多摩丘陵

小野路図師紀行
(第2集)



2005年 1月2月 3月4月 5月6月 7月8月 9月10月 11月12月



2005年4月24日、東京都町田市小野路町

 ゆっくり寝てから出かけようと思っていたが、「そんなに寝ていたら、面白さ一杯の道端自然観察の時間が少なくなりますよ」と、お脳の細胞に近頃のその楽しさがインプットされてしまったようで、いつもより早く目覚めてしまった。これは決して歳をとったからではもちろんない。そんな訳で小野路町の万松寺谷戸にはいつもより30分位早く着いたが、いつも車を停める路肩には見慣れた車が2台止っていた。一番前方が谷戸ん坊さんの車、その次に五箇山男さんの車と言う訳で、この順に到着した事を示している。車を降りてふと日陰になった路傍を見ると、軟式テニスのボールを半分切ったようなものがある。何だろうと近づいて見るとキノコである。きっとオオチャワンタケなのだろう。図鑑によるとこんなに形の整ったものは無いようだが、こんなに大きなチャワンタケは他に載っていない。何しろこの茶碗の大きさなら、喫茶店のコーヒー1杯分位ならこぼれることはない。これはひとつ撮影しておこうとも思ったのだが、まるで絵にならないから止めにした。今日の午前中の散策はニリンソウの谷から美しい雑木林だから、S自動車修理工場の前を左折する。今日は日曜日だというのに社長と奥さんがいるので、「良く働くね、今日も仕事?」と聞くと、「バーベキュー」との返事が返って来た。毎年、この時期に親類縁者が集まって、盛大にバーベキュー・パーティーを催しているのだ。「お昼に食べに戻って来な」と誘われた。本当に小野路図師は自然が豊かなだけでなく、そこに住む人たちの人間性も素晴らしいのである。
 ニリンソウ、イチリンソウの群落地へ着くと、先週と全く同じで、また、五箇山男さん夫妻が足止めをくらっている。「白い花は難しい、先週、気に入ったものが撮れなかったので」と言う訳である。今日は本当にイチリンソウ、ニリンソウの盛期で、一面に咲いてとても美しい。しばらく撮影していると五箇山男さんの姿が突如として消えた。どうしたのだろうかと辺りを見渡すと、草原でなにやら一生懸命に撮影している。近づいて行くとツマキチョウがヒメオドリコソウに止っている。これはとても絵になる場面で、私も是非撮りたいなと思ったが、そこはぐっと感情を抑えて五箇山男さんが撮影し終わるまでじっと待った。するとなにやら黒っぽい小さな蝶が飛んで来て草むらに止った。近づいて見ると久しぶりのトラフシジミである。トラフシジミは何処にでも生息しているのだが、何処でもその個体数が非常に少ないという謎めいた蝶である。慎重に近づいたが、シャッターを押すまでには至らなかったのはとても残念である。五箇山男さん夫妻は今日も谷戸巡りをすると言うので先に送り出して、かなり待ってみたが、ツマキチョウもトラフシジミも現れなかった。
 美しい雑木林へ行く途中、やっと咲き出したセンボンヤリや、畑に美しく咲いているサヤエンドウや釣鐘状のブルーベリーの花を撮影した。お爺ちゃんが耕している畑はとても綺麗だが、休耕している畑にはカントウタンポポが一面に咲いて眩しい程である。その畑と竹林が接する辺りにはとても太いタケノコが顔を出して、モウソウチクの勢いにはびっくりであるが、これはまことに困ったことなのである。小道に引き返すとトゲアリがたくさん樹木の幹に集まっている。どうやら幹に出来た穴がトゲアリの巣のようである。どうして胸部の後ろに闘牛も顔負けの棘を生やしているのだろうかといつも思うのだが、何の役にも立たないただの飾りのようにも見えるが、ことによったら天敵に痛い思いをさせるためにあるのかもしれない。美しい雑木林に着くと、まずはヤマコウバシを観察する。やっと全ての枯れ葉は落ちて花が咲いている。いつまで枯葉をつけているのだろうかと心配していたが、ちゃんと全て落ちていたのだから感動する。美しい雑木林の中は何処を見回しても緑一杯になって来ていて、空を仰ぐと色とりどりの葉が開いて美しく、まだいくらか青空が残っているから尚更美しい。こんな若葉をゼフィルスの幼虫たちはもりもりと食べて、後1ヶ月もすれば、この美しい雑木林に現れる事だろう。今日は湿度が低く吹く風は本当に心地良く、いつまでも雑木林の中をさ迷っていたかったが、S自動車修理工場のバーベキューパティーの時間なのでしぶしぶ雑木林を離れたが、S自動車修理工場で待っていたものは、それ以上に美味な食べ物の数々であった。午後からは美味しいものをたくさん食べて満腹になり、早起きした事も手伝って、恐ろしい睡魔が襲って来たので車の中で一寝入りした後、また散策を開始したが、意識朦朧としてさ迷い歩いたのみとなった。やっぱり充実した道端自然観察及び写真撮影には、充分の睡眠と粗食が肝要と思い知った訳であった。

<今日観察出来たもの>花/イチリンソウ(写真中左)、ニリンソウ、センボンヤリ(写真中右)、ムラサキケマン、スミレ、ヒカゲスミレ、マルバスミレ、タチツボスミレ、オトメスミレ、ビオラソロリア、キジムシロ、ミツバツチグリ、ヘビイチゴ、レンゲソウ(写真下左)、カラスノエンドウ、カントウタンポポ、ムラサキサギゴケ、トキワハゼ、カキドオシ、ケキツネノボタン、タガラシ、ヤマコウバシ(写真上右)、アオキ、アケビ、ミツバアケビ、サルトリイバラ、ミツバツツジ、サヤエンドウ、ブルーベリー等。蝶/アゲハ、ツマキチョウ、モンキチョウ、モンシロチョウ、キチョウ、アカタテハ、テングチョウ、ベニシジミ、ツバメシジミ、トラフシジミ、ルリシジミ、ミヤマセセリ。昆虫/キアシナガバチ、トゲアリ(写真下右)、ハンノキハムシ、クロボシツツハムシ、シオヤトンボ、ハンミョウ等。その他/タケノコ、オオチャワンタケ、シマヘビ、雑木林の新緑(写真上左)等。


2005年4月17日、東京都町田市図師町・小野路町

 今日は青空一杯の風も無いとても穏やかな晴天で、久しぶりに図師町の五反田谷戸へ行って、フイルムで風景写真を思う存分撮るぞとの意気込みで出かけた。五反田谷戸の谷戸奥のヤマザクラの古木もきっと咲き残っているに違いないし、途中の雑木林の芽吹きも始まって新緑がかなり進んでいると思ったのだ。いつもの場所に車を停めると、前方に五箇山男さんの車が停まっている。撮影機材を出してさあ出発と思ったら、町田のSさんがやって来た。どうやら今日は谷戸で同好の志にたくさん出会いそうな予感がした。快適な舗装された道を一直線に五反田谷戸に急行しようとも思ったが、イチリンソウやヒカゲスミレが咲いているのではないかと、ニリンソウの谷経由で尾根に上がることにした。歩き始めると路傍に濃い紫のスミレがたくさん咲いている。外来種のウィオラ・ソロリアである。図鑑によると性質が強く、良く花をつけるために急速に広まった北アメリカ原産のものとある。今のところ在来野生種を駆逐するような気配は感じられないが、今後どうなることやらと考えるとゾッとする。目的のヒカゲスミレは蕾がほころんでいて、午後には開くに違いないから帰り際にまた寄ってみることにした。谷戸奥のニリンソウ、イチリンソウの咲く雑木林の縁を見渡すと、熟年男女が撮影に勤しんでいる。どうやら五箇山男さん夫妻のようである。もうこんな所で早くも捕まってしまったのかと苦笑するが、近づくとニリンソウが一面に花をつけていてとっても美しい。それにプラスしてイチリンソウも咲き出していた。
 イチリンソウを手早く撮影すると、どうせお二人も行く先は五反田谷戸だからと、お先に行ってますと足を早めた。キノコ尾根に差し掛かると、見上げる雑木林の梢はかなり芽吹いていてとても美しい。この位の時の方が青空がかなり入るから写真映えするのである。単純に梢を広角レンズで切り取るのは、過去にさんざん撮っているので、何か広角接写でものに出来るものはないかなと探しながら歩いたが、心ははや五反田谷戸でキノコ尾根を足早に下って行った。尾根から谷戸に降りていくと、残念な事にヤマザクラの花はほとんど散っていた。去年は15日が満開であったと聞いていたので、今年は春が遅かったのでちょうど良い頃だと思っていたのだが、春は急速に全面展開したようで、満開は去年より一日二日早かったようである。谷戸全体を見渡せる場所に出ると、見覚えのある方が歩いている。南大沢の秀さんである。今日は五反田谷戸に同好の志が終結かと思われたが、まさにそのよう様相を呈して来た。秀さんもヤマザクラの撮影を期待してやって来たとの事だから、後続する五箇山男さん夫妻ともども、みんな振られてしまった事になる。しかし、谷戸にはムラサキサギゴケが美しく咲き、レンゲソウ、タガラシが彩りを添え、昆虫ではハンミョウ、シオヤトンボ、ツマキチョウ、ミヤマセセリ、ベニシジミ、キアゲハ等が面白いように見られた。また、多分、トウキョウダルマガエルと思われる鳴き声も心地よく響いて来て、休耕田ではアマガエルやアカガエルの姿も見られた。また、これはあまり見たくない代物だが、大きなアオダイショウがヤマザクラの古木の横に這う枝で昼寝をしていた。この他、越冬したルリタテハがサルトリイバラに産卵にやって来たので、卵がついていないかと探してみたら、あちこちに緑色の卵が産みつけられていた。
 秀さんは、この後、小山田緑地へ行ってから、更にウスバシロチョウを見に行くと言うので先に帰ったが、かなり遅れてやって来た五箇山男さん夫妻と昼食を共にした。まだ五反田谷戸で観察及び写真撮影を思う存分すませていない五箇山男さん夫妻を残して神明谷戸に行くと、今度は森のきのこさんに出会った。また、Tさん宅では緑山のKさんがいたから、これにほしみすぢご夫妻と谷戸ん坊さんに出会えば、ほぼパーフェクトだなと思われたが、その後、誰にも出会わずに静にもくもくと自然観察及び写真撮影に専念した。以上、小野路町、図師町は隅々にまで春が広がっていて、これからリンドウ、リュウノウギクが咲き終わる12月初旬まで、面白自然観察及び写真撮影が続くのかと思うととっても嬉しくなった。愛知県では万博が開かれているが、こちらは有料で見たいものを見るに長い間待たされるというが、こちら小野路町・図師町面白道端自然博物館は、もちろん無料でまったく混雑皆無待ち時間無しなのだから素晴らしい。これからいったいどんなものに出会い2005年が締めくくられるのかと思うと、馥郁たる思いが込み上げて来た。

<今日観察出来たもの>花/イチリンソウ、ニリンソウ、フデリンドウ、コケリンドウ、ムラサキケマン、ヒカゲスミレ(写真中左)、マルバスミレ、コスミレ、アカネスミレ、タチツボスミレ、ニオイタチツボスミレ、オトメスミレ、ビオラソロリア(写真中右)、キジムシロ、ミツバツチグリ、ヘビイチゴ、レンゲソウ、カントウタンポポ、ムラサキサギゴケ、トキワハゼ、ケキツネノボタン、タガラシ(写真下左)、オオアラセイトウ、ヤマザクラ、アオキ、ミツバアケビ、クサボケ、キブシ、サルトリイバラ、ミツバツツジ(写真上左)、ハナズオウ、モクレン、ハナモモ、チョウセンレンギョウ、ツバキ等。蝶/キアゲハ、ツマキチョウ、モンキチョウ、モンシロチョウ、キチョウ、ヒオドシチョウ、ルリタテハ、テングチョウ、ベニシジミ、ツバメシジミ、コツバメ、ミヤマセセリ。昆虫/シオヤトンボ(写真上右)、ハンミョウ(写真下右)等。その他/アマガエル、ヤマアカガエル(?)等。


2005年4月10日、東京都町田市小野路町

 昨日の石砂山の遠征で、だいぶ身体が疲れていたものの、来週は月曜日〜水曜日まで雨という予報なので、一週間に一度は行くつもりでいる小野路町へ行った。途中、野津田公園のソメイヨシノがあまりにも綺麗なので、寄り道して撮影した。いつも思うのだが小枝一杯にたわわに咲いて、こんなに咲いても大丈夫なのかと心配するのはスモモ以上である。ソメイヨシノは確かに美しいが、情緒という点においては私の感覚にはそぐわない。しかし、この時期を象徴する花は誰がなんと言おうともソメイヨシノだから、なんとか青空に抜いたものを撮影しようと思ったのだが、風がかなり強くて小枝の揺れが止まらず、幹に咲いているものを影した。今日ですら既に散り始めていたのだから、3日連続の雨でほとんど散ってしまうことだろう。サクラの花の命の身近さは言うまでも無い事だが、今年はなかなか咲かずに気温が急に上昇して一気に咲いたから、その感は例年より尚更である。ソメイヨシノの撮影に梃子摺ってしまったので、小野路町に着いたのはいつもより1時間遅れとなった。そこで午前中は、ニリンソウの谷から美しい雑木林へ行って帰ってこようということにした。まさか咲いているとは思わなかったニリンソウが、咲き出していたのには驚いた。本当に今年は全ての春の花が一挙に咲き出したようで、小野路町のフィールドでも各種の花木が時期を違わずして咲いているのだから、野の花だって左へならえと言う訳なのである。
 去年、ニリンソウが咲いた頃にクワの木の下にキツネノワンと言うチャワンタケの仲間が生えていたので、もう生えているかなと探してみると、まだ椀状には生長していないものの見つける事が出来た。このキノコは落果したクワの実から生えてくると、お世話になっているNさんのHPで知ったので、果たして本当かなとナイフで掘り出してみると、写真のように干からびたクワの実から確かに生えていた。子嚢菌類キンカク科のキノコは様々なものに菌核を作って、小さなお椀のようなキノコを生やす。いつか紹介したことのあるツバキの根元に発生するツバキキンカクチャワンタケや、ニリンソウやイチリンソウの根元から発生するアネモネタマチャワンタケ等が有名である。ニリンソウの谷には、この他、タチツボスミレの一品種であるオトメスミレやアオイスミレが咲いていたが、ヒカゲスミレやマルバスミレはまだ咲いていなかった。また、昆虫ではオオニジュウヤホシテントウを見つけた。ジャガイモ等のナス科植物の害虫だが、その顔面は草食性の動物特有の柔和な顔をしている。オオニジュウヤホシテントウが発生したのをみると、そろそろ畑のジャガイモの芽も伸び始めたのかもしれない。
 ニリンソウの谷から尾根に登ったが、風がとても強い。今日は様々な樹木の芽吹きを撮るつもりでいたのだが、これでは被写体が揺れに揺れて撮影することが困難である。それでも銀鼠のように毛羽立って輝くコナラの葉や咲き出したアオキの花を撮影した。去年、フデリンドウが一輪だが咲いていたので、今年はどうかなと探してみたのだが見つからなかった。しかし、美しい雑木林の掃き清めたような地面からは様々な芽生えが始まっていて、独特な葉であるホトトギスやヤマユリはすぐに判別出来た。また、いつ枯れ葉を落とすのだろうとずっと気になっていたヤマコウバシだが、芽が緑色に膨らんだ枝だけ枯れ葉を落としていたので、枯れ葉が落ちるのと芽吹きとが同時になされる事が分かった。このようにかなり頑張ったのだが美しい雑木林の中も強風でお手上げなために、またニリンソウの谷に下って、ナメコ栽培の森に通ずる小道に入ると、ミツバアケビの可愛らしい蕾がたくさん膨らんでいて、もうすぐ花開く事だろう。また、ミズキの葉がかなり伸展していて、青空に浮かんで太陽の陽を透かしてとても美しかった。また、シオヤトンボが一匹目の前を通り過ぎて行った。今年初めてのトンボとの遭遇である。午後からは万松寺谷戸奥へ行ったが、アブラチャンの花のついた小枝は強風のため揺れに揺れ、可愛らしい卵形のカツラの芽吹いた葉を風と我慢比べをしてなんとか撮影出来た。以上、今日の小野路町は風に悩まされた一日となったが、春は猛スピードで進行していて、この分ではイチリンソウ、キンラン、ギンラン等も近々花咲くだろうと感じられた。春は超音速のジェット機のように軽やかに飛んで、行く先に着陸予定の初夏空港が、もうすぐそこに見え始めたようであった。

<今日観察出来たもの>花/ニリンソウ、ムラサキケマン、アオイスミレ、コスミレ、ノジスミレ、アカネスミレ、タチツボスミレ、キジムシロ、カントウタンポポ、ムラサキサギゴケ、ケキツネノボタン、タガラシ、オオアラセイトウ、コマツナのハナ、ツクシ、クロモジ、アブラチャン、アオキ、ミツバアケビ、コブシ、モクレン、クサボケ、キブシ、ハナモモ、ボケ、チョウセンレンギョウ、レンギョウ、ソメイヨシノ(写真上左)、スモモ、ツバキ等。蝶/アゲハ、キアゲハ、ツマキチョウ、モンキチョウ、モンシロチョウ、キチョウ、ルリタテハ、アカタテハ、キタテハ、テングチョウ、ベニシジミ、ミヤマセセリ。昆虫/コガタルリハムシ、オオニジュウヤホシテントウ(写真下右)、ナナホシテントウ、シオヤトンボ等。鳥/ガビチョウ、ウグイス等。キノコ/キツネノワン(写真下左)、トガリアミガサタケ等。その他/カツラの芽吹き(写真上右)、ミズキの芽吹き、コナラの芽吹き等。


2005年4月2日、東京都町田市小野路町

 今日は朝の内は晴れているものの一日中曇り空という事で、期待したミヤマセセリやコツバメは飛びそうにもない。その他の蝶や昆虫のお出ましも少ないだろうから、花専門で歩き回ってみようと考えて、いつものように午前中は牧場の方へ行った。まず最初に撮影したのは、畑の斜面に咲いているノジスミレである。どういう訳かは分からないものの小野路町では人間の臭いのする場所に生えている。名前に野地とつくのだから、なんだか民家の脇の路地裏に咲いていてもおかしくない。万松寺から右に曲がって小道を登って行くと、民家の周りにオオアラセイトウが美しく咲いている。やがて小野神社からの小道を左に折れてしばらく行くと、コスミレが数株咲いていた。コスミレもどちらかと言うとノジスミレ程ではないものの、人間の臭いのする場所に多いように思われる。実をとるための梅林はすっかり花を落とし、その根元には相変わらずコバルトブルーのオオイヌノフグリの海が広がっている。そんな美しい海の中に黄色のカントウタンポポの小島が点在しているのだから堪らない。牧場下では濃緑色のスイバの海の向こうに赤紫のホトケノザの海が続いている。今日もベニシジミやモンキチョウが少ないながらも飛んでいて、スイバにはコガタルリハムシが忙しそうに活動していた。美しい竹薮の脇の小道を歩いていると、農家の若夫婦が一生懸命にタケノコを探している。「もうタケノコが出てるの?」と質問すると、「地面に隠れているタケノコを探しているんだ!」との事であった。良く見ると足で地面を小幅に踏み踏み歩いている。地面に隠れているタケノコの上を踏むと、なんとなくタケノコがあるなと言う感触が伝わって来るのだと言う。しばらく見ていたら、確かに数本のタケノコを探し出したのには敬服した。
 空は次第に曇って来て、こんな日にハクモクレンを撮影しようと思っても、青空に抜いて清々しく撮れないから行っても無駄と承知していたが、植木屋さんの畑のハクモクレンの大木を見に行った。今日は満開一つ手前であったが期待通りに咲いていた。もう背後には青空はなく、なんとかものにしようと様々な角度からカメラを覗いて見たがシャッターを押す絵とはほど遠かった。やはり端午の節句のコイノボリと同様、ハクモクレンは青空がとても似合う。そんな訳で植木屋さんの畑ではお目当てこそ空振りであったが、ハナモモとボケを撮影した。今日も早起きしてやって来たからかなりまだ時間がある。そこで久しぶりに小町井戸経由で車に戻ることにした。途中、雑木林でコナラの芽吹きやクロモジの花を撮影し、去年、野津田のYさんに教えていただいたアオイスミレとナガバノスミレサイシンの自生地に胸躍らせて行ってみると、縮こまった花弁が印象的なアオイスミレと品格ある美しさのスミレサイシンが咲いていた。今日はニオイタチツボスミレ、マルバスミレ、ヒカゲスミレにこそお目にかかっていないものの、スミレデーにしようと頑張って撮影した。
 午後からはシュンランとクサボケを撮ろうと、前回と同じようにキノコ山に登ってTさん宅前を通り、美しい雑木林までの定期巡回コースを歩いてみることにした。キノコ山に着いて頂上へ登ろうと雑木林の小道に歩みを進めると、前方に可愛子ちゃん看護婦のTさんがコナラの根元に佇んでいる。「良い所に来たわ、花虫さん、このスミレなあに?」と質問された。見ると紫色の濃いTさんのように可愛らしいスミレだ。即座に「ニオイタチツボスミレ」と答え、撮らして貰おうと三脚をセットしてファィンダーを覗くと、どうも葉の形や花がニオイタチツボスミレとは異なる。「間違えっちゃった、これはアカネスミレだ」とTさんに訂正した事は言うまでもない。なにしろスミレ類は年一回の短期間に花開くから、かなりお脳にその区別点を叩き込んだつもりでいても、いつのまにか忘れてしまうのだ。そこでTさんに「スミレって年に一度の青色申告のようで、咲く時期になると忘れちゃうんだよね」と照れながら弁解した。どうやらTさんはスミレに興味しんしんなので、午前中に見つけたアオイスミレとナガバノスミレサイシンを見せてあげてとても感謝された。Tさんと連れ立ってTさん宅前へ行くと、賑やかな話し声が聞こえて来る。山と渓谷社から「里山生き物博物誌」を出版なされているSさんや緑山のKさん等もその中にいる。「今度、里山生き物百人一首というテーマに取り組んでいるんだ」と言うと、「それは素晴らしい企画だよ、きっとものになるよ」とKさんに励まされた。たくさんの人がいるのですぐに立ち去ろうとするとTさんが、「H牧場のナツミカンを食べて行きなよ」と言われたので、「山歩きで疲れた身体には最適なんですよね」と言ってご馳走になった。その後、Tさんと分かれて美しい雑木林まで行ったが、途中、お目当てのシュンランとクサボケを雰囲気溢れる広角接写で撮影出来て溜飲を下ろした。昨日の「舞岡の春、万歳!」に続いて、今日も「小野路の春、万歳!」となって、「やって来た春、万歳!」となった事は言うまでも無い。

<今日観察出来たもの>花/アオイスミレ(写真下左)、ナガバノスミレサイシン(写真上右)、コスミレ、ノジスミレ、アカネスミレ、タチツボスミレ、シュンラン(写真上左)、キジムシロ、カントウタンポポ、レンゲソウ、ムラサキサギゴケ、スズメノテッポウ、タガラシ、オオアラセイトウ、ナノハナ、ナズナ、タネツケバナ、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ハコベ、フキノトウ、ツクシ、クロモジ、コブシ、ハクモクレン、クサボケ(写真下右)、キブシ、ハナモモ、スモモ、アンズ、ボケ、チョウセンレンギョウ、ヒュウガミズキ、アセビ、サンシュユ、ツバキ、ジンチョウゲ、ウグイスカグラ等。蝶/モンキチョウ、モンシロチョウ、ベニシジミ。昆虫/コガタルリハムシ、ニホンミツバチ等。鳥/ツグミ、コゲラ、ウグイス等。キノコ/ヒイロタケ、トガリアミガサタケ等。


2005年3月27日、東京都町田市小野路町

 今日は一日中風が強かったが非常に快適な散策日和となった。心も身体もとても快調で、昨日書いたように、古い根を断ち切って新しい根を生やそうとしているがごとくである。今年はこれからとても良い事がありそうに感ずるのだから嬉しくなる。今日も例によって牧場方面からの散策を開始した。先ず最初に、こんなものを撮影すると笑われてしまうかもしれないが、また、ウィークエンドナチュラリストの道から外れているかもしれないが、ネギボウズを撮った。どうしてだか知らないがネギボウズがとても好きなのである。トガリアミガサタケと同じで尖がり帽子には何とも言えぬ郷愁を感じてしまうようなのだ。「緑の丘の赤い屋根、尖がり帽子の時計台、鐘が鳴りますキンコンカーン」という歌を亡き母の背で聞いたかもしれないし、また、良く歌ったからかもしれない。学生時代に長野県松本市に1年間住んでいたが、尖がり帽子のある開智学校周辺に下宿していたし、長野県伊那市には3年間住んでいたが、ここにも尖がり帽子の丘の上のカトリック教会があって、その周りをよく散歩したものである。まあ、とんでもなく横道に逸れてしまったが、尖がり帽子の建物はなんとなく夢があると感じるのだろう。ネギボウズを撮影すると、今日の牧場下での本命とも言えるベニシジミを探した。最初の内は気温が低いためか現れなかったが、早くも交尾しているナナホシテントウ等を撮っていると、やがて数多くのベニシジミ現れた。牧場下にはベニシジミの幼虫の食草であるスイバがたくさん見られ、吸蜜植物としてはオオイヌノフグリや咲き出したカントウタンポポがたくさんあるから、ベニシジミには格好の生活空間なのだろう。今日はその他、相変わらずモンキチョウが乱舞していた。
 前回来た時はここで引き返したが、今日は一旦坂を下って昇り返して植木屋さんの畑へ行った。途中、たくさん植栽されているサンシュユは満開でとても綺麗である。竹林脇であまり陽が当たらない場所のフキノトウは、やっと目覚めて可愛らしく咲いている。良く陽が当たる場所のものに比べるととても弱々しいが、食べたらこちらの方が柔らかくて美味そうである。植木屋さんの畑に到着して期待していたハクモクレンの大木を見上げると、残念な事にあと数日後が見頃であった。これは残念と辺りを見回すと白い花が咲いている。植木屋さんの畑だからシデコブシの白いものかなと思って近づいて見ると、コブシであった。まだ蕾のものもあったが、なんとか様になる花を見つけた。何しろコブシの花弁はヒヨドリの大好物であるから、可愛そうな事に食べられてしまったものも多いのである。「ヒヨちゃん」なんて愛称で野鳥好きに呼ばれているヒヨドリだが、様々な花木の花弁を食べるのだからとても困り者で、今日は「ヒヨ坊」とでも呼びたくなった。この他、植木屋さんの畑にはアセビ、ボケが咲いていて、ネコヤナギはすっかり花が開いて元村山総理大臣の眉毛のようになっていた。以上のように百点満点とは行かないものの、ハクモクレンの代わりにコブシを撮ったから万松寺谷戸に下って尖がり帽子のトガリアミガサタケを観察し、様々な越冬明けの蝶や活動し始めた昆虫を撮る事にした。いつもより早く起きて来たからまだかなり時間がある。二三日前にかなり雨が降ったからトガリアミガサタケは爆生していると思ったのだが、大きくなったものが2本と幼菌が2本でとても寂しい。誰かキノコを食べる趣味のある方が来たのかなと思ったが、そうでもなさそうである。トガリアミガサタケの爆生を、広角接写で風景まで取り入れて撮ろうと思っていたのだからとても残念である。しかし、テングチョウやキタテハ、ビロードツリアブやイタドリハムシが現れて、その残念な思いを打ち消してくれた。
 午後からは機材を軽装に変えてキノコ山に登ってTさん宅前を通り、美しい雑木林までの定期巡回コースを久しぶりに歩いてみることにした。キノコ山は綺麗に山掃除がなされていて、今年はここに生える山野草やタマゴタケ等のキノコを広角接写で撮影出来るなとほくそ笑むが、今日は撮影すべきものが何もない。キノコ山を登って下り、Tさん宅前を通り過ぎようとすると緑山のKさんに出合った。「下に谷戸ん坊さんの車が停めてあったけど会わなかった」と聞くと、会っていないと言う。「おかしいな、もうお帰りの時間なのにね」と言うと、「久しぶりのようだし、天気も良いから奥まで行ってるんじゃないの」という事になった。今日は帰りがけに奈良北団地のK女史にもあったし、みんなみんな活動を再開したようである。美しい雑木林まで行く途中、咲き始めたシュンラン、タチツボスミレ、キジムシロ、キランソウ、クサボケ、カントウタンポポ等を観察した。美しい雑木林の中にもまだミヤマセセリ等は飛んではいなくて足早にイチリンソウの谷に下って行くと、ルリタテハとテングチョウがテリトリーを張っていた。ルリタテハはコンクリート製のプランターの縁に止っていて今一絵にならないものの、越冬明けとは思えないとっても美しい完全個体であるので静に近づいてシャッターを切った。以上、今日は前述したように心も身体もとても快調で、シュンランが咲き始めたからリンドウが咲き終わる晩秋まで、いよいよ花虫撮るの小野路図師参りの本格的な火蓋が切られた。今年は人間をも含めたどんな出会いがあるのだろうか。そう思うだけで楽しさ一杯の日々が想像され、とっても明るく気分爽快に小野路町を後にした。

<今日観察出来たもの>花/シュンラン、キジムシロ、キランソウ、タチツボスミレ、カントウタンポポ、コブシ(写真上右)、クサボケ、キブシ、モモ、ボケ、アセビ、サンシュユ、ツバキ、ウグイスカグラ、オオアラセイトウ、ナノハナ、ネギボウズ(写真上左)、ナズナ、タネツケバナ、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ハコベ、フキノトウ、ツクシ等。蝶/モンキチョウ、モンシロチョウ、ベニシジミ、テングチョウ、ルリタテハ(写真下左)、キタテハ。昆虫/コガタルリハムシ、イタドリハムシ、ナナホシテントウ、ビロードツリアブ(写真下右)、ハナアブ等。鳥/ツグミ、ウグイス、アオサギ等。キノコ/ヒイロタケ、トガリアミガサタケ等。


2005年3月21日、東京都町田市小野路町、図師町

 今日は気温がかなり上がると予想されていた。このところ暖かいのでラクダの股引とおさらばして薄手の股引にかえていたが、この股引だってはいていたら足がふやけてしまうだろうと思い、市ヶ尾のセーユーで買ったトレパン一枚で出かけた。もちろん上着も防寒具はやめにして、日本橋馬喰町で買った1500円の厚手のベストにした。小野路町へ行くまでの間はもちろんだが、到着してからもかなり風が強い。今日は思う存分蝶や昆虫を撮るんだと、いつもより早起きして来たというのに、これは実に困ったことだ。風にも揺れないツクシやキノコを撮るしかないかなと、先ず最初に牧場に上って行った。丘の上の梅林は満開を少し過ぎているが、まだまだ青空に浮かんで眩しいくらいだ。この梅林にはハルシメジと言うとても美味しいキノコが生えるのだが、まだ時期は早すぎる。そこで前回来た時より数も多くなり背丈が伸びたツクシを撮影したり、真っ赤な花穂が伸び始めたスイバを撮影していたりしていたら風は次第に治まって来た。すると何処からともなく多数のモンキチョウが舞い出て、軽やかに草原を飛び始めた。モンキチョウの幼虫の食草はマメ科の植物だから、この草原にたくさん生えているシロツメクサやカラスノエンドウを食して生長したのだろう。こんな軽やかに飛んでいては写真撮影などままならないのだが、羽化したばかりなのか止り癖のある個体を見つけて執拗に目で追いかけ、日光浴をしているところを何とか撮影出来てほっとした。蝶の撮影の極意はどんな種類だって、この止り癖のある個体を見つける事が一番なのである。モンキチョウと戯れていると、一頭だがベニシジミが飛び出した。カメラを向けると雑然とした場所なのでシャッターを押す気になれない。どこかもっと絵になる場所に止ってよと飛び立たせるうちに、何処か遠くに逃げ去ってしまった。
 とりあえず牧場周辺ではまずまずの成果だったので、万松寺谷戸に戻ってスイバの葉につくコガタルリハムシを撮影することにした。コガタルリハムシはスイバやギシギシなら、何処にあるものでも良さそうなのだが好き嫌いがあるようで、私達が見ても美味しそうだなと感ずる緑豊かな大きな株が好きなのである。万松寺谷戸には一株だけそのような株があって、毎年、コガタルリハムシが多数発生する。ここのスイバはもう何年も同じ場所で繁茂しているから、スイバは図鑑にあるように多年性の植物なのだと認識する。今日は交尾しているペアの後ろにもう一匹雄がいる。交尾している雄を引き剥がして代わりに雌と仲良くしたいのである。まあ、言ってみれば横恋慕なのだが、昆虫界では常識とは言えるものの横恋慕している雄はかなり心貧しい存在に見える。自慢する訳ではないのだが私は今まで相思相愛が常であったから、この横恋慕の雄の気持ちは分からないものの、男はやっぱり横恋慕などしないで身を引くのが男の美学と感じている。この横恋慕の結末を最後まで観察しなかったが、ことによったら昆虫界ではかなりの成功率があるのかもしれない。と言うことは人間においてもそうなのかもしれないから、好きな女性が出来たら横恋慕と言われようが、執拗に迫るのも良いのかもしれないが、女性の方々いかがなものなのだろうか。
 とても暖かいオオイヌノフグリの群落が美しく広がる谷戸の中央で休んでいたら、森のきのこさんとほしみすぢさんに出合った。こんな陽気ではみんな家の中にはいられないようなのである。午後からはトガリアミガサタケはどうなったかと見に行くと、数は増していて傘も黒くなっていた。五反田谷戸のネコヤナギは今日こそ咲いているだろうと降り行くと、やはり期待通りに咲いていた。本当に久しぶりに神明谷戸へ行ってみると、ルリタテハが二頭くずんばほぐれつの追いかけごっこをしていたり、アカタテハが一頭だが日光浴をしていた。また、谷戸田の湿った場所では羽化したてのモンシロチョウが吸水していたのには驚いた。いよいよ来週は、スプリングエフェメラルの中の蝶の一つであるミヤマセセリも飛び出して来るだろう。今日の神明谷戸では溜池のヒキガエルの産卵も期待していたのだが、生みつけられた少数の卵塊からして、まだこれからなのだろうかと頭をひねった。もっとも溜池は水が多くて深くなっていたから、ヒキガエルは他所で産卵したのかもしれない。今日は朝の内の風の強さに心配をしたものの、終わってみれば心地よい疲れを伴った一日となったことは言うまでも無い。

<今日観察出来たもの>花/キブシ、モモ、サンシュユ、ツバキ、ジンチョウゲ、ウメ、ウグイスカグラ、タチツボスミレ、オオアラセイトウ、ナノハナ、ナズナ、タネツケバナ、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ハコベ、フキノトウ、ネコヤナギ、スイバ(写真上左)等。蝶/モンキチョウ(写真下左)、モンシロチョウ、ベニシジミ、テングチョウ、ルリタテハ、アカタテハ。昆虫/コガタルリハムシ(写真下右)、タテジマカミキリ、ハナアブ等。鳥/ツグミ、モズ、ジョウビタキ、ムクドリ、ウグイス、カシラダカ等。キノコ/トガリアミガサタケ(写真上右)等。


2005年3月12日、東京都町田市小野路町、図師町町

 もう何べんともなく書いているように小野路町、図師町のフィールドはとても自然度が深いから、まだまだ春の目覚めはゆっくりだと考えていた。しかし、天気予報によると今日はなんと18度と予想されていたので、こうなったらたとえ小野路町、図師町のフィールドであっても、路傍の草花は咲き乱れ蝶も飛び始めるのではないかと出かけてみた。天気予報の通りに午前中は気温がぐんぐん上がって本当に暖かい日和となった。こんな日はモンシロチョウ、モンキチョウ、ベニシジミは羽化したか、ツクシは伸び始めたかと牧場方面に出向かないと落ち着かない。そんな期待は見事に叶えられて、なんと牧場付近の草原にはモンキチョウが4頭も見られ、やって来た暖かい春を歓迎してかペアで陽気な踊りを踊っていた。しかし、そんな光景とはなんとなくちぐはぐだが、横浜市の低地ではすでに花期が終わっている実を取る為の梅林はやっと満開となって、青空と対比してとても眩しく感じられた。北国の春は一挙にやって来ると言うが、自然度の高いフィールドの春もかなりまとめてやって来るようである。陽が良く当たる草原の斜面には期待していたツクシも顔を出していた。毎年のこととなるのだが、この伸び始めたツクシを青空に抜いて撮影したいといつも思う。春を感じさせるものは人それぞれに異なると思うが、私にとってツクシは幼少の頃からのやって来た春のシンボルなのだろう。
 遅れていたが横浜市や東京都の平地に追いつけとばかりに、たくさん植栽されているサンシュユもかなり花を開いている。花と言っても線香花火のようで美しく目を引く花びらがある訳ではないのだが、おしべめしべが現れたら花開いたと言う事になるのだろう。冬野菜の収穫が終わってそのまま耕さずに残っている畑は、それこそ春の路傍の野の花の天下で、肥沃のためかナズナ、ヒメオドリコソウ、ホトケノザが海のように広がって咲いている。もちろんその海を縁取るよに、オオイヌノフグリが今が盛りと咲いている事は言うまでも無い。そんな花園に蜜を求めてハナアブやヒラタアブも目覚めたようで、ナナホシテントウもかなり数多く見られるようになった。もしやコガタルリハムシも羽化したのではないかと、青々としたスイバの株に目をやると、葉上で早くも交尾している姿が見られたのには驚いた。明日はまたとても寒くなると予報されているが、もうこうなったら小野路町、図師町のフィールドの春が逆戻りするとは考えにくい。ひととおり牧場周辺でやって来た多摩丘陵の春を撮影すると、もしやトガリアミガサタケが出ているのではないかと気になった。もう横浜市や東京都の平地の公園では出ていると言う事なので、ひょっとしたらと思った訳である。去年、森のきのこさんに教えてもらった場所に行って見ると、一本だが可愛らしい幼菌が出ていて嬉しくなった。
 午後からはもちろん野鳥撮影のつもりでいたが、フィールドを見渡しても野鳥というとカラスだけがたくさんカーカーと鳴いているだけである。冬鳥もかなり去って、まるでカラスが万松寺谷戸を占拠してしまったかのようである。これでは駄目だ他の場所に行こうかとも考えたが、五反田谷戸のネコヤナギはどうなったかと見に行きたくなった。雑木林の小道を上がって行くと、正月明けに発見したタテジマカミキリが抱きついているヤマウコギがある。まだ、同じ場所にいるかなあと目を向けると、天敵にもやられずにしっかりと抱きついていた。もしや死んでしまったのではなかろうかと、背中を触ってみると、その長い触角をゆっくりと動かした。どうやら無事にこの冬が越せたようである。ヒガンバナの葉が生い茂っていたTさん宅の斜面は綺麗に草刈がなされて、タチツボスミレが早くも花を咲かせている。尾根から少し下がった所はヤブツバキがたくさん生えているので、根元にツバキキンカクチャワンタケが生えていないかと探してみたが見つからなかった。かなり色々な場所で探しているのだが、どうやら小野路町にはこのチャワンタケは無いようである。久しぶりに五反田谷戸へ降りて行ったが、誰れ一人姿が見えない。しかし、厳冬期とは異なって何とはなしに春めいて来て、農道も畦もうっすら緑色が塗られている。ネコヤナギはもう花が咲いたかと見に行ったが、その期待は外れて、銀色鼠がたくさんついていた。やっぱり谷戸奥はかなり寒いようである。五反田谷戸に着いた頃より空はどんよりと曇り始め、気温も低くなって風も出始めた。そこでぶんちゃんに教えて頂いた真鍋氏の写真展を薬師池公園に見に行く事にした。会場には素晴らしい富士山とアカショウビンとヤマセミの写真で一杯であった。

<今日観察出来たもの>花/サンシュユ(写真上右)、ツバキ、ジンチョウゲ、ウメ、ウグイスカグラ、タチツボスミレ、オオアラセイトウ、ナノハナ、ナズナ、タネツケバナ、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ハコベ、フキノトウ、ネコヤナギ(写真下左)、ツクシ(写真上左)等。蝶/モンキチョウ。昆虫/コガタルリハムシ、タテジマカミキリ、ハナアブ等。鳥/ツグミ、モズ、ジョウビタキ、ムクドリ、シジュウカラ、ヤマガラ、ウグイス、カシラダカ、ホオジロ等。キノコ/トガリアミガサタケ(写真下右)、エノキタケ、ヒイロタケ、アラゲキクラゲ、タマキクラゲ等。その他/ヤブカンゾウの芽等。


2005年3月6日、東京都町田市小野路町

 朝起きてみると天気予報は見事に外れて、晴れてはいなかったが、雪や霙が降る事はなそうである。そこで少し寒そうだが小野路町、図師町へぶらりと行ってみることにした。もし凍えるような寒さだったら引き返してくれば良いとの気楽な気持ちであった。多分、小野路町、図師町には一昨日降った雪がまだ残っているだろうし、雪=冬の図式ではなく、暖かい太陽の下、春の欠片をたくさん集めたかったから、どうせ今日行っても駄目だろうとの気持ちもあった訳である。いつもの所に車を停めると傍らにあるヌルデの木から鳥が飛び立って、反対側の高い木の小枝に止った。みるとイカルが一羽止っている。南大沢の長池公園でも横浜の舞岡公園でもイカルはヌルデの実を食べていたから納得は出来るものの、両公園では団体さんでやって来ていたから、たった一羽のイカルの姿を見て不思議に思った。いずれにしても小野路町、図師町で初めてみるイカルである。さて今日は何処へ行ってみようかと考えたが、久しぶりに美しい雑木林経由で一回りして来ようと車を離れた。雑木林に着くと高齢のおじいちゃんがすっかり落ち葉を掻き集めていて、土の地面が各所で露出していた。これでは野の花が咲かないのではと思うかもしれないが、フデリンドウ、アカネスミレ、ニオイタチツボスミレを先陣として、キンラン、ギンラン、イチヤクソウ、オケラ、リンドウ等が季節を追って咲くのだから素晴らしい。と言うよりか、おじいちゃんの毎年のこの山掃除があってこそ、これらの野の花の命脈が保たれているといっても過言ではない。美しい雑木林はとても日当たりが良いから雪はほとんど溶けていて、大きなクヌギやコナラの幹の根元北側地面にほんの少し残っているだけである。雑木林の中を散策するとまだヤマコウバシが褐色の枯れた葉をつけているのが印象的である。おそらくいつまでも執拗に枯れた葉をつけていることは、何らかの形での冬芽保護に繋がっているものと思われるが、ヤマコウバシの春の落葉を見てみたいなと感じた。もっとも、まさか一斉に落ちる訳でもなかろうから難しそうである。ヤマコウバシの木の根元からひこばえが出ていたので、これはラッキーと冬芽と葉痕を撮ってみたが、これといった特徴あるものではなかった。なおヤマコウバシの名の謂れは、多分、香ばしい匂いのする山の木という事から来ているのだろうが、その枝を折って嗅いでみることを忘れてしまった。しかし、何処にでも生えている樹木であるが、なんとなく親しみを持つのはこの枯葉のためなのだろう。
 午後からはもちろん野鳥撮影用機材に変えて散策を開始した。小野路町では毎度書いているように野鳥との距離は縮めにくく、良い写真があまり撮れないのだが、他の場所に行くのも考えものだとばかりに粘ってみようと言う事になったのだ。いつものように休耕田に立掛けられた竹の天辺にモズが止っている。今日もまた近づくと逃げられるので、このHPの掲示板に度々ご投稿下さる多摩市のKさんこと森のきのこさん流に竹薮に入ってモズを待ってみようと思い立った。森のきのこさんはアズマネザサに潜り込むらしいが、マダケしか生えていないので仕方無しにマダケの林に入った。アズマネザサと比べるとかなりすかすかしているが、これでもいくらかはカムフラージュになるだろうと待ってみることにした。いくら待ってもモズは近寄っては来なかったが、なんと草むらからタヌキが現れ、農道をこちらの方へすたすた歩いて来るではないか。草むらから現れた時は野良猫かと思ったが、正真正銘のタヌキである。このまますたすた歩いて来ると目の前を通り過ぎ、ごくごく至近距離で観察出来ると思ったら、横にそれて竹薮の中に消えて行った。もちろんこれは絶好のチャンスとばかりに、ばんばんシャッターを切ったが足場が悪くておまけに焦ってしまったから、少しぶれが発生してピントの甘い写真となってしまったのは残念だが、なんとかタヌキをカメラの中に納める事が出来た。長い間、写真撮影をしているが野生四足動物を撮ったのは初めてである。もっとも舞岡公園でタイワンリスを撮影しているが、野生四足動物と呼ぶのがはばかれるからだ。タヌキを撮影し終わると急に気温が下がり始めて、竹薮の中にじつとしているのがつらくなった。来年になったらテント式のブラインドを張って、中に小型ストーブを持ち込んで、この休耕田で粘ってみたいなと思いながら、万松寺谷戸を早々と後にした。

<今日観察出来たもの>花/ウメ、オオアラセイトウ、ナノハナ、ナズナ、タネツケバナ、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ハコベ、ウグイスカグラ等。鳥/イカル、ツグミ、モズ、ジョウビタキ、ルリビタキ、ムクドリ、シジュウカラ、カシラダカ、ホオジロ、ハクセキレイ、キジバト、コサギ等。キノコ/スエヒロタケ、ツチグリ、エゴノキタケ、チャカイガラタケ、ヒイロタケ、タマキクラゲ等。その他/タヌキ(写真下右)、ヤマコウバシの枯葉(写真上右)、ヤマコウバシの冬芽、クラウンゴール(写真下左)等。



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