多摩丘陵

小野路図師紀行
(第6集)





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2005年 1月2月 3月4月 5月6月 7月8月 9月10月 11月12月



2005年12月30日、東京都町田市小野路町

 今日は3つの意味でのエンディングの日である。もちろん一つには今年最後の道端自然観察及び写真撮影の日であり、2つには1年間続けて来たこの「小野路図師紀行」の締めくくりの日であり、そしてまた3年間も続けて来た「つれづれ観察記」の最終日でもある。こんな記念すべき日は、当然、小野路図師へ行かねばならぬと、30日まで大切にとっておいたのだ。この為、ずいぶんと間隔が空いてしまった。もちろん明日は大晦日、最近寒くて雑巾掛けが憚れ、愛車「小野路号」の掃除をずっと怠っていたので、たっぷりと可愛がってあげねばならない。今日の小野路は誰一人会わずとっても静かで、無人野菜販売所にて小松菜を一束100円にて3束購入する事も出来た。明後日の元旦のお雑煮は、小松菜のてんこ盛りが食べられそうである。
 今日はどのようなコースで回ろうかなと思ったが、やはり見るもの撮るものが多い牧場方面へ午前中は行って見ることにした。途中、しばらくご無沙汰のキノコの顔が見たくて、ナメコが栽培されている場所に寄り道したが、寒さよりも乾燥の為か乾涸びているものばかりであった。しかし、引き返す途中、クズの葉痕が撮って下さいとばかりに微笑んでいた。今日は何となくおどけた元気の良いお姉さん顔で、築地の魚市場にでも働いていそうな親しみ溢れる顔であった。クリやウメが植栽されている畑で、小枝につくチャミノガを撮影していると、無人野菜販売所を開いている農家の若大将に出会った。「今日も野菜、販売するの」と聞くと、「もちろんですよ」との事であった。このところ打ち続く寒波によって野菜は高騰しているが、「市場に出した方が儲かるんだけど、いつもの価格で販売しますよ。でも、すぐに売り切れちゃうから、1時には行ってね」との事であった。「小松菜もあるの」と更に聞くと、「勿論ですよ、お雑煮には小松菜が一番、白菜やホーレンソウでは代用出来ませんよね」と笑って言う。この若大将のみならず若奥さんも、今はやりの茶髪で原宿辺りを歩いていてもおかしくない格好をしているが、もちろんここは小野路、心はいたって日本的なのである。そこで早速、携帯電話で自宅に電話して、小松菜をスーパーで買わないようにと伝えて、万松寺谷戸へ入って行った。
 今日は以前にも紹介しているのだが、ジャコウアゲハの蛹に挨拶がしたくなった。しかし、秋に見つけておいたものの姿はなくなり、更に小鳥に食べられた蛹も見つかった。そんな訳で真剣に探すはめととなった。毎年の事だが、ジャコウアゲハに限らず越冬する蝶の蛹の観察は年内に済ませておかないと、翌年にはその数が激減する。小鳥の仕業と考えたいが、蝶の収集家の方の採集も少なからずあるのかもしれない。いつもこんなに数が減って、はたしてチョウは見られるのかしらと心配になるのだが、季節になるとちゃんとたくさん飛んでいる。私が目にする以上に、様々な場所でかなりの数が越冬しているのだろう。万松寺谷戸を後にしてキノコ山への道を登って行くが、もちろんキノコ山へは登らない。しかし、ここにハリエンジュ(ニセアカシア)の幼木がたくさん生えているので、ハリエンジュ大王を探してみた。去年もここで撮影して、大好評を博したので頑張ってみたものの、今年は花虫とおると同じで威厳の無い大王しか見当たらなかった。丘の上の畑に到着すると、アメリカハナミズキの実はすっかり落ちているものの、ニシキギの実は相変わらず鈴なりについている。植木屋さんの畑のネコヤナギは、ほんの一部の芽だけだが弾けて銀色の毛が見える。小野路でも暖かい場所だからソシンロウバイも咲き出し、相変わらずナンテンやツルウメモドキ、植栽されている木に絡みついたトキリマメの実が美しい。傍らにあるヤマグワに生えているヒラタケは採取もされずにすっかり乾涸びていた。今日はその奥にある雑木林に接した栗林で、ウスタビガとヤママユの空繭を見つけようと足を早めた。今年はウスタビガの発生は少なかったようだが、容易く3つも見つける事が出来た。しかし、ヤママユの空繭は1つだに見つからない。やっぱり白山谷戸の栗林へ行くしかないのかなと諦める。
 午後からはこんなに早く修理されて戻って来るとは思わなかったカシオのカメラが昨日家に届いたので、デジスコを抱えてTさん宅経由で一回りしてみた。本当にデジスコは軽くて歩調も快適だ。しかし、見られる野鳥はハシブトガラス、スズメ、そしてヒヨちゃんばかりで、今日も野鳥無しだでー(day)になるなあと、とぼとぼ車が停めてある場所まで戻って来ると、なんとモズ子ちゃんがお出迎えしてくれているではないか。あの寺家の奇人、冬虫夏草N仙人もモズの雌は可愛いと言う位だから、とっても可愛い。そんな訳で夕ご飯の最中のモズ子ちゃんを追い掛け回して、様々なカットをカメラの中に納めた。以上、今日は本年最後としては、まずまずの出来であったなあとほくそ笑み、ほっとする。もちろん帰りの車の中では、ワルター指揮によるベートーベーンの交響曲第9番に耳を傾ける。明日への限りない希望を投げかけて、オーケストラも合唱もあらん限りに歌い上げて終わった。そして興奮が静寂へと変わって感極まって涙する。希望こそが、命ある全てのものの明日への力なのだ。

<今日観察出来たもの>花/ホトケノザ、オオイヌノフグリ、ソシンロウバイ等。蝶/オオムラサキの幼虫(写真下右)、ジャコウアゲハの蛹。昆虫/ウスタビガの空繭(写真下左)、コバネイナゴのモズのはやにえ(写真上右)、ハラビロカマキリの卵のう。鳥/モズ(写真上左)、ヒヨドリ、ハクセキレイ、スズメ、ハシブトガラス等。その他/クズの冬芽葉痕(写真中左)、ニセアカシアの冬芽葉痕(写真中右)、センダンの冬芽葉痕、トキリマメの実、ツルウメモドキの実、ノイバラの実、ニシキギの実、クサギの実、ナンテンの実、カラスウリの実等。


2005年12月17日、東京都町田市小野路町


 今日は前回来た時よりもっと真っ白に霜が降りていた。地面だけでなくアズマネザサやノイバラ等の下草の低木の葉にも霜の結晶がたっぷりとついている。もちろん谷戸田はカチンカチンに凍り、畑や露地には勢い良く霜柱がたっていた。雑木林はますます落葉して小道はふかふかのジュータンとなり、僅かにコナラの黄葉が残っているものの、ヤマコウバシの褐色の枯葉が非常に目立つようになった。遂に厳冬期が間近であると感じさせる。しかし、野鳥の出はすこぶる悪く、カワセミすら見られない。せっかくのデジスコ撮影練習は空振りとなってしまった。モズやジョウビタキが見られるのは、どうも年明けからのようである。12月に入って特にデジスコを手にしてから、頭の中は蝶も昆虫もキノコも野花もすっかり忘れてしまって、野鳥オンリーとなっている。なんとなく、それらの話題を口にするのが億劫で、面白くないのである。もっとも、スミレが咲けば頭の中はスミレ一色となり、ギフチョウが飛べば頭の中はギフチョウ一辺倒となる筈である。そんな状態だから野鳥が一種類も紹介出来ない、この小野路図師紀行はつまらないから書くのを止そうとも思ったのだが、何でも屋だから一般撮影用カメラの中にはちゃんと写真が確保出来てしまった。野鳥が一つも紹介出来ないのは寂しい限りだとは思うものの、残り少なくなった今年のラストに近い散策記はとても貴重である。
 今日は前回来た時と同じように、まず霜の降りた草や枯葉を撮影した。地面に落ちているものばかりではつまらないので、常緑樹の葉に着いているものを撮った。すっかり萎びたヒメジオンやセイタカアワダチソウ、ナズナやイヌタデの花にも固く霜が張り付き、あの憎きお邪魔虫のコセンダングサの種子も凍っていた。思わず日頃の恨みを晴らすかのように、「ざまあみろ」とコセンダグサの種子の塊に向かって吐き捨てた。今日は完全防寒スタイルだから、かなりの時間耐えられたのだが、やはり日陰は寒い。しかし、陽のあたる場所は風も無くかなり暖かい。昆虫など一匹も見られない筈と思っていたのだが、アキアカネが地面すれすれだが元気良く飛び、なんとヒメアカタテハがほとんど枯れているコスモスの花に吸蜜に訪れたのには驚いた。命ある限りその生を全うする。そこには人間様のようなくだらない何等の疑問符等は一切無いのだ。
 今日はいつもと異なって、イチリンソウの谷から美しい雑木林へ行き、丘の上の畑へ出てTさん宅前を通って戻って来るコースをとった。お爺さんが耕している陽があまり当たらない谷戸田は、かちんかちんに凍っている。たくさん植栽されているセンノキやタラノキに、もしやタテジマカミキリがいるのではないかと探してみたが見つからなかった。しかし、同所にたくさん植栽されているマンリョウは真っ赤に色付き、サンショウの葉痕が勇ましい顔で見詰めていた。こんな兜を被ったような顔は何処かで見た事がある。古代ギリシャやアッシリアの壁画に登場する戦士のようである。美しい雑木林に入って行くと落葉が深々と積もって、普通に歩くより落ち葉を蹴散らすように歩く方が歩き易い。毎年、この落ち葉を蹴散らしながらの散策は楽しい年中行事の一つだった筈だが、どうも今年は面白くない。宮田輝似の右頬の腫れはようやくおさまったものの、なんとなくまだ歯が痛いから100%の陽気さが戻って来ないのである。かさこそ歩かなければ雑木林の中は静寂に包まれていて、ただクロスジフユエダシャクのみが音も無く低く弱々しく飛んでいる。クヌギ等の葉は完全に落葉したが、コナラの黄葉がまだかなりしぶとく残っている。これまでクヌギの葉が一番最後まで残っていると感じていたのだが、逆だったようである。大きな葉のホウノキやアワブキは完全に葉が落ち、それぞれ独特の冬芽の姿になった。前者はビーニールに包まれたような鱗芽で、後者は何も着用しない裸芽である。きっとアワブキは南方起源の植物なのだろう。陽が当たる雑木林の小道に出でクヌギの幹をなんとなく見ていたら、ニホントビナナフシが日向ぼっこをしているのを発見した。「まだ生きていたのか、お前」と呟いて、丁寧に撮影した事は言うまでも無い。
 午後からは張り切ってデジスコ撮影に切り替えたが、待てども場所を変えれども野鳥の姿は前述したように見当たらない。こうなるとお仲間の中では一番軽いデジスコセットなのだが、非常に重く感じられる。しかも次第に季節風が強くなって来た。来年になればデジスコ三昧の日々がやって来るのだからと慰めて、とぼとぼと車の方へ戻った。

<今日観察出来たもの>花/ニホンスイセン、サザンカ等。蝶/ヒメアカタテハ。昆虫/ニホントビナナフシ(写真下右)、クロスジフユエダシャク、アキアカネ、ハラビロカマキリの卵のう等。キノコ/ウチワタケ(写真上右)等。鳥/キジ、キジバト、ヒヨドリ、カシラダカ、キセキレイ、スズメ等。その他/霜の降りた葉、ヤマコウバシの枯葉(写真上左)、サンショウの冬芽葉痕(写真下左)、サルトリイバラの実(写真中左)、マンリョウの実(写真中右)、ノイバラの実、ニシキギの実、クサギの実、ナンテンの実、カラスウリの実等。


2005年12月10日、東京都町田市小野路町

 昨日家に帰って来ると、なんとかこのHPの更新は出来たものの、治療中の歯がとても痛く意識も朦朧として来たので布団の中へ直行した。だから、今日は何処へも行けないのではと思ったものの、信じられない位に長時間眠ったので、寝飽きてしまった。そこで小野路町へしぶしぶ行ってみた。到着して草原や畑に真っ白に霜が降りているのには驚いた。谷戸田の僅かに残っている水も凍っている。しかし、歩き始めると、とても穏やかで暖かい日となった。午前中は牧場方面を一般撮影機材で散策したが、午後からはデジスコの練習に励んだ。お蔭様でカワセミも現れてくれ、思う存分撮影する事が出来た。
 冬は寒くて決して好きな季節とは言えないが、霜が真っ白に降りている光景を目の当たりにすると、冬がついにやって来たんだと喜びにも似た感覚がこみ上げて来る。これからいつでも撮影出来るのだが、初めての霜を見て、畑や草原にある葉の上の霜を撮影しなければならないなと被写体を探した。厳冬期だと、こんな日陰にじっとしていると身体も凍りついてしまうような寒さに見舞われるのだが、今日は気温が高いためにそのような事は無かった。万松寺谷戸へ入って行くと、真っ青な青空から太陽の光がたっぷりと届いていて、霜は全て溶けている事は勿論だが、ベニシジミが弱々しく飛んでいるのには驚いた。今は秋と冬のちょうど中間地点なのだとしみじみと感じ入った。田んぼに刺してある竹の棒には、チョウセンカマキリの卵のうがたっぷりと生みつけられている。もちろん、だいぶ前からそうだったのだが、カマキリの卵のうは冬の風物詩だと紹介しなかったのである。更に、ちょうどモズがはやにえを刺すのに手頃な小枝の残っている竹の棒を見つけたので近づいてみると、やっぱりハネナガイナゴが刺されていた。まだ、小野路町でモズを観察していないが、このはやにえがあるのだから、何処かに隠れているのだろう。栗林に到着すると、これまた冬になるまでと撮影をしなかったオニグルミの葉痕を撮影した。大きな葉痕はほとんど羊顔だが、小さなものは猿顔にも見える。オニグルミは葉痕を語るに当たって、絶対に見逃すことの出来ない愛らしいキャラクターなである。
 キノコ山の登り口に到着したが、行っても無駄と登らなかった。美しく下草が刈られた雑木林の地面には、先週よりももっと多数のクロスジフユエダシャクがひらひらと飛んでいた。果たして今日は何処へこれから行こうかなあと思ったが、牧場方面への道をとった。見るもの撮るものが無いこの季節、雑木林の中の小道を歩いていても仕方が無い。やっぱり人の臭いのする場所なら、何かしらの撮る物があるからだ。日当たりの良い丘の上の畑に出ると、まさかこの時期に見られるとは思っていなかったオンブバツタが、ハクサイの葉に止まっていた。マクロレンズで覗いていると、その葉を食べ始めたではないか。人間が食べてもとっても美味しいのだから、様々な草が枯れるこの時期にハクサイを食するのは当たり前だと納得する。植木屋さんの畑に到着すると、前々回、たくさんのツマグロオオヨコバイが見られたハクモクレンの葉はすっかり落葉して、その落ち葉の上でキタテハが日向ぼっこをしていた。毎年、美しい実がたくさん見られるクチナシを植栽している場所にと思ったが、農家の方々が枯れた下草や落ち葉を燃やしていたので止めにした。途中、もう誰かに採られてしまったのではないかと思っていたヒラタケが、乾燥の為に干からびて生え残っていた。
 午後からはもちろんデジスコに機材を変えて散策を開始したが、とっても運が良く、万松寺谷戸入り口の蓮池にカワセミが来ていた。カワセミは一箇所にじっと止まって餌の動きを見ているから、デジスコ撮影の練習には最適な野鳥なのだ。農道際にある蓮池だからカワセミも人慣れしていて、比較的近寄っても飛び立つ事はなかった。竹の棒の先に止まったり、刈れた木の枝に止まったり、ご愛嬌にも安置してある小さな観音様の頭にも止まった。デジスコのほとんど最短距離まで近づいたら、なんとカワセミの全身像で液晶ディスプレイは一杯になった。やはりデジスコの威力はすばらしいと、上空をカワセミが見つめた瞬間を見計らってシャッターを切った。心配したピントは目にぴしっとあって、これは使い物になるぞよとほくそえんだ。

<今日観察出来たもの>花/コセンダングサ、ハルジオン、ヒメジオン、ホトケノザ、ノゲシ、セイタカアワダチソウ、ニホンスイセン(写真上左)、チャ、サザンカ、ボケ等。蝶/キタテハ、モンシロチョウ、ベニシジミ等。昆虫/オンブバッタ、クロスジフユエダシャク、チョウセンカマキリの卵のう等。キノコ/ヒラタケ、栽培ナメコ等。鳥/カワセミ(写真下右)等。その他/霜の降りた葉(写真中左右)、オニグルミの冬芽葉痕(写真下左)、トキリマメの実(写真上右)、ゴンズイの実、ノイバラの実、ニシキギの実、マユミの実、ナンテンの実、カラスウリの実等。


2005年12月3日、東京都町田市小野路町

 今朝起きてみると、ほんの少しだが霰が積もっていた。道路を見ると濡れているし、空を見上げると黒い雲がかなり残っている。ここしばらく続いた穏やかな小春日和は断ち切られて、いよいよ木枯らし吹く寒い季節となったようである。しかし、多摩丘陵方面の空は青空だし、天気予報でも町田市は一日中晴れというので出かけてみた。雑木林はかなり落葉し、クロスジフユエダシャクがあちこちで弱々しく舞っていた。「もうこんな季節になったんだ」と感慨を新たにした。今年は仕事がとても暇で、道端自然観察に信じられない位に出かけて、いつまでも散策日和が続くものと錯覚していたが、やはり冬は忘れずにやって来たようである。
 12月に入って初めての小野路行きとなるが、もう各種のカマキリの卵のう、蝶の蛹、モズのはやにえ、冬芽と葉痕等を登場させても良い季節に入った訳である。だから、撮るものに苦労することはあるまい。そう思ったのだが、出来ることならそれらは後回しにしたいなあと散策を開始した。そんな思いが通じたのか、幸先良くカラスウリの実が真っ赤に色づいて垂れ下がっていた。北斜面の日陰だから、その成長がだいぶ遅れたようである。いつものように栗林に隣接する場所に植栽されているアメリカハナミズキを見に行ったが、完全に落葉しているが、ウスタビガの独特な格好の緑色の空繭は一つもついていない。やっぱり今年はウスタビガの発生が極端に少ない事がこれで分かった。万松寺谷戸に足を進めると、このHPの掲示板でお馴染みの森のきのこさんが撮影したカワセミが、氏の撮ったと同じ立て札の上に鎮座している。野鳥撮影用機材を持っていればなあと悔やまれる。しかし、だいぶ近づいても逃げないから、もしや焦点距離の短いこのレンズでも撮れるのではとわくわくしたが、やっぱり野鳥、竹やぶの中に逃げ込んでしまった。ここの小さな蓮田と小川にはメダカが生息していて、メダカは身体が小さいからカワセミは満腹するのだろうか。また、ことによったらカワセミよりメダカの方が現代に於いては希少種、食べ尽くす事のないようにと案じられた。
 万松寺谷戸の刈られずに僅かに残った草原には、ベニシジミ、ヤマトシジミが見られ、まだ、気温が上がっていないので、セイタカアワダチソウの花に寒そうに止まっていた。谷戸の最奥に足を踏み入れるとイロハモミジの紅葉が美しい。付近にあるエノキの葉もだいぶ落葉したから、ゴマダラチョウの幼虫も、越冬の為、根際の落ち葉の葉裏に移動した事だろう。山道を登り切ってキノコ山へ行くと、雑木林はかなり葉を落としていて、歩くたびにかさこそと音がしてとても快適だ。こんな落ち葉の中を一人静かに散策するのはとっても楽しい。そんな静寂の雑木林の中を地面すれすれに、ひらひらと弱々しくクロスジフユエダシャクが飛んでいる。まだ、発生初期のようで最盛期は来週だろう。このクロスジフユエダシャクの何処にそんな体力が秘められているのかと思うほどに、ひらひら飛んでなかなか止まらない。だから撮影するのに苦労するのだが、昆虫撮影の鉄則である止まり癖のある個体を見出して追いかければなんとかなる。どうしてこんなに寒い時期に発生するのかと疑問符だらけだが、他にもかなりの種類のフユシャクが知られている。今日はこの後何処へ行こうかと思ったが、時計を見ると牧場方面へ行く時間がない。そこでTさん宅前を通って車に戻る事にした。Tさん宅の広い庭にはかなりの方が集まって餅をついている。昔ながらの杵と臼だから、ぺったんぺったんと懐かしい音が聞こえて来る。路傍にはサザンカが咲いて美しい。下草を見るとなんとクロスズメバチがかなりの数で休んでいる。私が学生時代に3年間住んでいた伊那谷では、その幼虫である蜂の子を食用としている。フライパンで炒って醤油で味付けると本当に美味しいのだ。それにしても、スズメバチの仲間は女王だけが成虫で越冬し、他は死滅するのだがどうした事だろう。図鑑を開いて見たが、クロスズメバチの越冬に関してはなにも書かれていない。別名をジバチと言い地面に巣を作るから、蟻のように集団越冬するのかもしれない。
 午後からは五反田谷戸や神明谷戸へ行っても見るもの撮るものはないだろうと、美しい雑木林周辺を散策した。雑木林の中にはやはりクロスジフユエダシャクが飛び、農道にはひっ付き虫の代表格であるコセンダングサの実が陽に輝いていた。また、ノイバラやゴンズイの実も美しく、畑のキウイも葉が落ちて、おかめ顔の葉痕が笑っていた。今日は以上のように、まだ、各種のカマキリの卵のう、蝶の蛹、モズのはやにえ、冬芽と葉痕等の冬の風物詩を登場させずに済んだが、多分、来週はそういう訳には行かないだろう。今日も予期せぬ被写体に恵まれて、寒くならない内にと、早々と家路を急いだ。

<今日観察出来たもの>花/リンドウ、リュウノウギク、コセンダングサ(写真中右)、ハルジオン、ヒメジオン、ホトケノザ、セイタカアワダチソウ、チャ、サザンカ等。蝶/ベニシジミ(写真下右)、ヤマトシジミ等。昆虫/クロスズメバチ、クロスジフユエダシャク(写真下左)等。キノコ/ウチワタケ等。鳥/カワセミ等。その他/コガタコガネグモ、イロハモミジの紅葉(写真上左)、ツルウメモドキの実、ゴンズイの実(写真中左)、ノイバラの実、ニシキギの実、マユミの実、ヤブムラサキの実、ムラサキシキブの実、カラスウリの実(写真上右)、ナンテンの実、ヒノキの実、ヤブミョウガの実等。


2005年11月26日、東京都町田市小野路町・図師町

 一昨日の舞岡公園と同じく、小野路町・図師町での観察記「小野路図師紀行」も、今日を入れて後3回で終了となる。本年は、ゼフィルス、オオムラサキ、スミナガシ等の美麗な蝶の発生も少なく、また、年々、リンドウ等の野の花が減っているが、来るたびに何かに出会え、そして勉強となった一年であった。来年も「小野路図師紀行」こそ書かないものの、週一ペースで足を運ぶ事となろう。今日は、12月に入るにあたっての、晩秋の最後の一日と思って散策した。お蔭様で、これといったものには出会えなかったが、カメラの中は満腹となった。なにはともあれ、里山散策の筆頭のフィールドは、やはり小野路・図師なのである。
今日も午前中は前回と同じコースを歩いた。栗林に植栽されているアメリカハナミズキの葉は、だいぶ落葉して透けて見えるようになった。ウスタビガはいないか、空繭はついていないかと念入りに探したが、空繭さえも発見出来なかった。どうやら今年のウスタビガの発生は極端に少ないようである。万松寺谷戸へ入ったが、下草が刈られていて、蝶では僅かにウラナミシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミが飛んでいた。もう新鮮な個体は見られず、いよいよ晩秋は終わりに近づいているようである。田んぼにたくさん突き刺してある竹の棒には、チョウセンカマキリの卵のうがたくさんついている。それでも厳冬期にたくさん観察されるモズやジョウビタキの姿はまだない。谷戸奥のオニグルミはほとんど葉を落としていて、羊顔の葉痕がいっぱいだ。坂道を登って行く途中にヤケアトツムタケがいつも生えているが、今日はこれを撮らなければキノコ無しデーになるかもと探してみたが、ほとんど萎びていた。焚き火の跡や焼け跡に生えるから、その名もヤケアトツムタケなのである。キノコ山へももちろん寄ってみたが、落ち葉がたくさん落ちているだけてあった。
 晩秋色の静寂が支配する雑木林の小道を通って丘の上の畑へ出たが、途中、萎び始めたカラスウリの実が侘しげに揺れていた。今年は絵になるように垂れ下がっているカラスウリに、とうとう一度も巡り合わなかった。丘の上の畑に植栽されているアメリカハナミズキの実は、まだ真っ赤なものもかなり残っているが、茶褐色に萎びているものも多くなった。しかし、その隣のニシキギの実は、相変わらず目が覚めるように鈴なりに可愛らしい実をつけている。植栽されて日が浅いウメやカキの幼木は完全に葉を落としていて、イラガの繭がぽつんぽつんとついている。陽が良く当たる場所にある畑のハクサイの葉に目を向けると、今日もまだオンブバッタが暖をとっていた。「あーあ、本当に撮るものが無くなったな」と溜息をつきながら農道を下って行くと、ヒサカキの黒い実が輝いていた。子供の頃、インクの実と呼んで、潰してその汁で文字や絵を良く書いたものである。ヒサカキはとても強い低木で、刈っても刈っても伸びて来る。風の収まるのを待ちながら、横をふと見るとホソヘリカメムシが葉上で日向ぼっこをしている。大豆の葉上でたくさん見られる普通種だが、今日はようこそいらっしゃいませと丁寧に撮影した。農道を更に下ると、ウラギンシジミがサルトリイバラの葉裏で静止していた。ウラギンシジミは厳冬期でも葉が落ちないツバキやアラカシ等の常緑樹の葉裏で、じっと動かず成虫で越冬するが、サルトリイバラの葉はいずれ落葉してしまうのだから本格的な越冬状態に入ったのではなさそうだ。しかし、今日は穏やかでとても気温が高いというのにどうした事だろう。ことによったら、サルトリイバラの葉は落葉しない葉であるに違いないと思ったのだろうか。植木屋さんの畑に到着するとサザンカやボケが咲き、ナンテンの実も真っ赤になっていた。また、早春に目を楽しませてくれるハクモクレンの葉はすっかり黄葉し、葉裏や葉上にたくさんのツマグロオオヨコバイが見られた。ヨコバイは横に這うから横這いで、けっして横蠅ではない。また、成虫で落ち葉の葉裏で越冬する。
 午後からは美しい雑木林、Tさん宅前、五反田谷戸、神明谷戸と回ったが、これといったものには出会えなかった。途中、リンドウの穴場にも寄ってみたが、その数が減っていて、心無い方に盗掘されたようで寂しくなった。また、コバノカマズミがこんなにたくさんあるのと驚く程に、まとまって生えている場所を発見した。どう見たって、葉はガマズミに比べてだいぶ小さくまた端整で、その実は真ん丸くて大きく、また、その重さの為に垂れ下がっていた。「まったく、一年、一年、それ程頑張っている訳ではないものの、つれづれなる気ままに散策し観察し写真を撮っていると、その積み重ねでだんだん知識が豊富になるな」とほくそえんで、帰宅時間にはちと早いものの、今日の散策は終了とした。

<今日観察出来たもの>花/リンドウ、リュウノウギク、セイタカアワダチソウ、チャ、ボケ、サザンカ等。蝶/テングチョウ、キタテハ、ヒメアカタテハ、ツマグロヒョウモン、ウラギンシジミ(写真下右)、ウラナミシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミ等。昆虫/テントウムシ、オンブバッタ、ツマグロオオヨコバイ、ホソヘリカメムシ(写真下左)、エサキモンキツノカメムシ、チャバネアオカメムシ、アカスジキンカメムシの幼虫等。キノコ/ヤケアトツムタ、アシボソノボリリュウタケ、ムラサキシメジ、ニガクリタケ等。その他/ヒサカキの実(写真上右)、ヤマコウバシの実、アオツヅラフジの実、コバノガマズミの実(写真上左)、マユミの実(写真中右)、ヤブムラサキの実、ムラサキシキブの実、カラスウリの実、スズメウリの実、ナンテンの実、ヒノキの実(写真中左)、ヤブミョウガの実、ゴンズイの実等。


2005年11月20日、東京都町田市小野路町・図師町

 今日は年末に開催する第2回里山写真クラブ作品展の打ち合わせがあって、小野路図師へ行った。まあ、そんな打ち合わせがなくとも、定例の散策として行った筈だが、見るもの撮るものが少なくなっている季節に打ち合わせの時間が入るのだから、ますますカメラの中に写真を納めるのが難しくなる。そこでいつもより1時間早起きしての散策となった。しかも、道端自然観察及び写真撮影にはそぐわないかもしれないが、園芸品種でも人工的に植栽されているものでもなんでも撮ろうと、最初から牧場、植木屋さんの畑、キノコ山、そして打ち合わせのある五反田谷戸へというコースをとった。歩き初めてそのコースへ足早に急ぐつもりであったが、ふと栗林にあるアメリカハナミズキで、ウスタビガが羽化しているではないかと思い寄り道してみた。しかし、アメリカハナミズキにはまだかなり紅葉した葉がついていて、その為にウスタビガの繭を発見しづらくはあったものの、一個だについていないようであった。その後、様々なポイントで注意してみたが、どうやら今年のウスタビガの発生は極端に少ないようである。今年は羽化後の新鮮な個体に出会えそうもないなあと苦虫を潰した。
 急な坂道の農道を横道にそれたりして散策をしながら牧場まで行ったが、心配した通り見るもの撮るものが全然ない。ようやく色付いて来たナツミカンの撮影はまだまだ先の事だ。顔見知った農家の畑前に積んである丸太をしげしげと見るが、生えているのはサルノコシカケ科の仲間位だ。竹林に入ってみるとムラサキシメジがかなり発生していたが、どうあがいても絵にしにくいキノコだなあと溜息をつく。しかし、竹林にすくっと立った真っ赤なものが目に入って、近づいてみるとなんとマムシグサの実ではないか。多摩丘陵にはマムシグサは普通に見られるものの、真っ赤な実がついた姿を観察するのは初めてである。一挙に落ち込んだ思いが明るくなった。マムシグサの実は、ベニテングタケを撮りに八ヶ岳高原へ行った時に、さんざん観察し撮影し素晴らしいカットを得ているものの、多摩丘陵でのものだからこそ価値があると、慎重に作画して撮影した。これで気を良くして植木屋さんの畑へ行ったが、やはり枯れ草火災を心配してか、あるいは蜂等の昆虫達も鳴りを静めたからか、各所で草刈が行われていて煙がもうもうと立ち上がっていたので、撮影には芳しくないと立ち寄りを控えた。それでも久しぶりに見るベニシタンの実を撮ったり、イチジクにまだ生き残っていたキボシカミキリを観察した。
 雑木林の散策路に入ったが、やはりこれといったものに出会えない。ヤマコウバシの実でも撮りたいなとも思ったのだが、手ごろな高さのものが見当たらない。キノコ山へ登ったがキノコ無し山の状態だからお手上げだ。さてここからどんなコースで五反田谷戸へ降りて行くかと思案したが、こんなに被写体不足だとTさん宅前の栽培シイタケも撮って置こうと、Tさん宅経由のコースに決めた。途中、ふとキノコ山下の梅林が気になって立ち寄りしてみると、なんと枯れ木に花ではないが、ヒメヤママユガが梅の幹に止まっていた。これはラッキーと飛び上がらんばかりに喜んだ。ヒメヤママユは上記した八ヶ岳高原へ行った時に、クスサン、アケビコノハと共に、コンビニの灯に飛来した個体を多数観察し撮影していたが、いかんせん壁や道路上のものでは風情にかける。しかも、このHPの掲示板に度々ご投稿下さる「ちゃわんむし」さんがほんの少し前に他所で撮影していたので、撮りたいなあと思っていたのだ。それがなんと破損していない個体で、しかもちょうど撮影に手ごろな高さ太さの幹に静止しているのだから堪らない。こんな大物のヤママユガの仲間を写せるチャンスなんて、それこそ一生の内に何回も無いことだろう。これだから小野路図師巡りは何があっても止められないとほくそ笑む。
 今日は撮るもの見るものが無いのではと思っていたが、なんとマムシグサの実、ヒメヤママユと超大物に出会えて、しかも規定枚数は確保出来たのだからにんまりである。しかし、キノコを一枚も撮っていないのは何だかとても寂しい。そこでTさん宅前の栽培シイタケは勿論、今日のラッキーな出会いにVサインのアシボソノボリリュウタケも撮影して、五反田谷戸へ降りて行った。心配していたが去年の作品展に出展なされた方の内、やもうえず参加できない方を除いて、全員再参加とはとても喜ばしい事である。定刻通りヤマザクラの老木の下に集まれる方のみ集まって、「全ては去年と同じ、後で詳細をメールします」の一声で、打ち合わせは瞬時に終了した。その後、和気あいあと会話したり写真を撮ったりしたが、やはり今日の最大の大物であるウスタビガを、みんなして見に行く事になった。途中、Tさんが恵比須顔で「寄っていきなさい、お茶飲みなさい、柿食いなさい」と歓迎してくれたので、囲炉裏を囲みながら一息入れて行ってみたが、ヒメヤママユは午前中と変わらぬ場所にじっと静止していて胸を撫で降ろした。

<今日観察出来たもの>花/リンドウ、リュウノウギク、イヌタデ、ノハラアザミ、セイタカアワダチソウ、シロヨメナ、アキノキリンソウ、タンポポの綿毛、チャ、ボケ、サザンカ等。蝶/モンキチョウ、ツマグロヒョウモン(写真下右)、ベニシジミ、ヤマトシジミ等。昆虫/キボシカミキリ(写真中左)、ヒメヤママユ(写真中右)、オオアオイトトンボ、アキアカネ、マユタテアカネ等。キノコ/アシボソノボリリュウタケ、ムラサキシメジ、栽培シイタケ(写真上左)、アシボソノボリリュウタケ等。その他/マムシグサの実(写真上右)、ベニシタン、イヌシデの実(写真下左)、アオツヅラフジの実、コバノガマズミの実、マユミの実、コマユミの実、ヤブムラサキの実、ムラサキシキブの実、カラスウリの実、ナンテンの実、ヒノキの実、ヤブミョウガの実、クサギの実、ゴンズイの実等。


2005年11月13日、東京都町田市小野路町・図師町

 昨日の木枯らし第1号が吹く寒い日と異なって、今日は風も無く穏やかな晩秋の1日となった。これから春までは、やはり晴天で風の無い日が散策日和であるのは勿論だが、写真撮影に於いても好適な天候と言えよう。初夏から初秋まではピーカンは駄目と書き続けて来たが、11月に入ると曇天の日は駄目と変わるのである。一つには昆虫が見られないし、リンドウ等は晴天でなくては花開かないのだ。花を開いても吸蜜にやって来るアブが寝込んでいるのだから、意味が無いという訳である。そればかりでなく曇天だと、シャッター速度が本当に遅くなる。そんな訳で、今日は見るもの撮るものが少なくなって来ている割には、カメラの中は満腹となった。
 今日の第一のターゲットは秘密の場所にひっそりと咲くリンドウ。でも前述したように、太陽の光りが降り注がないと花が開かない。そこでリンドウは午後一番に撮影するつもりで、最近の午前中の定番コースとなっている、万松寺谷戸からキノコ山、そして牧場方面へと散策を開始した。車を停めた場所にあるヒノキの実は褐色となっていて、いよいよ中の種子は熟したようだ。前方の路肩を見ると、つくし野のTさんと森のきのこさんの車が停まっている。きっと今日何処かで出会うに違いない。いつもウスタビが発生するアメリカハナミズキの葉はすっかり紅葉して、もうすぐ落葉するだろう。落葉が始まるとウスタビガが羽化して来るのだが、今年は暖かいからどうなるのだろう。今日もスッポンタケはどうなったかと見に行くと、路肩にころころ落ちでお陀仏かと思ったが、それでも横から出ているのには驚いた。もっともかなり前に顔を出したらしく、また、雨に洗われてすっかり傘の部分の濃い緑色のグレバは流れ落ちていた。ふと地面を見ると枯れ枝にキノコが発生している。拾い上げてみると、傘の裏がまるでハチの巣のように見えるハチノスタケだ。そこでやらせとはなるが地面に枯れ枝を突き刺して撮影した。万松寺谷戸はこれと言ったものは見られないが、ヤマトシジミ、ベニシジミ、キチョウ、ツマグロヒョウモンが飛んでいた。ツマグロヒョウモンは、こんなに羽が破損していて良く飛べるもんだと感心するような個体も混じっていた。また、谷戸最奥のモウソウタケの竹林の中には、クロヤツシロランの枯れた花穂がたくさん見られた。寺家ふるさと村のN仙人が、「クロヤツシロランは普通種になった」と言っていたが、花がとんでもなく地味でなかなか見つからないものの、その数はかなり多いことがはっきりと分った
 万松寺谷戸を後にしてキノコ山に登るが、キノコ無し山で、恐らく初夏になるまで、ずっとこのままキノコ無し山になるだろうと思われた。静で美しい雑木林を通って丘の上の畑へ向って歩き始めた。クヌギの大木に紅葉したツタの葉が美しい。写真の左上の小さな葉を見ればツタとすぐ分るが、3葉になった葉はツタウルシと紛らわしい。寺家ふるさと村のHドクターによると、ツタの葉の鋸歯の部分は小突起があると聞いていたので、確かめてみると確かに刺のようなものが出ていた。本当にその道の達人が回りにいるので、日を追うごとに道端自然観察の知識が豊富になる。丘の上の畑に出ると、晩秋の太陽の光りに群れていて、畑で栽培されているハクサイの葉上を見ると、ヤマトフキバッタやオンブバッタが日向ぼっこをしている。また、植栽されている樹木の幹にも、ハラビロカマキリが気持ち良さそうに身体を暖めている。植木屋さんの畑へ降りて行くと、サザンカが美しく咲き、早くもボケが咲いていた。また、ナンテンの実がより一層赤味を増していた。去年、ヒラタケが生えていたクワの大木を見に行くと、今年もかなり発生していたが、昨日の木枯らしのためか生気を逸していた。
 午後からは前述した極秘の場所のリンドウを見に行った。ご多分に漏れずにその数は年々減っているが、それでも数株見られ、まことに貴重な場所である。しかし、絵になるようには咲いてなく、来週あたりの方が良さそうであったが、そろそろリンドウを紹介しなくてはと思い撮影した。また、来週、情緒溢れるものがあったら、再度アップしようと思う。その後、今日は行くのをよそうかなと思っていた五反田谷戸へ行った。棚田の畦に咲くノハラアザミを撮っていたら、その横の細い木になんとオニヤンマが止まっているのを発見して驚いた。本当に今年は暖かいのだ。最後にキノコはないかいと神明谷戸へ向ったが、ニガクリタケの幼菌が切り株に爆生していた。みると何とはなしにエノキタケにも見えるので、ほんの少し舌で味わって見ると苦い味がした。もちろんその後、中毒してはいけないので、お行儀悪くたっぷりと唾を吐いた。この他、スズメウリの実が信じられない位にたくさん垂れ下がっていたが、カラスウリのように赤く色づいている訳ではない白色に変わった実は、やっぱり風情に欠けるなと思いながらも撮影した。

<今日観察出来たもの>花/リンドウ(写真上右)、リュウノウギク、コウヤボウキ、ヤクシソウ、シュウメイギク、イヌタデ、ノハラアザミ、セイタカアワダチソウ、シロヨメナ、ノコンギク、ヨメナ、アキノキリンソウ、チャ、ボケ、サザンカ等。蝶/キチョウ、キタテハ、アカタテハ、ヒメアカタテハ、ツマグロヒョウモン、ウラギンシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、チャバネセセリ等。昆虫/オニヤンマ(写真下左)、アキアカネ、マユタテアカネ、ヤマトフキバッタ、ハネナガイナゴ、オンブバッタ等。キノコ/ウチワタケ、カニノツメ、アシボソノボリリュウタケ、ハチノスタケ(写真中左)、ニガクリタケ(写真中右)、スッポンタケ、ヒラタケ等。その他/クロヤツシロランの枯れ穂(写真下右)、カキの葉、ツタの葉(写真上左)、アオツヅラフジの実、コバノガマズミの実、マユミの実、コマユミの実、コムラサキの実、ヤブムラサキの実、ムラサキシキブの実、カラスウリの実、スズメウリの実、ナンテンの実、ヒノキの実、ヤブミョウガの実、クサギの実、ゴンズイの実等。


2005年11月5日、東京都町田市小野路町・図師町

 11月入って初めての小野路町・図師町行きである。今日は穏やかな秋晴れの日で、野の花やキノコの撮影条件としてはピーカンでそぐわないのだが、11月に入ると晴天の日が最高である。なぜなら第一に暖かい事、第二に晴天でなくてはリンドウ等の花が開かないのだ。しかし、午後の斜光は赤味を帯びコントラストがとても高くなるから、午前中の勝負となる。そこで今日はいつもより少し早起きして、途中でカメラ用のリックサックに、菓子パンやお茶やコーヒー等を詰め込んで、五反田谷戸中心で夕方まで車に戻って来ないつもりで出かけた。
 まず始めにいつもの習性で、雑木林の裾の日陰の小道に足を踏み入れた。もちろん昆虫の姿はまるでなく、しかし、クサギの実がとても美しかった。今日の散策ではクサギの実を各所でたくさん観察したが、寒くなって来た為か色づきがとても鮮やかで、しかも、しっとりしているように感じられた。やはり季節は晩秋に入ったのである。今日も万松寺谷戸へ入る前に、探しておいたスッポンタケの卵を見に行ったが、残念な事に人間に悪戯されたのか、あるいは自然現象でそうなったのか、斜面をころころ落ちて道路の縁まで転がっていた。これではもうスッポンタケは生えて来ないに違いない。そこですぐにUターンをして万松寺谷戸へ入ったが、こんなに穏やかな晴天だと言うのに昆虫の姿があまり見当たらない。少し早めに来た為に、まだ気温が上がっていなくて、活動の為の体温も上昇していないの違いない。田んぼの畦に咲くヨメナは、まだ花弁に朝露がかなり残っていた。そこで前回来た時にジャコウアゲハの終齢幼虫が幹を登って行ったので、もしや蛹になっているのではと探したら、各所に独特の格好の蛹がついていた。多分、去年も一昨年も、また各所で書いていると思うが、このジャコウアゲハの蛹は、その格好からお菊虫と呼ばれている。番町皿屋敷に出てくるお菊さんが縄で括りつけられている姿に似ている為だ。ジャコウアゲハの蛹をしげしげと観察すると、確かに日本髪を結い、かんざしを挿し、口紅までつけているのである。また、帯蛹と言って細いクモの糸のようなもので、これまた幹に括りつけられているのである。誰がこんな事を言い始めたのかは分らないが、しかし、想像力豊かでユーモアの溢れる方であったに違いない。もっとも、こんな事を書いている私は、番町皿屋敷なる物語を読んだ事はない。たしか幽霊の話ではなかったかと思うが、何しろコンニャク、ヘビ、幽霊は大の苦手なのである。
 その後、いつものようにキノコ山に登ったが、キノコの姿はまったく無く、久しぶりに神明谷戸へ降りて行った。谷戸では図師小野路歴史環境保全管理組合の方々が、脱穀をしていた。農家の方々が組員だから、その脱穀の手際良さには驚くばかりであった。まったく絵になる農作業という訳である。お邪魔してはなんだからと小川沿いの農道を降りて行くと、傍らにアオツヅラフジ、エビズル、ムラサキシキブ、ヤブムラサキ等の実がたくさん見られた。先日、寺家ふるさと村へ帰りがけ寄ったら、植物に詳しいK爺さんとHドクターがいて、「寺家にはムラサキシキブはわんさかあるのに、ヤブムラサキがまったくない」等と話していたのを思い出して、両方をしっかり撮ろうと思い至った。なにしろ有り難いことに、両種が隣りあって生えているのである。写真を見れば分るように、ヤブムラサキはやや実が大きく、へたに毛が生えていて、しかも実のつきが悪くまばらである。
 思わぬヤブムラサキとムラサキシキブの実が撮れた為に、カメラの中がようやく賑やかになった。そこで途中、キノコの穴場を通って、今日の本命場所たる五反田谷戸へ行った。キノコの穴場はやはりキノコ無し穴場であった。五反田谷戸の芝地に腰を降ろして菓子パンをぱくついていると、棚田を挟んだ向こうの斜面に可愛い子ちゃん主婦のKさんを発見した。Kさんは自然が大好き、写真が大好き、しかも良く知っていて写真の腕もとても良い方なのだ。「リンドウが咲いているけど、みんな大株で風情がないんですよ」と言う。見るとみんな首にかける花飾りのように、とっても丈が長くなって斜面からずぶりと垂れ下がっている。「花はたくさんついているけど本当に風情がないね」と同意する。これでは南国ハワイのレイのようだ。リンドウは枯れ始めた野にひっそりと咲いてこそリンドウなのである。銀座や六本木の夜の熟女ではなく、リンゴのような頬の信州松本の純情可憐な少女なのである。そんな訳で、午後からはKさんと一緒に散策しながら、ひっそりと咲くリンドウを見に行った。途中、シグマ24oでの広角接写の醍醐味をファインダー越しに見せてあげたら、「背景が広く入って素晴らしいですね。マクロレンズで切り取る写真はもうそろそろ卒業して、こんな写真を撮りたい!」と言う事になった。もうすぐボーナスが支給される事だろうから、貰ったらすぐにヨドバシカメラに飛んで行くに違いない。Kさんの作風も来年から大幅に変わるに違いない。ボーナスの無い自営業の私は、来年からの作風をどうすりゃ良いのと考えるが、その答えは来年のこのHPで分るに違いない。

<今日観察出来たもの>花/リンドウ、リュウノウギク、コウヤボウキ、ヤクシソウ、シュウメイギク、キンミズヒキ、ミゾソバ、イヌタデ、ノハラアザミ、セイタカアワダチソウ、シロヨメナ、ノコンギク、ヨメナ(写真中左)、シラヤマギク、アキノキリンソウ、チャ等。蝶/ジャコウアゲハの蛹(写真上左)、モンシロチョウ、キチョウ、キタテハ、ヒメアカタテハ、ツマグロヒョウモン、ウラギンシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、ウラナミシジミ、イチモンジセセリ等。昆虫/オニヤンマ、アキアカネ、センチコガネ、クルマバッタ、ハネナガイナゴ、オンブバッタ、ヒシバッタ、ハネナガヒシバッタ等。キノコ/種名不明(写真上右)、ウチワタケ、カニノツメ、アシボソノボリリュウタケ、ヒラタケ等。その他/アオサギ、センボンヤリの綿毛(写真中右)、アオツヅラフジの実、オトコヨウゾメの実、コバノガマズミの実、マユミの実、コマユミの実、コムラサキの実、ヤブムラサキの実(写真下左)、ムラサキシキブの実(写真下右)、カラスウリの実、スズメウリの実、ナンテンの実、モッコクの実、ヒノキの実、ヤブミョウガの実、クサギの実等。