り、少し歩いては草原をつついて胸を張るというツグミ御馴染みの姿を一年ぶりに観察して、心はすっかり軽やかになった。その後、かなり頑張ってみたものの雄のキジが農道を横切ってブッシュに駆け込んだり、浅い水場でシメが水浴びをしたり、エナガがヤナギの梢に群れなしてやって来たりしたものの、カメラに納めたのは予想通りモズ、ヒヨドリ、ツグミとあいなった。そこでまた一般用の撮影機材に変えて、ちょっと一回りして、少ないながらも被写体を見つけて撮影しての帰宅となった。しかし、土曜日曜と二日続きの雨で散策できなかった鬱憤はすっかり晴れて、心も爽快となっての家路となった事は言うまでもない。

<今日観察出来たもの>花/ナズナ、タネツケバナ、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ウメ、ニホンスイセン等。蝶/テングチョウ(?)。昆虫/ウスタビガの空繭、ヤママユの空繭、タテジマカミキリ、チョウセンカマキリの卵のう、オオカマキリの卵のう。鳥/ツグミ(写真上右)、シメ、キジ、ホオジロ、モズ、エナガ等。キノコ/ヒイロタケ(写真下左)。その他/クロモジの冬芽(写真下右)、マンリョウの実、ヤツデの実、ナンテンの実、ナツミカン等。


2005年1月8日、東京都町田市小野路町

 今年から毎週一回、小野路町と図師町のフィールドを散策する事にしたが、立春までの間は左程の変化は無いから撮影するものに難渋するかと思ったが、さすが何でも屋の本領を発揮して、軽く様々なものを撮影出来た。今日は大晦日に降った大雪はほとんど消えていて、いつもの場所に車を駐車する事が出来た。前回来た時は、雪がたくさん残っていたから雪をテーマに散策したが、今日の午前中は牧場の方へ行って、様々な新春にふさわしいものを見つけようと散策を開始した。万松寺谷戸の中程にどうやら見知った方らしい女性が二人、バードウォッチングをしている。いったい誰だろうと思って行って見ると、かわい子ちゃん看護婦のTさんと、お友達の有名私立女子高校のW先生であった。「お久しぶり、今日の鳥の出はどうですか」と聞くと、去年に比べてモズもツグミも少ないと言う。「やっぱりそうなのかな」ともっといろいろ鳥情報を聞きたかったが、まるで姉妹のように仲良いお二人の邪魔をするのも悪いので、すぐにクリ林へ行った。それにしてもお二人とも極寒のロシアからやって来たような服装なので笑ってしまった。クリ林で先ず最初に発見したのは、冬の陽に輝く緑色のクビキリギリスのモズの早やにえである。クビキリギリスは成虫で越冬するのだから、今頃、モズの生贄になるのは了解できるが、褐色に変色していない所を見ると、まだそんなに時間が経っていないのだろう。クビキリギリスがどんな場所で越冬するのかは分からぬものの、モズが探した出せるのだから草原の植物の根際や枯れ草の中等なのだろう。クリ林に見られるジャコウアゲハの蛹は、相変わらず無事に眠っている事を確認すると、氷の張ったKさんの谷戸田を撮影して、牧場方面へ急いだ。
 万松寺の六地蔵脇のハンドル名「石野仏子」ちゃんの石仏に手を合わせた後、畑の中の坂道を上がって行くと、ナツミカンが黄色く色づいて青空に浮かんでいる。もうそろそろ食べ頃のようである。日当たりの良い畑の斜面には、大雪が降ったにもかかわらずオオイヌノフグリやホトケノザが咲いている。さすがに小野路一の暖かい場所だからなと納得する。牧場には相変わらず子牛たちが物憂げにこちらを見ている。牛と言う動物はまるで感情が外からは分からぬ動物だが、毎日接していると牛の気持ちが分かるようになるのだろうか等と考えながら、その横の梅林へ行くと、一輪二輪だがもう咲き始めていた。坂を下っていつもの植木屋さんの畑へ行くと、12月末には黄色い葉がほとんど残っていたソシンロウバイは、すっかり葉を落として満開である。なんとか青空に抜いて新春の爽やかな情緒を写し止めたいと思ったのだが、そう容易く願いを叶えてくれる場所に新鮮な花は無かった。やはり12月の暖冬が影響して、写真としての花盛りは過ぎていたのである。それでもなんとか絵にしてソシンロウバイを撮影すると、その傍にあるナンテンの実はどうなったかと見に行った。こちらはまだまだ色さめずに青空に浮かんでいるのには驚いた。いつものように、その先にある厚手の毛皮をすっぽりと被ったハクモクレンの冬芽を愛で、お隣にフジが植栽されていたので、おどけ顔を見つけて慎重に撮影した。植木屋さんがたくさん畑に挿し木したネコヤナギはすっかり定着したようで、冬芽はかすかに弾けて綿毛が白く見える。手入れをし忘れている草むらのガガイモの実はすっかり種子を飛ばしきって、小さな褐色のカヌーのような格好でたくさんぶら下がっているのがとても印象的であった。午後からは野鳥撮影に切り替えて谷戸周辺を歩き回ったが、モズ、ツグミ、ホオジロがいくらか見られる程度で、カラスだけがガーガー賑やかに騒いでいた。そこでまたまた一般撮影用機材に変えて雑木林の小道を上がって行くと、去年は発見できなかったタテジマカミキリが、ヤマウコギに自分で掘った窪みにすっぽりと嵌って越冬していた。

<今日観察出来たもの>花/オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ソシンロウバイ(写真下右)、ウメ、ニホンスイセン等。蝶/ジャコウアゲハの蛹。昆虫/タテジマカミキリ(写真下左)、チョウセンカマキリの卵のう。鳥/ツグミ、タヒバリ?(写真上右)、モズ、ジョウビタキ、スズメ等。その他/フジの冬芽、マンリョウの実、ヤツデの実、ナンテンの実、ナツミカン等。


2005年1月2日、東京都町田市小野路町

 新しい年がやって来た。新年最初の道端自然観察は小野路町と決めていた。大晦日にかなりの積雪を伴った雪が降った。ノーマルタイヤの愛車「小野路号」では、果たしていつも車を停める場所まで辿り着けるのかしらと心配したが、幹線道路に雪はまったく無く、万松寺谷戸へ入った道もかなり雪が溶けていた。しかし、いつも車を駐車する雑木林の北斜面の道路際はつるんつるんに凍っていた。そこで別の場所に駐車させて貰って、うきうきした気持ちを伴って今年最初の散策を開始した。もちろん今日はフィールドには雪が残っているのだから、雪をテーマとした写真撮影に決まっている。まず最初に、毎年とても良い顔をたくさん見させてくれるクリ林のクズの葉痕「クズ坊、クズ子」に挨拶に行った。「新年明けましておめでとう、クズ坊、クズ子ちゃん」と呟きながら、雪の中でどうしているのかなと探してみると、雪の真っ白な布団の上で、紺青の雲一つ無い冬空から降り注ぐ陽を浴びて、ぐっすり柔和な顔で安心しきって眠っていた。雪を背景としながら葉痕を撮るなんて初めてのことだ。そう思うと雪に覆われたキノコも撮影したことが無かったなと、少しバックしてナメコ栽培の森へ行ってみた。こちらは陽が射さないからとても雪が深い。もちろん長靴を履いて来たが、防寒長靴ではないので雪の冷たさがじかに伝わって来る。ナメコのホダ木が並べてある所は、ヒノキ林だから期待した程にはナメコに雪は積もっていなかった。そこで一応撮影を終えると、たくさん積もっている所から雪を持って来て降らせてやれば雰囲気が出るのではと考え実行してみたが、やはりやらせは今一気分が悪い。せっかくの今年最初のフィールドであるのだから、雪のように心も純白と行きたいものである。
 今日は雪の中の様々な物をマクロレンズで接写して切り取るのも良いが、やはり雪景色を撮らなければもったいない。そこで谷戸奥のKさん老夫婦が耕している田んぼへ行った。ここは山際だから雪が残っているだろうと思ったのだが、もうかなり溶けていた。それでも降雪後の雰囲気溢れる谷戸田を撮影して満足した。雪の田んぼは撮ったから、お次は雪の雑木林だと、またまただいぶ戻って美しい雑木林へ行った。こちらは南に面しているからかなり雪が溶けていたが、それでも満足する写真を撮ることが出来た。雑木林はすっかり裸木となっているものの、常緑のシラカシや針葉樹も混じり、また、ヤマコウバシだけが褐色の葉を付けているのがとても印象的である。雪の地面に何か落ちていないかと探し回ると、各種の葉っぱは勿論だが、朱色のカラスウリの実を見つけて嬉しくなった。この他、コウヤボウキもオケラもひっつき虫のコセンダングサも、ドライフラワーあり、コールドフラワーありと、とても雰囲気溢れる姿で雪の中に生えていた。雑木林の次はもちろん畑だと、お爺ちゃんが耕している丘の上の畑に行くと、小松菜やホーレンソウはすっかり雪に覆われ、背の高いダイコンと白菜が雪の中から顔を出していた。また、南斜面のかなり雪が溶けた畑では、コムギがまるで雑草然として顔を出していたが、初夏になれば立派な穂が出て実るのだからまこと不思議である。稲の苗に比べるとまったく頼りの無い禾本科雑草としかみえない小麦だから、こんな寒さや雪にもめげずに生長するのだろうと変に納得してしまうのだから幸せ者である。その後、Tさん宅前を通ってキノコ山に行って戻って来たが、雪の中を歩くのはとても疲れ、小野路神社に参拝して早々との帰宅となった。

<今日観察出来たもの>降雪後の様々な風景、降雪後の雑木林(写真上左)、雪の積もった丘の上の畑(写真上右)、クズの葉痕(写真下左)、カラスウリの実、ナメコ(写真下右)、シイタケ等。



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