2005年10月30日、東京都町田市小野路町・図師町

 暑くも無く寒くも無く、おまけに風も無く、そして薄曇で、絶好の散策日和、撮影日和となった。このためか写真撮影に多くの方が来られていたし、里山散策する方も、もちろん多かった。しかし、広大な小野路図師、静かさはいつもの通りだ。昆虫ははなから狙っていなかったが、こんな陽気だからルリタテハやツマグロヒョウモンが見られ、相変わらず棒の先にはアキアカネがたくさん止まっていた。野の花ではリュウノウギクやリンドウが咲き始めていて、以前から咲いているアキノキリンソウ、コウヤボウキ、ヤクシソウ等と、今年最後の花盛りを迎えていた。それに爆生とは言い難いが各種のキノコが見られ、特にナラタケが信じられない位にたくさん生えていた。
 今日も万松寺谷戸に路上駐車をして散策を開始したが、いつもの習性で昆虫はいない筈の日陰の小道へ行った。途中、民家の前を通るが、シュウカイドウが咲き残っていて、ホソヒラタアブがやって来ていた。これも撮っておかなければと思いカメラを向けるが、気づかれて逃げられてしまった。本当に難しい被写体だが、これを容易く撮るご婦人がいるのだからまことに不思議である。ホソヒラタアブも人を見ていて、優しいご婦人には大サービスをするのだろうか。日陰の道はやはり思ったように昆虫は見られず、クサギの実がより一層鮮やかを増していた。また、尖がり帽子のゲンノショウコの実がたくさん背伸びをしてとても面白い。種を遠くへ飛ばすためか、花が咲いている時よりぐんと背丈が伸びている。そんな訳でこれと言ったものは無かったが、日曜菜園をしている方の小さな畑にコンギクが美しく咲いていたのでシャッターを切った。コンギクは野生のノコンギクから作出されたもので、本当に良く似ているなと納得する。この頃、だいぶ気温が低くなって来たので、ナメコが生えているのではないかと寄り道してみると、案の定、昨日の雨に濡れて美味しそうに輝いていた。ナメコはヤマザクラの大木を50センチ前後に切って、半分地中に埋められて置かれているものから発生する。舞岡公園にはヤマザクラの大木が切られて積んであるが、いつももったいないな、ナメコのほだ木にしたら良いのになと思っているのだが、シイタケと異なってポピュラーではないのだろう。
 万松寺谷戸奥へ入って行く前に、以前から見つけておいたスツポンタケの卵を見にまたしても寄り道してみたが、依然としてダチョウの卵のままであった。そこでUターンして谷戸奥へ向った。途中、草原でハネナガイナゴ、ヤマトシジミが休んでいたが、ハネナガイナゴは寒さのため茶褐色に変色し、ヤマトシジミもだいぶ羽が痛んでいた。今日も撮影するものに苦労するのかなと思い、オニノゲシを狙っていると、久しぶりに谷戸ん坊さんに出会った。見ると野鳥撮影用に買ったペンタックスistDSを肩にかけている。谷戸ん坊さんはもともとバードウォッチングをしていた方で、冬の何も撮るものが無い時に野鳥撮影をするんだと言う事のようだ。昆虫や野の花やキノコ等はオフシーズンとなり、だからと言って家に閉じこもっていたら体力は衰え、ストレスは溜まり気が塞ぎ、良い事なんてこれっぽっちも無いのだから、冬場は大いに野鳥撮影する事を奨励したい。いよいよ谷戸ん坊さんも野鳥撮影を始め出したから、お仲間が増えて嬉しい限りだ。その後、近頃定番のキノコ山に登り、牧場方面に行ったが、今日はこれといったものには出会えなかった。
 午後からは美しい雑木林からTさん宅前で左折して、キノコ尾根を下って五反田谷戸へ行った。美しい雑木林では早くもリンドウが咲き始めていた。また、丘の上の畑のあまり陽が当たらない場所に、オレンジ色のカニノツメが爆生しているのには驚いた。カニノツメは舞岡公園の小谷戸の里にも生え、畑の横に生えていても可笑しくは無いのだが、こんな所にといった思いを持ったからだ。しかも栄養が行き届いているらしく、通常見られるものの3倍もの大きさで、その色も朱色に近いものまであった。Tさん宅前の切り通しに差し掛かって、アシボソノボリリュウタケは生えていないかなと目をやると、Vサインをつくってたくさん生えていた。どうしてこんな赤土が裸になった場所に生えるのだろうか、栄養分なんて無い筈なのにと思うのだが、Vサインの主にはお気に入りのようである。キノコ尾根は相変わらずなにも無く、五反田谷戸に降りて行くと、冒頭に帰したように様々な野の花が出迎えてくれた。最後に、場所は教えられないがナラタケの爆生を見て、しかし、余りにも固まって生えているから絵にしずらくグロテスクにさえ感じたが、素直に切り取って帰宅の途に着いた。今日も本当に楽しい小野路図師であった事は言うまでもなかろう。

<今日観察出来たもの>花/リンドウ、リュウノウギク、コウヤボウキ(写真上右)、ヤクシソウ、シュウメイギク、ミゾソバ、イヌタデ、ノハラアザミ、セイタカアワダチソウ、シロヨメナ、ノコンギク、ヨメナ、シラヤマギク、アキノキリンソウ(写真上左)、ゲンノショウコ、シュウカイドウ、ダリア、サザンカ、チャ等。蝶/キチョウ、ルリタテハ、ツマグロヒョウモン、ベニシジミ、ヤマトシジミ等。昆虫/センチコガネ、クロウリハムシ、ハネナガイナゴ、オンブバッタ、ヒシバッタ、ハネナガヒシバッタ、(写真中右)アオクサカメムシ、アオクサカメムシの幼虫(写真中左)、等。キノコ/栽培のナメコ、ナラタケ、カニノツメ(写真下左)、アシボソノボリリュウタケ(写真下右)、キツネノタイマツ等。その他/アオツヅラフジの実、ナンテンの実、モッコクの実、ヒノキの実、アワブキの実、ヤブミョウガの実、クサギの実等。


2005年10月22日、東京都町田市小野路町・図師町

 秋は真っ青な青空も良いが、どんよりとした曇り空もまた格別だ。今日の小野路町・図師町は、またしても「静かな静かな小野路図師」と口ずさみたくなるような静かな一日であった。もちろん土曜日だから人出も多かったが、広大なフィールドだから、そんなものは簡単に飲み込まれてしまう。最近、撮るもの見るものに関しては貧果が続いているものの、この静さと広大さだけは何処のフィールドであっても敵うまい。心の洗濯、何かを求めて耳を澄ませて散策するのには、本当に得難いフィールドである。じっくりと自然とお友達になろうと思ったら、やはりここしか無いと確信した。
 今日は以上のように曇り日で風もほとんど無かったから、見るもの撮るものが無い季節となったが、何故か撮らなければという焦りが生まれない。のんびりと散策していれば、おのずとカメラの中に、写真が溜まって行くだろうからと思ったからだ。それでも路傍に咲いているイヌタデやミゾソバにカメラを向けた。イヌタデはなかなか被写体としては手強い花で、素直に切り取ってもつまらない。やはり群落を風景の一部として捉えるのが風情溢れるのだが、そんな場所を見つけるのもなかなか難しい。そこで上記のような苦肉の写真となってしまった。ミゾソバもずっと以前から咲いていて、一度だにカメラを向けないのも失礼と思って、寺家ふるさと村のものより紅色が足りないが、定番通りの撮り方でカメラの中に納めた。万松寺谷戸はこんな日だから、ヤマトシジミがたくさん各種の葉に止まって休んでいる。こんな光景の写真は以前に紹介したので撮影はパスして、キノコ山に向って足を早めた。今年の小野路町・図師町はキノコの発生は、例年より少なく、キノコ山も前回と同様にほとんどキノコが見られなかった。そこで、またしても牧場方面の植木屋さんの畑へ向った。
 こんな事を言っては植木屋さんに怒られてしまうかもしれないが、手入れが左程行き届いていないから、アオツヅラフジがたくさん植栽された木から垂れ下がって、その実が黒く色付いていた。また、どうして植木屋さんの畑に植栽されているのか不思議に思ったが、ゴンズイが植えられていて、昨日と同様に撮って下さいとばかりに微笑んでいた。植木屋さんの畑に隣接する畑では、そろそろ旬の時期を迎えつつあるハクサイが青々と大きく育ち、また、ゴボウも信じられない位に生長していた。このゴボウの収穫はとても大変で、なぜなら地中深くまで掘らなければならないからだ。他所では小型のショベルカーを使っていたが、この広大なゴボウ畑の収穫には、それに類する農機具が使われる事であろう。その大きく広い葉に注意して歩いて行くと、マダラスズ、ヒシバッタ、オンブバッタ、アオクサカメムシが羽を休めていた。
 植木屋さんの畑を後にすると小雨がぱらついて来た。そこで傘をさして車に戻り食事をし、8枚の写真を確保したから、これで帰ってもいいやと思い、車の中で昼寝を決め込んだ。すると、しばらくして車の屋根を叩く雨の音がしなくなった。これはラッキーとばかりに、昨日、上手く撮れなかったカラカサタケを探しながら、五反田谷戸まで行って見ることにした。途中、これと行ったものは見られず、キノコ尾根も目ぼしいキノコは無かった。しかし、五反田谷戸へ降りて行く尾根でカラカサタケを発見したが、かなり生長していて風情に欠ける。カラカサタケはやはりふんわりとした厚ぼったい帽子のような新鮮なものであって欲しいのだ。また、コウヤボウキも咲き始めていたが、先程の小雨を吸って今一撮る気がしない。五反田谷戸には顔見知った植物好きのご婦人のグループがやって来ていたばかりでなく、ここしばらく長い間ぷっつりと顔を見せなくなった以前親しくしていた遠方からのご婦人もやって来ていた。みんな深まり行く谷戸の秋を満喫しに来たようである。五反田谷戸ではコウヤボウキだけでなくアキノキリンソウも撮りたかったのだが、前述した理由からカメラを向けなかった。しかし、普通のガマズミの半分の大きさしかない葉を持つ、多分、コバノガマズミだと思うが、ふっくらと可愛らしく色付いていた。さあ、このまま帰ろうかなとも思ったが、キノコの秘密の穴場へ立ち寄って見ようと雑木林へ入って行った。するとこれまたラッキーな事に、ふんわりと厚ぼったい肉厚の傘をつけたカラカサタケが生えていた。今日こそ絵になるように撮ってやるぞとばかりに、アングルを変え、レンズを変えて撮影を開始した。そんな訳で長い間そこにいたので薮蚊がわんさかやって来たが、そんな事にへこたれたら良い写真が撮れないと頑張り、単生のカラカサタケであったが、まあまあの写真が撮れた。今日も前回と同様にTさん宅で甘い甘い禅寺丸を2つ頂き、お腹も満ち足り、満足しての帰宅となった。

<今日観察出来たもの>花/コウヤボウキ、ミゾソバ(写真上左)、イヌタデ(写真上右)、ノハラアザミ、セイタカアワダチソウ、シロヨメナ、ノコンギク、ヨメナ、シラヤマギク、アキノキリンソウ、カシワバハグマ、キバナアキギリ、ツユクサ、ゲンノショウコ、ミズヒキ、シュウカイドウ、ダリア、サザンカ、チャ等。蝶/モンシロチョウ、ベニシジミ、ヤマトシジミ等。昆虫/ウリハムシ、ハネナガイナゴ、マダラスズ、オンブバッタ(写真中右)、ヒシバッタ、アオクサカメムシ、クサギカメムシ、ホソヘリカメムシ、ツヤマルシラホシカメムシ、アカスジキンカメムシの幼虫、アオバハゴロモ等。キノコ/カラカサタケ(写真中左)、ホコリタケ、ヒイロタケ、コテングタケモドキ、ドクツルタケ等。その他/アオツヅラフジの実(写真下左)、コバノガマズミの実、モッコクの実、ヒノキの実、アワブキの実、ヤブミョウガの実、ゴンズイの実(写真下右)、クサギの実等。


2005年10月15日、東京都町田市小野路町・図師町

 昨日の天気予報の大外れには驚いたが、そんな予報官泣かせの天候という事で、毎週、日曜日に行っていた小野路町・図師町へ1日前倒しにして行った。明日雨が降らないなんて保障など、有りそうも無いと思った訳である。今日はほんの少しぱらっと雨が一時降ったものの、お昼頃から青空一杯の暖かい日となり、ルリタテハ、アカタテハ、キタテハ等の蝶をはじめ、多くの昆虫が元気にお出ましになった。また、アキノキリンソウ、ヤクシソウ等も咲き乱れ、散策に大勢の方がやって来ていた。キノコはほとんど見られなかったものの、これからしばらく快適な里山散策が楽しめそうである。
 今日もいつもの場所に車を停めて散策を開始したが、以前、撮影して紹介したヒノキの実にアカスジキンカメムシの幼虫がたくさん吸汁していた。日本で最も美麗なカメムシだが、そのお食事のメニューは大変バラエティーに富んでいて、舞岡公園ではエゴノキの実やヤマボウシの実にも吸汁していた。これだけ食性がバラエティーに富んでいると、最も美麗だが最も普通に見られる事の理由が分った。杉並区の和田掘公園や葛飾区の水元公園でも出会っているが、アカスジキンカメムシの生命力はとても強いのである。アカスジキンカメムシのお食事場面を撮影すると、いつものように日陰の小道へ行ったが、昆虫の姿はまったく見られず、僅かに日が当たる場所だけにアミガサハゴロモとツマグロオオヨコバイが見られた位であった。いよいよ赤トンボ、バッタ、キリギリス、コオロギ等を除くと、昆虫の姿が見られなくなる季節が近づいている事を実感した。栗林の草原にも寄り道したが、もうウスバキトンボの姿はまったく無く、セイタカアワダチソウが美しく咲いていた。去年の今頃、モウソウタケの林の裾でムラサキシメジを観察しているので行ってみたが、こちらはまだ早いようであったが、スッポンタケの卵が生長して、アヒルの卵位になっていた。また、手で触れてはみなかったものの、ぶよぶよしている事が感じられた。
 今日もいつ雨が降ってくるかもしれないので、万松寺谷戸からキノコ山へ直登した。休耕田の一部に体験学習の為に田んぼが復活し、稲が植えられているが、多くの方がやって来て稲刈りに精を出していた。前回、来た時にたくさんのシジミチョウの仲間やハネナガイナゴが見られた草原には、ヒメアカネが真っ赤になって止まっていた。いよいよ雑木林の日陰は勿論のこと、半日陰のような所も寒くて居心地が悪くなったのだろう。五反田谷戸ではマユタテアカネも日向へ出てテリトリーを張っていた。期待してキノコ山へ登ったが、キノコの姿は何も無く、ただ濃緑のアズマネザサの中に、真黄色のヤクシソウが咲いていてとても綺麗であった。このあたりから小雨がぱらついて来たが、すぐに止むだろうと頭に被っている帽子をカメラに被せて、久しぶりに牧場方面にある植木屋さんの畑に向って歩き始めた。雨は幸いにもすぐに止んで、植木屋さんの畑ではアメリカハナミズキやモッコクの実が色付き、なんと早くも小振りなサザンカが咲いているのには驚いた。こんな光景とは裏腹に、夏の花たるサルスベリがまだ咲いていて更に驚いた。植木屋さんの畑を後にして牧場方面に向って引き返したが、途中、大きな柿の木に実が色付いて鈴なりで、その熟した柿の汁を吸いに、キタテハ、アカタテハ、それになんとテングチョウまでやって来ていた。最近、アカタテハが見られなくなったが、今日は樹液に来ているものもあったし、ごく普通に見られて安堵した。また、この頃から空は真っ青となって、畑に植えられたダリアが撮って下さいよとばかりに青空に浮かんでいた。ダリアもバラと同じように、夏を挟んで2回の花期があるのである。
 午後からはキノコ尾根から五反田谷戸へ足を伸ばした。途中、休耕田脇の杉の切り株に、可愛らしくミドリスギタケの一家が顔を出していて、今日はキノコ無しデーかと思ったが、そうとはならなくてほっとした。キノコ尾根では久しぶりに可愛子ちゃん看護婦のTちゃんに出会った。夏が弱いし野鳥観察がメインなので本当に久しぶり、アカネスミレが咲いている頃以来である。「これからが私の出番、ジヨギングして川崎ハーフマラソンに出るまでになったのよ」と微笑む。彼女はそのためか身体が引き締まって、だぶだぶの見苦しい身体の花虫さんとは大違いだ。病気にかからないようになろうとか、はけなくなったズボンがはけるようにしたいとかではなく、傑作写真は健全な身体から生まれる訳だから、ちょっと考えなくてはいけないなと真剣に思った。

<今日観察出来たもの>花/ノハラアザミ、タイアザミ、セイタカアワダチソウ、イナカギク、ノコンギク、ヨメナ、アキノキリンソウ、アキノノゲシ、カシワバハグマ、ツユクサ、ヤブツルアズキ、ゲンノショウコ、ミズヒキ、シュウカイドウ、ダリア、サザンカ、チャ等。蝶/ルリタテハ、アカタテハ(写真中左)、キタテハ(写真中右)、メスグロヒョウモン、ツマグロヒョウモン、キチョウ、クロヒカゲ、ヒカゲチョウ、テングチョウ、ウラギンシジミ、ヤマトシジミ、イチモンジセセリ等。昆虫/クロウリハムシ、ヒメアカネ、アキアカネ、マユタテアカネ、ハネナガイナゴ、エンマコオロギ(写真下左)、オンブバッタ、ヒシバッタ(写真下右)、アカスジキンカメムシの幼虫、アミガサハゴロモ等。キノコ/イヌセンボン、ミドリスギタケ(写真上左)等。その他/シマヘビ、モッコクの実(写真上右)、ヒノキの実、アワブキの実、ヤブミョウガの実、クサギの実等。


2005年10月10日、東京都町田市小野路町

 今年の体育の日を絡めた3連休は、とても天候が悪い。まさに秋霖と呼ぶに相応しい天候である。初日の土曜日は雨こそ落ちてこなかったが、昨日は正午まで雨だった。そして今日は一日中雨と予想されていた。10月10日は晴れの特異日と言わているのだが、まったくどうした事だろう。しかし、天気予報が外れて雨が降っていないのではと、いつもの時間に起きて玄関のドアを開けて外を見ると、予報通りの無常の雨が降っていた。このまま寝床にUターンしてとも思ったが、机に座ってパソコンに電源を入れ、今日の町田市の天気予報を見てみると、正午前後に曇りのマークが一つついているではないか。今日はその僅か一個の曇りマークだけなのである。今日は別段何もする事がないし、今日、小野路町へ行っておければ、フィールド行きのローテーションが非常に楽になると、その一個の曇りマークをあてにして出かけてみた。しかし、到着すれども雨だったが、一寝入りして弁当を食べ終わると、幸いにも午後1時から3時の2時間だけ雨が止んだ。そんな訳で今日のこの小野路図師紀行は、本当に短時間のものとなった。
 雨は止んだがいつ雨が降り出して来るかも分らないので、折り畳み傘をジャパーのポケットに突っ込んで散策を開始した。いつもの雑木林の日陰の小道は、もちろん下草もびっしょりと濡れていて、虫っ子一匹もいない。午後になると咲き止んでしまうツユクサも、今日は元気一杯に咲いている。ゲンノショウコの独特な尖がり帽子の実の毛に水滴がついて美しい。クサギの実はほとんどがくが開いて中の真っ青な種子が見えているが、雨でべっとりと濡れていて風情がない。これでは駄目だと、Uターンして万松寺谷戸の奥へ足を早めた。途中、前回来た時までは咲いていたヒガンバナは全て咲き終わって、早くも結実を急いでいる。畑に天辺の方だけにクリーム色の咲き残った花を付けたオクラがとても印象的だ。万松寺谷戸の草原へ行くと、チカラシバやエノコログサの穂が水滴で真っ白である。しかし、様々な昆虫は葉の表に現れて、一時の雨の止み間を味わっている。蝶ではベニシジミ、ヤマトシジミ、ウラナミシジミが見られ、こんな日だから近づいても逃げないから撮影はいたって楽である。また、今日はオンブバッタがみんな独身になっていて休んでいるのには笑ってしまった。どんよりと曇った日や雨が続いては、恋を囁き合うなんて気になれないのだろう。そんな訳でこの草原でたくさんのシャッターを切ったが、薮蚊がわんさか寄って来て、ファインダー内でじっくりと絵作りする気持ちにはなれなかった。
 谷戸の奥の栗林に到着し栗の幹に目をやると、全身がいぼいぼで、漆黒の地に真ん中に白い帯を持つジャコウアゲハが幹を登って行く。まだ今日は10月10日、冬までだいぶ時間があるというのに蛹になるために登って行くようである。これは頂きとも思ったが、この小野路図師紀行を飾るには余りにも気持ちが悪いのでパスをした。他に何かいないかなと探してみると、なんとツクツクボウシがいるではないか。こんな秋たけなわの季節に見るのも初めてなので、また、セミの仲間の今年の見納めとばかりに丁寧に撮影した。これで今日は本当に短時間でかなりの写真を手に出来たわいとほくそえんでいると、栗の細い枯れた幹の先にイナゴが止まっていた。ハネナガイナゴではないのと近寄って見ると羽が尾端よりだいぶ短い。ハネナガイナゴの羽が途中で損傷したのではないのとまた疑ってみたが、そうではなく正真正銘のコバネイナゴであった。万松寺谷戸は山裾の古くからある田んぼだから、生息するイナゴはハネナガイナゴばっかりと思っていたが、そうではなかったようだ。いよいよこの谷戸にも平地化の波が押し寄せているらしい。ナガサキアゲハもムラサキツバメもクロコノマチョウもツマグロヒョウモン見られるようになったから、アカボシゴマダラがやって来るのも時間の問題のようである。
 その後、キノコ山に登ってTさん宅前を通って美しい雑木林経由で車に戻ったが、期待したキノコはほとんど見られず、昨年、ナラタケの爆生を観察した栗林にも寄ってみたが空振りであった。美しい雑木林に至る頃から雨が降り出し、傘を取り出して車に戻ったが、なんとなんとたったの2時間で、10カット程の写真を撮った事に驚くと同時に、そんな雨の止み間を与えてくれた天気の神様に最敬礼をして、恵比須顔で帰路についたのは言うまでもない。

<今日観察出来たもの>花/ノハラアザミ、タイアザミ(写真上右)、イナカギク、ツユクサ、ヤブツルアズキ、ヤブマメ、ゲンノショウコ、ミズヒキ、シュウカイドウ等。蝶/モンシロチョウ、ベニシジミ(写真中左)、ヤマトシジミ(写真中右)、ウラナミシジミ、イチモンジセセリ等。昆虫/ナナホシテントウ、アキアカネ、マユタテアカネ、コバネイナゴ(写真下右)、ハネナガイナゴ、オカメコオロギ、オンブバッタ、ツクツクボウシ(写真下左)、アミガサハゴロモ等。その他/エノキの葉(写真上左)、ヒノキの実、アワブキの実、ヤブミョウガの実、クサギの実等。


2005年10月2日、東京都町田市小野路町・図師町

 今日も気持ちの良い秋晴れ、風もほとんど無く散策日和だなと思ったのも束の間、気温はぐんぐん上がって湿度も高い。まるで真夏に戻ったようだ。草原に入ると草いきれがむーっと来る。帰宅してヤフーの天気情報を開いてみると、“2日の日本列島は、関東から九州地方の広い範囲で午前中から気温が上昇、各地で最高気温が30度以上の真夏日となり、全国の91観測地点で10月の最高気温記録を更新した。東京・大手町でも10月としては7年ぶりに30度を超える31.7度を記録した”(毎日新聞)と書かれてある。道理で暑かった筈である。久しぶりに真珠のような汗をかいて、ガソリン代がかかろうともクーラーを入れての帰宅となった。
 今日は小野路町に到着すると、昨日の貧果が身に染みていたので、なんでも撮ってやるぞと意気込んだ。まず最初にいつも車を停める道路脇に生えているヒノキの実を撮った。まるでバレーボールのボールのような縫い目のような筋が入った格好をしている。いつも撮りたい撮りたいと思っていたのだが、今日、その念願が貧果が予想されるために実った。去年はカヤの実も撮ったし、その内にスギの実も撮ろうと思っている。絵になる実は赤や青に色ずいたものであるが、針葉樹の実もなかなか風情を誘われる存在だ。ヒノキの実を撮ると下草としてたくさん生えているヤブミョウガの実を撮った。こちらは薄い青に色付いて来ていて宝石の様に光輝いている。その後、いつものように日陰の小道へ行ったが、昆虫はほとんど見られない。これもやむなくとは失礼極まりないが、アオバハゴロモが美しい背景に止っていたので、露出をアンダー気味にして撮影した。アオバハゴロモは複眼が小さくてしかも羽の色と同色だから、少しでも露出がオーバー気味だと、全てが白く飛んでしまうのだ。
 お次はこれまたいつも発見するのだが上手く撮れず、しかも近づくと逃げてしまうウスバキトンボを撮りに栗林の草原に入って行った。ウスバキトンボは葉が余りついていない、クリやウメの小枝に休憩している事が多い。空き地の上を気持ち良さそうに飛んでいて、止まる事無く飛び続けているようだが、実はこっそり休んでいるのである。夕暮時も活発に飛翔し、“夕焼け小焼けのアカトンボ”は、実はこのウスバキトンボだったのである。しかし、無粋な事を言うようだがウスバキトンボはアキアカネやナツアカネ等のアカトンボの仲間ではないのである。それを知ったが上で、ススキの穂が銀色に光る夕暮れ時に“夕焼け小焼けのアカトンボ”を高らかに歌おうではないか。
 今日は久しぶりにカメラザックに菓子パンを詰め込んで、一旦、昼食の為に車に戻って来る事はなしに、ぐるっと一周して来るつもりで雑木林の小道を登って行った。予想したように林床にはキノコは全く見あたらない。昆虫の姿も少なく、クヌギの樹液にはススメバチがひしめいているだけだ。しかし、いつもヒメカバイロタケが生える太いアカマツの丸太を見ると、ヒメカバイロタケの傍らに、まだ観察した事の無いキノコが生えていた。今日はキノコ無しデーとなるかもしれないと思ったので嬉しくなった。傘の縁にフリルがついていてチシオタケに良く似ているが、傘の色はばら色のようではなくて沈んだ紫色をしている。自宅に帰って図鑑を開いてみたが分らない。キノコにかなり詳しい方が、里山で見られるキノコの半数近くに名が付けられていないと言うから当然な事であろう。しかし、クヌギタケの仲間だろう。今日はキノコはこれだけと思ったので、背景の雑木林を広角接写で入れて撮ったり、図鑑的に撮ったりとかなりの時間を費やした。しかし、薮蚊の襲来は思ったより少なくて、やっぱり10月に入ったのかなと変に感心した。
 その後、キノコ尾根、白山谷戸、五反田谷戸と回ったが、ピーカンでは咲いてる花を撮る気も起きず、美しい真珠のような熟年男の汗を流したのみで、Tさん宅へへばりながらもたどり着いた。すると久しぶりに、Tさん、奥さん、緑山のKさんらが揃っていた。「寄って行きなさい、柿喰いなさい、栗喰いなさい」と大歓迎で、お土産に柿と柚子と栗を貰った。Tさんが自分で撮影した蝶の写真を持ち出して来て、「これナガサキアゲハの雌だよね、何を食べるんだい?」と聞くので、「ミカン等の柑橘類ですよ、このナガサキアゲハ、温暖化の影響で関東地方にも定着したんです」と答えると、「昔、栽培出来なかったミカンがこの頃実がなるようになったからな」と感慨深げに言う。また、「そのうちに南極の氷も解けるかもしれないね」とおっしゃるので、「山の天辺のTさん宅は大丈夫ですよ」と言うと、「もっともそれまで生きていないわよな」と言ったので、みんなしてげらげらと笑った。

<今日観察出来たもの>花/ヒガンバナ、キバナアキギリ、カシワバハグマ、ノハラアザミ(写真上左)、イナカギク、ヨメナ、ヤブツルアズキ、ナンテンハギ(写真上右)、ヤブマメ、ゲンノショウコ、ミズヒキ、シュウカイドウ等。蝶/キアゲハ、ルリタテハ、キタテハ、ツマグロヒョウモン、メスグロヒョウモン、クロヒカゲ、ヒメジャノメ、ウラギンシジミ等。昆虫/アオオサムシ、ナナホシテントウ、クロウリハムシ、ギンヤンマ、オニヤンマ、アキアカネ、ナツアカネ、マユタテアカネ、ウスバキトンボ(写真下左)、ハネナガイナゴ、オンブバッタ、コカマキリ、ツクツクボウシ、ベッコウハゴロモ、アオバハゴロモ(写真下右)等。キノコ/クヌギタケの仲間、ヒメカバイロタケ等。その他/ヒノキの実(写真中右)、アワブキの実、ヤブミョウガの実(写真中右)、クサギの実等。


2005年9月27日、東京都町田市小野路町・図師町

 今日は曇り日ということもあって、本当に涼しい一日であった。自宅に帰って気象情報で確認すると、町田市の最高気温はなんと20度であった事が分った。天気図を見ると、大きく大陸の高気圧が張り出している。暑さ寒さも彼岸までとは良く言ったもので、これからは例え晴れていようとも、過ごしやすい日々が続くことだろう。そして、もうすぐ高い山に雪が降る筈である。お陰で車のクーラーは未使用で、ガソリンの消費もかなり少なく、長袖で散策した事も手伝って、薮蚊の被害は僅少ですんだ。久しぶりの平日の小野路町、図師町は、曇り日でほとんど風が無かった事も手伝ってか、本当に静かな心洗われるフィールドであった。ちょっと前に、このHPは開設3周年を迎え、本当に苦しい事もあったが、HPのお陰でずいぶん癒されたと掲示板に書いた。それにプラスして、この小野路町、図師町の心洗われるフィールドも、乱れた心を落ち着かせてくれたものだ。あらゆる病気は心的なストレスから来ると言われている。ストレスが免疫力を弱めるのであろう。身近には様々なフィールドが点在しているが、小野路町、図師町は特別で、名高い精神科の先生にカウンセリングして貰うよりも効果てき面だ。ここしばらく日曜日ばかり来ていたし、とても暑い日が続いたし、更に余り成果の上がらない日々が続いて、観察記用に写真の被写体を探し回ってのんびりとは出来なかったが、今日は充分過ぎる程に心洗われた。
 車を下りると懐かしいサウンド・オブ・サイレンスが身体を包んだ。そして草原や雑木林の下草には、露がきらきら輝く小さな水滴となって降りていた。思わず「里の秋」と言う歌を歌いたくなった。今日は一日中そんな日だったので、「里の秋」の替え歌を作ってみたのでご披露したい。第一番は、「静かな静かな谷戸の秋、アキアカネが棒の先、止ってる。ヒガンバナが咲き乱れ、イナゴが跳ねます、細い道」。次に二番は、「静かな静かな森の秋、キバナアキギリが鮮やかに、カシワバハグマも咲き始め、芝栗落ちてる、細い道」、最後に三番は、「静かな静かな畑の秋、ウラナミシジミが飛んでいる。ヒョウモンチョウも軽やかに、ニラ花咲いてる、細い道」と言う訳である。こんな歌詞の曲は故立川澄人に歌って貰いたいものだが、OT中学校時代にはウィーン少年合唱団に負けない美声の持ち主だったこの花虫とおるも、声変わりしたにもかかわらず歌わせればかなりの拍手をもらえるに違いない。そんな冗談はさて於いて、今日の小野路町、図師町の散策は、この替え歌が全てを表わしているといっても過言ではなかった。芸術の秋、思索の秋と言われるが、カメラ片手に素晴らしく美しい絵になる被写体を求めて訪ね歩くにも、とっても良い季節という事である。
 今日の散策での特筆事項の一番手は、ウラナミシジミがとてもたくさん見られた事だろう。一昨年は冷夏の為に北上出来ずに見られず、去年もそれ程までの個体数は見られなかったか、今年は本当にたくさん飛んでいる。ウラナミシジミはジャックと豆の木に出てくるような、大きく成長するナタマメ、フジマメ等が事の他好きで、もちろん大豆やアズキ等の作物の葉も大好きなのだが、今日、その他にも野生のヤブツルアズキも食草としている事が分った。道理で耕作地でも無い所でも見られる筈である。秋はマメ科の植物もハギに負けずと花をつけるが、ヤブマメ、ノササゲ、ツルマメは既に撮っていたので、今日はヤブツルアズキが咲いている草原に入って行った。するとその花に吸蜜している個体ばかりでなく、たくさんの個体がヤブツルアズキの周辺で羽を休めていた。この為、産卵現場を確認した訳ではないが、このヤブツルアズキも食草に違いないとぴーんと来たのだ。家に帰って図鑑を開いて見ると、“ヤブツルアズキはアズキ属で、栽培されているアズキはこのヤブツルアズキが品種改良されたものか、逆に、栽培されているアズキが野生化してヤブツルアズキになったかのどちらかであろう”とその関係が書かれていた。ウラナミシジミは畑で栽培されているアズキも大好物なのだから、ヤブツルアズキも大好きなのは当然の事と言えよう。次は何と言っても替え歌にも登場したキバナアキギリとカシワバハグマの事だろう。昨日、寺家ふるさと村で出会った野の花が大好きなご婦人によれば、寺家でもキバナアキギリとカシワバハグマが開花していると言っていたので、是非、撮りたかったのである。今日の小野路町、図師町は、昆虫やキノコは少なかったものの、たくさんの野の花が出迎えてくれ、写真撮影においても心的なストレス解消においても多大な収穫を得る事が出来た。心地良い面持ちで、前述した替え歌を朗々と歌いながら帰宅した事は言うまでも無かろう。

<今日観察出来たもの>花/ヒガンバナ、キバナアキギリ(写真上左)、カシワバハグマ(写真上右)、ミゾソバ、ノハラアザミ、イナカギク、シラヤマギク、ヨメナ、アキノノゲシ、コミカンソウ、ツルボ、ヤブツルアズキ、ヤマハギ、ナンテンハギ、ヤブマメ、ゲンノショウコ、ミズヒキ、ツユクサ、ヤブカラシ、ヤブミョウガ、ヤマホトトギス、シュウカイドウ等。蝶/ナガサキアゲハ、クロアゲハ、キアゲハ、ミドリヒョウモン、メスグロヒョウモン、クロヒカゲ、ヒメジャノメ、ヒメウラナミジャノメ、ウラギンシジミ、ウラナミシジミ(写真中左)、ヤマトシジミ、ベニシジミ、イチモンジセセリ、チャバネセセリ、キマダラセセリ等。昆虫/キイロテントウ(写真中右)、ナナホシテントウ、ベッコウヒラタシデムシ、クロウリハムシ、アキアカネ、ナツアカネ、ヒメアカネ、マユタテアカネ、ハネナガイナゴ(写真下右)、ササキリ、ヤブキリ、オンブバッタ、ショウリョウバッタモドキ、ヒシバッタ、コカマキリ、オオカマキリ、ツクツクボウシ、アオクサカメムシ(写真下左)等。キノコ/コトヒラテングタケ、コガネヤマドリ、ヒメカバイロタケ等。その他/ヤマカガシ、ウスカワマイマイ、クサギの実、アワブキの実等。


2005年9月19日、東京都町田市小野路町・図師町

 今日は昨日と同様に青空一杯だが湿度が高いようでかなり蒸している。それに昨日のフィールド行きで身体も疲れているのか、心も絶好調とは言い難い。こんな日はフォークソングではなく、ビートルズが一番だ。ビートルズを知らない日本人は世代を問わずいないだろう。そればかりでなく、人類が続く限り名曲として多くの方に愛される事だろう。ことに今日聞いたCDの冒頭の曲であった“レット、イット、ビー”なんて、規模の違いはあるものの、ベートーベンの交響曲第9番のようである。まことにピアノの前奏から始まるポピュラー音楽には名曲が多い。昨日聞いたサイモン&ガーファンクルの“明日に架ける橋”もそうだし、私のカラオケの18番、五輪真弓の“恋人よ”もそうだ。今日の小野路、図師行きはこれといった目的がある訳でなく、気楽に散策して出会うものを美しく撮ろうと言う訳で、まさにレット、イット、ビー散策、今日に架ける恋人見つけ散策ということになる。ビートルズと言えばジョン・レノンをすぐに思い出すが、メンバー4人がそれぞれ異なった個性の持ち主だったからこそ様々な名曲が生まれたのだろう。ビートルズが日本にやって来たのは私が中学生の頃で、ブログの自己紹介欄の丸坊主の頭も、いつの間にかマッシュルームカットとなって、大綱中学校のポール・マッカートニーと呼ばれたのが懐かしい。
 今日はまず最初にアワブキの実を見に行った。アオバセセリやスミナガシがその葉を食べる。前回来た時はやっと色付き始めていたのだが、一週間でより赤くなっていた。いつものように雑木林の下の日陰の道端に行くが、これといった昆虫は見当たらない。いよいよハムシ等の小さな甲虫類や各種ヨコバイやハゴロモ等は姿を減じているようである。美味しい葉が少なくなって来たのだから当然の事であろう。やや空けた場所に出ると、早くもクサギの実が青黒く色付いている。夏の長い間ずっと目を楽しませてくれ、多くの蝶たちに美味しい食事を提供し続けたのだが、ようやく花期は終わって宝石のように輝く実の季節となった。今日はそのまま谷戸を詰めて右手に登って行った。丘の上に出るとヒガンバナの花穂がニョキニョキと伸び、開花しているものもいくらかある。小野路町のヒガンバナも、律儀に来週のお彼岸にぴっちりと開花の時期を合わせているようであった。夏の旧盆のお墓参りにはサルスベリが似合い、秋のお彼岸のお墓参りにはヒガンバナが似合う。それならば春のお彼岸はなんだろうと考えると、首都圏平地ではヤブツバキであるに違いない。
 Tさん宅前を通り過ぎると、首都圏では一番小さなアカトンボであるヒメアカネがテリトリーを張って獲物を待ち伏せている。雑木林の小道に再び入ると、ホウチャクソウやナルコユリの実が黒々と色付いている。キノコ山へ登ると、前回来た時に爆生していたニガグリタケはすっかり萎び、引き続いてタマゴタケやコガネヤマドリが生えていた。今日の小野路はそれほどキノコが生えていないので、二本並んだ可愛らしいコガネヤマドリの幼菌を撮影した。今日も撮るものに苦労するかもしれないと、万松寺谷戸に下りて来ると、ヤマホトトギスやミゾソバ、ゲンノショウコ等の野の花を撮影した。
 一応、今日は午前中で様々な写真をカメラの中に納めたので、午後からは美しい雑木林を通って五反田谷戸へ、前回雷が近づいて撮影を断念したハンミョウを撮りに行った。途中、クヌギやコナラの幼木がたくさん生えている場所で大きなコクワガタの雄を見つけたが、こちらの接近を感知して素早く幹を下り地面の中に隠れてしまった。こんなに人見知りの強いコクワガタに出会うのは初めてである。五反田谷戸へ降りて行くと休耕田にハンミョウがたくさんいて、今日は180ミリマクロも持参しているから撮影は楽々ホイだが、なかなかすっきりとした場所には止らない。ハンミョウを撮り終わると時間はまだ少し早いが、車へ戻って、寺家ふるさと村へ行くことにした。昨晩、電話があって寺家の四季の家前でオオクワガタらしい雌を見つけたので、同定して欲しいとの依頼が友人からあったからだ。行って見せてもらうと大きな体で上羽表面に縦縞がたくさん入っていて、確かにオオクワガタの雌であった。きっと子供がペットショップで購入し飼っていたものが逃げ出して来たのだろう。「もう交尾しているだろうから卵を産ませて育てれば、大きなオオクワガタの雄が得られるかもしれないよ」と言うと、友人は「頑張ってみる」と微笑んだ。いくつになってもオオクワガタは男の憧れの昆虫なのである。

<今日観察出来たもの>花/ヒガンバナ(写真上左)、ノハラアザミ、オトギリソウ、シラヤマギク、コミカンソウ、ツルボ、フジカンゾウ、ヌスビトハギ、ウド、ゲンノショウコ(写真上右)、ミズヒキ、ヘクソカズラ、ツユクサ、ツルマメ、ノササゲ、ナンテンハギ、ノアズキ、クズ、ヤブカラシ、ヤブミョウガ、ヤマホトトギス、タマアジサイ、ミソハギ、シュウカイドウ等。蝶/ルリタテハ、キタテハ、メスグロヒョウモン、ヒメアカタテハ、イチモンジチョウ、クロヒカゲ、ウラギンシジミ、イチモンジセセリ、ダイミョウセセリ等。昆虫/オニヤンマ、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ、ウスバキトンボ、アキアカネ、ナツアカネ、ヒメアカネ(写真下左)、マユタテアカネ、クルマバッタ、ハネナガイナゴ、ミヤマフキバッタ、ハンミョウ(写真下右)、キボシカミキリ、コクワガタ、アブラゼミ、ベッコウハゴロモ、アオバハゴロモ等。キノコ/シロオニタケ、オニテングタケ?(写真中右)、タマゴタケ、コガネヤマドリ(写真中左)等。その他/クサギの実、アワブキの実、ナルコユリの実、ホウチャクソウの実等。


2005年9月11日、東京都町田市小野路町・図師町

 今日は衆議院議員選挙の投票日だが、帰宅してから至近距離の小学校へ投票に行けば良いと家を出た。天気予報によると、午後3時位から雨が降って来ると予想されていた。この為、午前中に写真を確保しておかなければと焦ったものの、いつも様々な昆虫が見られる日陰の下草は綺麗さっぱりと刈られていた。オオブタクサ(クワモドキ)に吸汁していた、ベッコウハゴロモ、スケバハゴロモ、アオバハゴロモ等はどうなったのだろうかと心配になった。その答えは来年の夏まで待たなければならないが、したたかな生命力を持つ昆虫達だから、きっと何処かに次世代の卵を産んでいるのに違いない。そんな楽観的な事を考えたが、やはりそこを住みかとする昆虫たちには大打撃に違いない。そればかりでなく午前中に多くの写真を確保しようと思っているこの私にも大打撃だ。これは困ったなあと思ったが、一番昆虫が見られるニリンソウの谷戸へ通ずる所だけは比較的軽く刈られていた。それでも目を皿のようにして探すのだがなにもいない。やっと棒の先に止っているアキアカネを見つけた。アキアカネなんてヒガンバナが咲く頃になれば、ぞくぞくと避暑先の山地や高原からUターンして来て腐る程見られるようになるのだが、そんな事は言ってられない。
 アキアカネを撮影すると、きっとキノコが爆生しているに違いないだろうと、キノコ山へ万松寺谷戸から直登した。先日、寺家ふるさと村で、何でもありの爆生を見ていたから多いに期待したのだ。しかし、キノコ山には久しぶりに見るニガグリタケと、もう見飽きているシロオニタケとタマゴタケ、そして時期を逸したコガネヤマドリがぽつんぽつんと生えていた。まずは去年の秋以来になる、今年はなかなか生えて来なかったニガクリタケを撮影した。ドクキノコの代表選手の中の一つで、学研刊「日本の毒きのこ」を開いてみると、食後数十分から3時間程で腹痛、嘔吐、悪寒、下痢が起こり、ひどい場合は脱水、痙攣、ショックを経て死に至ると書いてある。出始めの幼菌はとっても可愛いのに中毒症状の記載を見るとびっくりする。しかし、撮影だけが趣味の私には、まこと微笑みを誘う被写体だ。お次はタマゴタケだと近寄ってみるが、単生しているものばかりだ。どうやって撮ろうと色々考えるのだが、いつか撮影した事のあるワンパターンの絵柄となってしまった。それでもやっぱりタマゴタケを紹介せずにはいられない。そんなワンパターンの撮影から脱しようと、シロオニタケはシグマ24ミリマクロを取り出して広角接写を試みる。雑木林の樹木を背景に入れて撮影しようと言う訳である。しかし、これも何処かで試みたパターンだなと腕組みをする。キノコの撮影それ自体は動く被写体に比べていたって簡単だが、生えてる場所が場所だけに、様々な異なった絵柄を創出するのは本当に難しいと思った。
 キノコ山を下り弁当を食べる為に、Tさん宅前を通って舗装道路で下りることにした。途中、大きな橙色のキノコを見つけた。コガネヤマドリの大きなものだろうと思ったが、なんとなく変だ。近寄って見ると、それは多摩丘陵で初めて目にするアカヤマドリであった。残念な事に老菌で、傘にぼこぼこと穴が空いていた。万松寺谷戸に戻って来ると、今日は本当にやばい、合計8枚の写真が確保出来ないかもしれないと、手当たり次第咲いている花を撮る事にした。まずは可愛らしい紫の花をつけているツルマメを撮った。その次は、花はピンクの金平糖のように可愛いが、茎には刺がたくさん生えていて、この茎で継子の尻をぬぐったらさぞかし痛い思いをするだろうとママコノシリヌグイ(継子尻拭)と名付けられたのは著名だが、いったいそんな名を付けたは誰なのだろう。なんとなくサディスティックな性格の方なのではないかと連想するが、そのものずばりでとても覚えやすい。ママコノシリヌグイとは逆に、付近に生えていたコミカンソウはとても可愛らしい名前である。きっと心優しい方が名を付けたのだろう。小さなミカンのような花を水平に伸ばした枝の綺麗に整列した葉の下に一個ずつつけている。だから、花も一直線に整然と並んでいてとても微笑ましいのだ。これで何とか合計8枚の写真が確保出来たから、午後からは久しぶりに五反田谷戸へ行ってみた。しかし、もうすぐ稲刈りが始まるようで、小高い野の花の宝庫はつんつるてんに刈られていた。定期的な草刈があってこそ、貴重な植物が絶えずに残っているのだから仕方あるまい。それでは休耕田でハンミョウでも撮ろうと下りて行って、追いかけっこをしていたら、雷鳴が轟いて空が急に暗くなって来た。天気予報は当たったのである。仕方無しにハンミョウの撮影は諦めて足早に車に戻ったら、滝のような雨が降って来た。早く自宅に戻って清き一票を投じなさいという天からの声のようであった。

<今日観察出来たもの>花/コバノカモメヅル、シラヤマギク(写真中右)、コミカンソウ(写真中左)、ツルボ、フジカンゾウ、ヌスビトハギ、ネコハギ、ツルマメ、クズ、ウド、ゲンノショウコ、ミズヒキ、キンミズヒキ、キツネノマゴ、ヘクソカズラ、ミソハギ、ツユクサ、ヤブカラシ、ヤブミョウガ、ヤマホトトギス、タマアジサイ、シュウカイドウ、ニラ等。蝶/キアゲハ、ジャコウアゲハ、スジグロシロチョウ、メスグロヒョウモン、ヒメアカタテハ、イチモンジチョウ、クロヒカゲ、ヒメウラナミジャノメ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミ、ウラナミシジミ(写真下左)、ルリシジミ、ヤマトシジミ、イチモンジセセリ、ダイミョウセセリ等。昆虫/オニヤンマ、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ、アキアカネ(写真下右)、コノシメトンボ、マユタテアカネ、オンブバッタ、ハネナガイナゴ、ミヤマフキバッタ、ハンミョウ、センノカミキリ、アブラゼミ、アミガサハゴロモ、ベッコウハゴロモ、アオバハゴロモ等。キノコ/シロオニタケ(写真上左)、タマゴタケ、キタマゴタケ、コガネヤマドリ、アカヤマドリ、ニガクリタケ(写真上右)、カワリハツ、ベニタケの仲間、ヒメカバイロタケ等。


2005年9月4日、東京都町田市小野路町

 とっても自然度の高い小野路町、図師町ではあるが、6月に入ってから、なんとなく期待外れが多く、芳しくない結果が続いている。平地産ゼフィルスの発生は極端に少なかったし、美しい雑木林のクヌギの樹液の出も悪かった。そんな事もあって、今日は気を引き締めて散策を開始した。まず目に付いたのは様々なマメ科の仲間だろう。フジカンゾウ、ヤマハギ、ヌスビトハギ、ネコハギ等が各所で咲いていた。この中でヤマハギはずっと前からちらりほらりと咲いていたが、やはり9月に入って本格化しだしたようである。ヤマハギは何処の山野にも普通だが、マクロレンズを通して見詰めると、その美しさにびっくりした。我が国では様々なハギの仲間が自生し、また品種改良がなされているが、ハギはその花の美しさより秋風にたなびく風情が尊ばれているようである。しかし、どうしてどうして一輪一輪の花も素晴らしい作りと美しさだ。そんなヤマハギを素直に切り取ると、付近にアレチウリが咲いていた。北アメリカ原産の帰化植物であるが、手に負えない程の繁殖力で各所に広がっている。その葉は緑濃く艶やかで、いかにも昆虫に好まれそうだが、この葉を食している昆虫も休んでいる昆虫も見たことがない。まったくのフィールドのお邪魔植物である。しかし、これもマクロレンズを通して見詰めると雌しべの先に縄文土器のような紋様があるのに気づいて、これまた素直に切り取った。作品にしようとか図鑑的に優れた写真を撮ろう等と考えずに、野の花をマクロレンズで切り取って行くのもとても楽しい。今日の午前中はこんな道草をしながら、久しぶりに牧場経由で植木屋さんの植え溜まで行ってひき返して来た。
 お昼までまだ時間があったので、雑木林の日陰をいつものように目を見開いて散策した。なにしろ今日も日向はとっても暑いのである。花では薄赤紫のフジカンゾウがとっても見事だ。ヌスビトハギと同属だから、やがてその実が衣服にくっついて苦労する事になる。よく見るとなるほどフジの花のように花の房がとても長い。それではその名につくカンゾウとは何ぞや、まさかノカンゾウやヤブカンゾのカンゾウではあるまいと思って帰宅してから図鑑を調べて見たが出てない。それではネットで調べてみようと検索すると、中国からヨーロッパ南部に分布するマメ科の多年草の草本で、日本ではわずかに栽培されているとある。道理で図鑑に載っていない筈である。更に読み進めて行くと、カンゾウとは甘草の事で、漢方で解毒、消炎剤としてとっても重要で、ほとんどの漢方薬に配合されているあの甘草の事だったのである。煙草の吸い過ぎや喉の使いすぎで、甘草エキス配合の「のど飴」を冬になると度々購入するが、その甘草とはこの甘草だったのかと苦笑する。いい歳こいて今知るとは、まこと道端自然観察万歳と言う訳であった。
 午後からはニリンソウの谷経由で美しい雑木林に行き、Tさん宅前を通ってキノコ山に登り、万松寺谷戸へ戻って来るといういつもの半日コースで散策した。谷戸を詰めてお爺ちゃんの耕作する田んぼの脇を通った時、植栽されているハリギリにセンノカミキリを発見した。どういう訳かお爺ちゃんは畑や水田の周りにハリギリをたくさん植えている。その幹や小枝に鋭い棘があるから、見知らぬ人や動物の侵入防止のためか、それともハリギリはタラノキやヤマウコギと同じウコギ科で、若葉の天ぷらが最高だから植栽しているのかは定かではないが、きっといつかセンノカミキリが見られるに違いないと思っていたのだ。ハリギリは別名をセンノキと言うから、その小枝に加害するカミキリムシだからセンノカミキリと名が付けられたのである。もちろんタラノキも大好きで、舞岡公園の小谷戸の里入口のタラノキは、このセンノカミキリの食害にあってとうとう枯れてしまった。今日も写真のように小枝の樹皮を齧っていた。美しい雑木林に着くとシロオニタケがたくさん生えていた。また、途中のアカマツの朽ちた丸太にヒメカバイロタケが爆生していたが、写真を撮ろうとしてしゃがみ込むと、薮蚊が束になって襲って来る。蚊取り線香を腰にぶら下げていても効果が無いので、更に腕や首に虫除けスプレーを散布し、め繰り上げた長袖のシャツの袖を下ろすといくらかは軽減するものの、今度は顔に襲って来る奴もいる。まったく「なんとかしてくれ」と叫びたくなった。そんな訳でじっくりと構えて写真撮影など出来やしない。その後、キノコ山に行ったが、タマゴタケ、シロオニタケも生えていて、きっと来週からは本格的なキノコシーズン突入となるだろうが、この薮蚊の多さには梃子摺りそうである。万松寺谷戸に降りて来たら、空はにわかに曇って大粒の雨が落ちて来た。いよいよ秋の長雨のシーズンがやって来そうである。

<今日観察出来たもの>花/フジカンゾウ、ヤマハギ(写真上左)、ヌスビトハギ、ネコハギ、コニシキソウ、アレチウリ(写真上右)、ウド、コマツナギ、キクイモ、ゲンノショウコ、ミズヒキ、キンミズヒキ、ガガイモ、キツネノマゴ、カラスウリ、ヘクソカズラ、ミソハギ、アキノタムラソウ、ツユクサ、ヤブカラシ、ヤブミョウガ、ヤマホトトギス、シュウカイドウ、ニラ等。蝶/アゲハ、キアゲハ、クロアゲハ、ジャコウアゲハ、モンキチョウ、キチョウ、スジグロシロチョウ、ルリタテハ、ヒメアカタテハ、イチモンジチョウ、クロコノマチョウ、ヒカゲチョウ、ヒメウラナミジャノメ、サトキマダラヒカゲ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、イチモンジセセリ、チャバネセセリ等。昆虫/ヨツボシホソバの雄(写真中左)、オニヤンマ、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ、ウスバキトンボ、マユタテアカネ、ヤブキリ、セスジツユムシ、ハネナガイナゴ、ミヤマフキバッタ、センノカミキリ(写真中右)、キボシカミキリ、クロカナブン、コクワガタ、アブラゼミ、ツクツクボウシ、ベッコウハゴロモ、アオバハゴロモ等。キノコ/シロオニタケ、タマゴタケ、カワリハツ、ベニタケの仲間(写真下右)、ヒメカバイロタケ等。その他/アサガオの実(写真下左)、ナガコガネグモ等。

多摩丘陵

小野路図師紀行
(第5集)




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