多摩丘陵

小野路図師紀行
(第4集)



2005年 1月2月 3月4月 5月6月 7月8月 9月10月 11月12月



2005年8月28日、東京都町田市小野路町・図師町

 今日はとっても涼しい曇り日で、風もなく久しぶりの散策日和、撮影日和である。いつものように雑木林の日陰になる場所を、ニリンソウの谷戸奥に向かって歩いて行くと、キクイモの鮮やかな黄色の花が出迎えてくれた。下草としてはキツネノマゴが至る所に咲き、ツユクサも今が盛りだ。時折、純白のゲンノショウコが顔を見せる。蝶ではことにヒメウラナミジャノメとキマダラセセリがたくさんいた。ヒメウラナミジャノメはもっとも普通種のジャノメチョウだが、意外と撮影が難しく、羽化したてのものが多くておとなしくしているので、これはチャンスとばかりに撮影した。また、秋に出るキマダラセセリは梅雨の頃のものと異なって、一回り身体が小さくてとても可愛らしい。葉上にはこれといった昆虫はいなかったが、スケバハゴロモ、アオバハゴロモ、ベッコウハゴロモが、佃煮にするほどオオブタクサの茎に湧いていた。また、ササキリがもう成虫になっていて、とても長い触角をぴんと伸ばして止っている。一ヶ月前に可愛らしい顔をして鎮座していた黒褐色の幼虫が、早々とすっかり大人になったのである。昆虫も赤ちゃんや子供の方が可愛らしいのは人間と同じだ。谷戸奥には今日もお爺ちゃんが野良仕事をしていて、「やっと秋になったな」と言う。お爺ちゃんがそう言うのだから長かった炎熱地獄の夏もようやく終わり、秋がやって来たのだ。なぜならお爺ちゃんは毎日必ずやって来ているのだし、地元で暮らしているのだから、「やっと秋になったな」と言う言葉には真実味が溢れている。
 雑木林の小道を登って行くと小枝が散乱し、時折、木が倒れていて道を塞ぎ台風11号が過ぎ去った後の爪痕が各所に見られたが、これと言った被害は無かったようである。ただクリ畑では毬がたくさん落ちていて、もう茶褐色の実が覗いていた。丘の上の畑に到着すると、アズキ畑には南からの秋の使者であるウラナミシジミがたくさん飛び、傍らに植えられたケイトウにはキタテハが、ニラの花にはツマグロヒョウモンの雌が吸蜜していた。それでもいつもの夏の自然観察の習性がまだ残っていて、若いクヌギやコナラがたくさん生えている場所に来ると、樹液になにかいないかと潜り込んだ。すると薮蚊がわんさか襲って来る。薮蚊はフィールドきってのお邪魔虫だが、ことに秋は蚊取り線香の煙をかいくぐって襲ってくるから嫌になる。樹液にはとっても小さなクワガタがいて、コクワガタだろうと手に取ってみると、上羽にスジが入り大顎の突起も異なっていて、どうやらスジクワガタのようである。もうすぐクワガタ類も姿を消して見られなくなると思うといとおしく、幹に止らせて丁寧に撮影した。更に美しい雑木林へ足を伸ばすと、オニベニシタバやカブトムシの雌、各種カナブンやジャノメチョウ等が見られ、クサハツがたくさん地面から顔を出していた。また、途中の農道脇にブルーベーリーの木が一本植栽されているが、その実はますます青黒くなってとっても美味しそうである。なんで摘み取らないのだろうと不思議に思い、「とっても甘くて美味しいのにな」と思い手が出そうになったが、「花虫とおる、ブルーベリーを盗んで逮捕」なんて事になりかねないので、口中に湧いて来た唾を飲み込んだ。
 午後からは久しぶりにキノコ尾根を下って五反田谷戸、神明谷戸、キノコ山と回ったが、これと言ったキノコも期待したミズオオバコ等の野の花もハンミョウ等の昆虫にも出会えなかった。夏の暑さの為に夏眠していたメスグロヒョウモンの雄が飛び出し、棚田に沿った小道を歩くとハネナガイナゴ、クルマバッタ、ショウリョウバッタが盛んに飛び出して逃げ惑っていた。これではこんなに素晴らしい散策日和というのに、とっても貧果かなと思いながらキノコ山から万松寺谷戸に下りて来ると、まだ美しい時期外れのアカスジキンカメムシやヒメアカネ、それはそれは大きなコガネグモが出迎えてくれた。山裾にあるオニグルミの実はちきれんばかりに真ん丸に成長して食べ頃となり、栗林の中をすでに破損しいるがジャコウアゲハが、たおやかに飛んでいた。小野路町、図師町も、これから週を追う毎に秋が深まって行くことだろう。

<今日観察出来たもの>花/キクイモ(写真上左)、ゲンノショウコ、ミズヒキ、キンミズヒキ、ガガイモ、キツネノマゴ、カラスウリ、ヘクソカズラ、ミソハギ、アキノタムラソウ、ツユクサ、ヤブカラシ、ヤブミョウガ、ヤマホトトギス、シュウカイドウ、ニラ、モミジアオイ等。蝶/アオスジアゲハ、クロアゲハ、ジャコウアゲハ、キアゲハ、キタテハ、ツマグロヒョウモン、メスグロヒョウモン、イチモンジチョウ、コミスジ、ジャノメチョウ、ヒカゲチョウ、クロヒカゲ、ヒメウラナミジャノメ(写真中右)、サトキマダラヒカゲ、コジャノメ、ウラナミシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、イチモンジセセリ、キマダラセセリ等。昆虫/オニベニシタバ、オニヤンマ、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ、ウスバキトンボ、マユタテアカネ、ヒメアカネ、ヤブキリ、ササキリ(写真下左)、ミヤマフキバッタ、カブトムシ、カナブン、クロカナブン、シロテンハナムグリ、スジクワガタ(写真中左)、アブラゼミ、アカスジキンカメムシ(写真下右)、スケバハゴロモ、ベッコウハゴロモ、アオバハゴロモ等。キノコ/コガネヤマドリ、カワリハツ、クサハツ、シロテングタケモドキ等。その他/ヤマカガシ、クリの実、コガネグモ(写真上右)等。


2005年8月21日、東京都町田市小野路町

 10日間も夏休みを嬬恋村で過ごしたので、なんと20日ぶりの小野路町である。愛車「小野路号」もさぞかし来たかった事だろう。今日は昨日よりも更に風が強く、写真撮影の三重苦である「高温」・「ピーカン」・「強風」に見舞われた。もっとも風が強いから熱中症には罹らなかったが、腰にぶら下げた蚊取り線香はいつもより45分程早く燃え尽きた。風の為に花は揺れるし、葉上には昆虫はいないし、クヌギやコナラ等の樹液も出ていなから、今日はまったくのお手上げで帰りたくなった。しかし、昨日、「こんな三重苦の日で、しかも身近なフィールドでも、その気になりさえすれば写真が撮れる事が分った」等と生意気な事を言ってしまったので、自然度の高い小野路町なら尚更撮れると証明せねばならぬと頑張った。
 小野路町に到着すると、いつものように雑木林の日陰になる場所を丹念に探したが、見つかったのはヤブキリ、ミヤマフキバツタ、ベッコウハゴロモ、アオバハゴロモ、アミガサハゴロモ位で、花ではキクイモが鮮やかに咲き、ゲンノショウコも咲き出していた。また、ヤブミョウガは早くも青黒い実をつけているものさえ見受けられた。この前、舞岡公園へ行った時に同好のご婦人が、すっかり成長したヤブキリを見て、「あんなに小さかったのにね」と言っていたが、まこと春の可愛らしい姿を知っている方には、「よく頑張ったね」と声をかけてあげたくなるような感動が湧いて来る事だろう。そんな感動を今日も持ったが、この小野路図師紀行を飾る写真にはもう一歩で、また強風の為に撮影も思うように行かない。これでは今日はとんでもなく写真撮影に苦労するぞと鳴きたくなった。そんな訳で畑の作物の花でも撮っておこうと思い、万松寺前の畑に行ってみると、早くもニラの花が咲いているのには驚いた。このニラの花に多数のイチモンジセセリやヒメアカタテハが吸蜜に群がれば、秋本番なのである。また、前回来た時に満開に咲いていたゴマの花は、僅かに先端部分に咲き残っているだけだった。そんな訳でなんとかニラの花を撮ろうと、付近にあった棒切れを拾って来て支柱とし揺れを防いだが、それでもかなりの時間風が止むのを待たなければならなかった。こんなに風が強いと雑木林のクヌギやコナラ等の樹液に集まる昆虫や幹に止る昆虫を撮影するしかないなと思い美しい雑木林に行ったが、撮影出来たのはヒクラシとツクツクボウシで、僅かに滴る樹液にはコクワガタの雄とサトキマダラヒカゲとカナブンがいただけだった。しかし、樹液は出ていないがルリタテハが幹に止っていたので、これを撮るしかないなと羽を開くまでじっと我慢して撮影した。
 このように午前中はさんざんな結果で、午後も期待出来そうもなかったが、万松寺谷戸からTさん宅経由でキノコ山へ行き、万松寺谷戸に降りて来るというコースを歩いてみることにした。カラスの捕獲小屋の後ろの竹林の日陰に行ったら、風も少し弱くなってとっても涼しい。花ではアキノタムラソウやヤマホトトギスが咲き、蝶ではコミスジやヒメキマダラセセリが見られ、すっかり赤くなったマユタテアカネも見られた。ここでなんとか午前中の貧果を挽回し、雑木林の小道を登って行くと、茶褐色のイボイボを傘にたくさんつけたキノコを発見した。今まで撮影した事の無いキノコで嬉しくなった。更に登って行くと、Tさん宅前でオニヤンマが行ったり来たりしている。「今日は撮るものが少ないから何処かに止ってね」と心の中で手を合わせると、生垣の支柱に止ってくれた。どうもオニヤンマとは意思が通じ合うようである。
 図師小野路歴史環境管理組合の事務所へ行くと、M大の学生さんが野生動物の調査に来ていた。聞くところによると夜間撮影用のカメラを設置していて、多くの動物を撮影出来たと言う。「本当、キツネはいましたか」と聞くと、学生さんの顔は「よくぞ聞いてくれました」と笑顔になって、ザックからキツネの姿が写った写真を見せてくれた。やっぱり小野路町にはまだキツネが生息していたのである。「キツネが撮れた時は嬉しかったでしょう」と聞くと、「最高でしたね」との答えが返って来た。この他、これも稀少なアナグマや中国からの侵入者である困り者のハクビシンやノウサギも見せて貰った。「キノコは生えている」と聞くと、「生えてますよ」と言うのでキノコ尾根に少し足を踏み入れて見ると、コテングタケモドキ、シロオニタケ、コガネヤマドリが生えていた。昨日行った港北ニュータウンの公園はキノコがまるで見られなかったが、こんなに雨が降らずに高温でもさすが小野路、自然度が異なるんだなと認識するに至った。こんな事なら一日中、キノコ探索でもすれば良かったと思った。本当に今日はギブアップかと思われたが、終わって見ればまずまずの成果となった。愛車「小野路号」も故郷の日陰で休息して快調となり、久しぶりの小野路町を後にした。

<今日観察出来たもの>花/ゲンノショウコ、ミズヒキ、ヘクソカズラ、ハエドクソウ、ミソハギ、アキノタムラソウ、ツユクサ、ヤブカラシ、ヤブミョウガ、ヤマホトトギス、シュウカイドウ、ニラ(写真上右)等。蝶/カラスアゲハ、クロアゲハ、ジャコウアゲハ、ルリタテハ(写真中左)、イチモンジチョウ、コミスジ、ジャノメチョウ、ヒカゲチョウ、ヒメウラナミジャノメ、サトキマダラヒカゲ、イチモンジセセリ、ヒメキマダラセセリ等。昆虫/コシロシタバ、オニヤンマ(写真上左)、ギンヤンマ、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ、ウスバキトンボ、マユタテアカネ、ヒグラシ(写真中右)、アブラゼミ、ツクツクボウシ、ヤブキリ、ミヤマフキバッタ、カナブン、コクワガタ、スケバハゴロモ、ベッコウハゴロモ、アミガサハゴロモ、アオバハゴロモ、アオメアブ等。キノコ/コガネヤマドリ、キクバナイグチ(写真下左)、ミドリニガイグチ(写真下右)、シロオニタケ、コテングタケモドキ等。


2005年8月1日、東京都町田市小野路町・図師町

 いよいよ8月に入った。何処かで書いたように6日から恒例の群馬県嬬恋村長期滞在夏休みに入るので、多摩丘陵等の平地の里山とはしばしのお別れである。また、この小野路図師紀行は8月は2回と減らして予定しているので、夏休み前に一回は消化せねばならないと出かけてみた。天気予報では曇り日とあったが、相変わらずの予想外れで太陽が眩しく輝いている。まるで日本の里山の夏とはこんなものですよと言わんがばかりだ。蓮田にはピンクの花が相変わらず咲き、その周りにはミソハギが美しく群落をつくって咲いている。褐色に色づいたガマの穂がぽつんと一本立っていて、とても印象的である。雑木林の梢からは、チーとニイニイゼミの鳴き声が聞こえて来る。地面に差し込まれた竹の棒の先には、オオシオカラトンボ、シオカラトンボ、ショウジョウトンボが止っている。これにプラスして細流沿いにオニヤンマが行ったり来たりしていれば、尚更、情緒が溢れるのだが今日はまだ見られない。畑にはニガウリの黄色い花が咲き誇っているが、なんとゴマの花がたくさん咲いているのには驚いた。また、カボチヤの蔓は延び放題で、雑草の間を縫うように伸びている。もちろんその実も丸々と太っている事は言うまでもなかろう。。草原に立つと草いきれがむっとして耐えられない程だ。
 やっぱりこんな天気の日は雑木林の日陰の下草にと、毎度御馴染みの雑木林の縁へ行った。今年はベツコウハゴロモの幼虫がたくさん見られたが、それらがほとんど成虫になって葉上や細い茎に止っている。もちろん幼虫が尾端につけていた綿毛が至る所に寂しげに残っている。いつもなら個体数の少ないアミガサハゴロモも今年はたくさん見られ、最も美しい羽がミンミンゼミのように透明なスケバハゴロモも大発生している。どうやは今年は三角翼のハゴロモの仲間の天国のようだ。こんなにたくさんいると撮影は容易く、すぐに3種類をカメラの中に納める事が出来た。他に何か変わったものはいないかと眼を光らせると、たくさんいるアマガエルの子供に混じって、やや体色の薄い幅広のカエルがじっと静止している。シュレーゲルアオガエルの子供のようだ。この他、コミスジ、ヒメキマダラセセリが見られ、飛びっぱなしでなかなか止らないゴイシシジミも見られた。いつもならすぐに止ってかなり長い時間静止しているのだが、気温が高いためか止ってもすぐに飛び立ってしまう。
 こんな調子で今日も期待出来そうもないので、逆戻りして民家に咲いているシュウカイドウを撮影して美しい雑木林へ行った。しかし、相変わらず樹液の出は今一で、期待したスミナガシ、ゴマダラチョウはもとより、これといった生き物の気配は感じられない。もちろん野の花やあれ程まで生えていたキノコも皆無となっている。ただ、ニイニイゼミがヤマザクラの幹でたくさん鳴いている筈だが、広い雑木林の中にその鳴き声が吸い込まれてしまうようである。雑木林の中に入って行くとヒグラシがチッと鳴いてたくさん飛び立ち、頬に心地よいかなり強い風が身体を包んで涼しくしてくれる。多摩丘陵と言えども風がある日の木陰はとても涼しいのである。それに比べ隣接するお爺ちゃんの耕す丘の上の畑に行ってみると、ここは炎熱地獄で、畑に挿したアズマネザサの枯れた棒に、ウスバキトンボとアオメアブが一緒に止っていて苦笑した。相変わらずアオメアブの複眼は宝石のようにとっても美しい。
 午後からは森のきのこさんに教えてもらった樹液したたるコナラの木を見がてら、久しぶりに五反田谷戸、神明谷戸に行って見ることにした。期待していたコナラにはクロカナブンがいた位で何も見られなかった。五反田谷戸へ降りて行くと、あたり一面にヤマユリが満開だったが、陽を遮るものが無い南に面した谷戸だから、むっとした熱気に包まれていた。やはりヤマユリも曇り日に見た方が情緒がある。それでもヤマザクラの木陰は涼しく、赤味を帯びて来たマユタテアカネやヒメアカネがアズマネザサの葉等に止っていた。神明谷戸へ行ってみると小川沿いのオニヤンマは期待したが見られず、かわって溜池にクロスジギンヤンマとウチワヤンマの一種が見られた。水面の棒杭の上には、たっぷりと太ったトウキョウダルマガエルが鎮座していて、微笑を浮かべさせてくれた。ここでも涼しいヤマザクラの木陰で一休みして車まで戻ったが、途中、今年初めて小野路町にてオオムラサキを2頭も目撃した。もちろん力強く飛翔している所で、写真は撮れなかったが今日一番の収穫となった。

<今日観察出来たもの>花/ミヤコグサ、ヤマユリ、オオバギボウシ、コマツナギ、ソクズ、ヘクソカズラ、ハエドクソウ、ミソハギ、アキノタムラソウ、ツユクサ、、ヤブカラシ、ヤブミョウガ、ヤマホトトギス、ハス、ダリア、ヒマワリ、ルドベキヤ、ヒャクニチソウ、シュウカイドウ(写真上左)等。蝶/オオムラサキ、キタテハ、ルリタテハ、メスグロヒョウモン、コミスジ(写真下左)、ジャノメチョウ、クロヒカゲ、ヒカゲチョウ、ヒメウラナミジャノメ、ゴイシシジミ、ダイミョウセセリ、コチャバネセセリ、ヒメキマダラセセリ(写真下右)等。昆虫/コシロシタバ、クロスジギンヤンマ、コシアキトンボ、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ、ショウジョウトンボ、コノシメトンボ、ヒメアカネ(写真中右)、マユタテアカネ、ヒグラシ、ニイニイゼミ、アブラゼミ、ヤブキリ、ヒメクロオトシブミ、クロカナブン、カナブン、キマワリ、カブトムシ、スケバハゴロモ(写真中左)、ベッコウハゴロモ、アミガサハゴロモ、アオメアブ、ナガメの幼虫、ササキリの幼虫等。キノコ/コガネヤマドリ、コトヒラシロテングタケ等。その他/シュレーゲルアオガエル(写真上右)、アマガエル、トウキョウダルマガエル等。


2005年7月24日、東京都町田市小野路町

 昨日の関東地方を襲った地震は、東京都足立区で震度5強を観測し、我が家のある横浜市港北区でも震度5弱を観測した。幸いなことに私は町田市で車に乗っていたので、その恐怖を味わう事はほとんど無かったが、家族のものは大変怖かったとの事であった。被害はまったく無かったが、3階のガスは安全装置が作動して、解除のボタンを押さなければならなかった。そんな訳で恐怖体験をすり抜けたためか、昨晩はぐっすり眠れて、今日も涼しい曇り日と勇んで起床し、車に乗ったのだが無常にも雨が降って来た。しかし、小野路町方面の空はとても明るい。それにしても気象庁は関東地方の梅雨明け宣言を早く出し過ぎたのではなかろうか。全国の天気予報を見ると、やはり富士山より西は快晴で気温が高く、東は曇りないし雨の状況が続いている。そんな事を一人ごちながら、どうせ止むだろうと引き返す気にはなれなかった。
 小野路町に到着しても小雨がぱらついている。そこで車の中に敷いた布団に横になって雨が完全に止むのを待ち、いつもより30分遅れで散策を開始した。昨日の小野路町の隣町である小山田緑地に於いても、たいしたものには出会えなかったので、今日は見つけたら何でも撮影と雑木林の縁の小道に急いだ。途中、民家の庭先にシュウカイドウが鮮やかなピンクの花をつけて咲いているのには驚いた。確かに早いもので、もう一ヶ月もすれば秋なのである。有り難い事に雑木林の縁の各種の下草の葉上には雨が降りておらず、涼しい事もあってか、前回来た時より昆虫の数が多い。ヒメクロオトシブミ、カシルリオトシブミ、アカガネサルハムシ等の初夏に見られた昆虫達も鎮座していた。しかし、なんと言っても鬼の顔をしたウシカメムシの幼虫がいて嬉しくなった。カメムシは成虫はもとより幼虫も様々な装いをしていて、動物や人間の顔に似た紋様を持つものもいる。そんな中で図鑑を見て是非出会いたいものだと思っていたウシカメムシの幼虫がいたのだからたまらない。慎重に様々な角度から撮影したことは言うまでもない。お次はササキリの幼虫の顔を真正面から撮りたいと思った。なにしろ昨晩このHPの掲示板に素晴らしい写真が送られて来たのである。是非、表紙写真に使いたいなと思う程の可愛らしさと出来で、「今畜生、負けてたまるか」と思った訳なのである。しかし、ササキリの幼虫はかなりいるものの、みんなお尻を向けていたり横に向いていたりして、真正面から撮影出来るものに出会えない。植物の葉でお尻を刺激してもこちらは向いてくれずに逃げ去ってしまう。それでも「負けてたまるか」と活を入れ頑張ったら、細い茎に上を向いて止っているものを見つけた。急に猫撫ぜ声になって、「ササキリちゃん、ほんの少しの間じっとしていてね」と声をかけてシャッターを切った。まずまずの出来だろうと液晶ディスプレイで確認すると、片目にアイキャッチの光が入っていない。これでは駄目だとまた撮影しようと探したら、ササキリちゃんは何処かに消えていた。その後また粉か雨が降って来たが、ここだけは天然の雨傘たる雑木林の梢に頭上を覆われていて雨が落ちて来ない。そこでこのまま雨が本降りになるのではないかなとの危惧もあったので、様々なものを見つけたら即撮影と頑張った。
 午後からは雨が止んで、美しい雑木林、Tさん宅、キノコ山、万松寺谷戸とのお決まりの半日コースを歩いた。何でも絵になるものを見つけたら即撮影しているようだが、理想的には花が二つ、実が一つ、キノコが一つ、蝶が二つ、その他の昆虫が二つと常日頃心がけているのだ。そんな訳でお爺ちゃんの丘の上の畑で、トマトの花とやっといくらか色づいて来たブルーベリーの実を撮った。相変わらず美しい雑木林は樹液の出が悪く、林床にオオバギボウシが咲いてる位であった。その後、あまりこれといったものに出会えなかったが、キノコ山に登ると、ふっくらとした可愛らしいコガネヤマドリの幼菌が生えていた。これでほぼ上記の目標をクリアーして万松寺谷戸に降りて来て、ミソハギに吸蜜に来たモンキチョウとか、池を旋回するギンヤンマとかを狙ったが、そう容易い被写体ではなかった。もっと午前中の気力体力のある時に狙わねばならない被写体で、「負けてたまるか」と活を入れて対峙しなければ駄目だと思った。

<今日観察出来たもの>花/ヤマユリ、オオバギボウシ、コマツナギ、ヤブカンゾウ、ソクズ、ヘクソカズラ、ハエドクソウ、ミソハギ、アキノタムラソウ、オカトラノオ、ツユクサ、アカツメクサ、シロツメクサ、ヤブカラシ、ヤブミョウガ、ヨウシュヤマゴボウ、トマト(写真上左)、ハス、ダリア、ヒマワリ、ルドベキヤ、ヒャクニチソウ、シュウカイドウ等。蝶/アオスジアゲハ、キアゲハ、ジャノメチョウ、クロヒカゲ、ヒメウラナミジャノメ、ダイミョウセセリ、イチモンジセセリ等。昆虫/コシロシタバ、ギンヤンマ、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ、ショウジョウトンボ、ヒグラシ、ニイニイゼミ、ヤブキリ、カシルリオトシブミ、ヒメクロオトシブミ、アカガネサルハムシ、カナブン、ナガゴマフカミキリ、ベッコウハゴロモ(写真中左)、アミガサハゴロモ、ハサミツノカメムシ、ウシカメムシの幼虫(写真下左)、ササキリの幼虫(写真中右)等。キノコ/タマゴタケ、コガネヤマドリ(写真下右)、カワリハツ、チチタケ、コトヒラシロテングタケ、コテングタケモドキ等。その他/ブルーベリーの実(写真上右)、ブラックベリーの実等。


2005年7月18日、東京都町田市小野路町・図師町

 今日は夕方にオオムラサキの観察に甲府盆地に向け出発する日である。以前は丹沢山麓や御殿場や城山町や相模湖等の、もう少し遠い日頃行きにくい場所で観察した後に出発したものだが、今年はこのパターンがずっと続いている。別段それらの場所で特に撮りたいと思うものが少なくなっているからでもある。今年は小山田緑地にて手ごたえあるオオムラサキの写真を手に入れたし、明日は甲府盆地で思いっきり撮影出来る筈だと思うのだが、やはり小野路町でもオオムラサキに出会いたい。その前に雑木林の木陰で様々なものを撮っておこうと考え、目を皿のようにしてゆっくり歩くのだが、これと行ったものにはなかなかお目にかかれない。今日は晴天で気温も湿度も非常に高く、日向に出る元気など到底沸いて来ない。そこで何べんとも無く試みるのだが、上手く撮れないヤブミョウガの花を真上から狙って、造形的にカメラの中に納めてみた。また、ヨウシュヤマゴボウの花が咲いていたので、全体を撮るとこれもなんら面白みはないものの、一輪一輪はとても可愛らしい花なので、クローズアップでこれまたカメラの中に納めた。
 昆虫では相変わらず綿毛を尾端につけたベッコウハゴロモの幼虫やトウキョウヒメハンミョウが葉上に多く、触覚の長いササキリの惚け顔の赤ん坊もたくさんいる。これらは以前に何処かで紹介しているので、ツユムシの仲間の幼虫を見つけて撮影した。こちらもなかなか可愛い顔をしている。ツユムシの仲間等と種名を特定せずに書いたが、小野路町にはアシグロツユムシ、ツユムシ、セスジツユムシ等の仲間が生息している筈で、成虫でもこれらの見分けはとても難しいのだから、幼虫ならなおさら難しいのではなかろうかと思われるし、ツユムシの仲間の幼虫を網羅している図鑑等はありそうも無いからだ。他に昆虫はいないかと歩いていると、トホシテントウがじっと静止して、こちらを向いて撮り易い位置の葉上にいた。もう少し顔を上げて触覚を伸ばしてくれた方が生き生きするのだが、それは無理な注文である。それでも可愛らしいトホシテントウの顔がファィンダーの中に見える。トホシテントウはとってもチビちゃんだが、その真ん丸で鮮やかな色彩も手伝って、もう少し身体が大きかったらさぞかし人気者になった筈だと毎度の事ながら感じ入る。また、トリノフンダマシ探しをだいぶ訓練しただけあって、オオトリノフンダマシを素早く見つける事が出来た。多摩丘陵では、シロオビトリノフンダマシ、トリノフンダマシ、オオトリノフンダマシと3種類見つけているが、これ以外にも魅力的なトリノフンダマシの仲間が図鑑に紹介されているので、是非とも観察したいものであると常々思っうようになった。
 かなり日陰の小道で時間をとられてしまったが、今日の観察の第一目標たるオオムラサキを探しに美しい雑木林に行ってみたが、クヌギの樹液の出が悪くなっていて、オオムラサキどころか、常連のカナブン、スズメバチ、ジャノメチョウ、クロヒカゲ等の姿も無かった。こんな調子で樹液の出の悪さが続くと、今年はカブトムシ、ノコギリクワガタの大物や、美麗なスミナガシの姿も観察出来ないのではと危惧された。しかし、地面にはチチタケ、ツチカブリ、カワリハツ、コトヒラシロテングタケ、オキナクサハツ等のキノコがたくさん生えていた。
 午後からはオオムラサキを求めてあちこち散策し、なんと五反田谷戸まで行ってしまった。ヤマユリの季節はまだ少し早く、相変わらずオオバギボウシが咲いていた。しかし、夏の晴天の午後の五反田谷戸は風情等微塵も無く、草いきれに満ちた炎熱の谷戸であった。しかし、昨年の秋に、この谷戸が好きになって遠来からやって来るご婦人たちが見つけてユキダルマタケと名付けたシロオニタケが、ほぼ去年と同じ場所にたくさん生えていた。また、途中にはコガネヤマドリも生えていたので、なんだか今年の梅雨は里山のほとんどのキノコの発生を促してしまったようである。秋になったらまた発生するのだろうかと疑問に思った。その後、キノコ尾根からキノコ山に向かい、牧場方面のクヌギの木を見回ったり、タマムシは来ていないかと丸太置き場に寄ったりしたが、全てノーサンキューとなってしまった。もっとも、これもキノコだが多摩丘陵で始めての大きなアカヤマドリを発見したが、とんでもなく足場が悪い所に生えていたため、ぐっと流れる涙を押し戻した。今日はとんでもなく貧果の一日となってしまったが、明日はきっと多数のオオムラサキに囲まれる筈だと気を取り直し、安全運転のために昼寝をした後、甲府盆地に向かって出発した。

<今日観察出来たもの>花/ヤマユリ、オオバギボウシ、オトギリソウ、コマツナギ、ヤブカンゾウ、ソクズ、ヘクソカズラ、ハエドクソウ、ミソハギ、アキノタムラソウ、オカトラノオ、ツユクサ、アカツメクサ、ヤブカラシ、ヤブミョウガ(写真上右)、ヨウシュヤマゴボウ(写真上左)、ハス、ダリア、ヒャクニチソウ等。蝶/アゲハ、クロアゲハ、メスグロヒョウモン、ムラサキシジミ、ジャノメチョウ、クロヒカゲ、ダイミョウセセリ等。昆虫/コシロシタバ、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ、ショウジョウトンボ、ヒグラシ、ニイニイゼミ、ヤブキリ、トウキョウヒメハンミョウ、カナブン、トホシテントウ(写真中右)、ベッコウハゴロモの幼虫、ササキリの幼虫、ツユムシの仲間の幼虫等。鳥/キジ、ガビチョウ等。キノコ/タマゴタケ(写真下左)、シロオニタケ、カワリハツ、コガネヤマドリ、アカヤマドリ、オキナクサハツ、チチタケ、コトヒラシロテングタケ、コテングタケモドキ、キヒダタケ、種名不明(写真下右)等。その他/オオトリノフンダマシ(写真中左)等。


2005年7月9日、東京都町田市小野路町

 国蝶オオムラサキ月間に入ったので期待して小野路町へ行った。しかし、気温が低くどんよりと曇っていたので、まだオオムラサキは活動を開始していないと思って、まずは万松寺谷戸に行ってみた。谷戸入口にある浅い池のハスは早くも咲き出していて、その周りのミソハギも花をつけていた。しかし、生憎の天候のためか、いつも見られるオオシオカラトンボ等の姿は無い。谷戸は草刈がなされていて、これといった昆虫はいなかったが、トノサマバッタが農道でうろうろしていたり、僅かに残った湿地のイネ科の植物に、ナガコガネグモの幼体がかくれ帯をともなった可愛らしい巣を張っていた。谷戸の一番奥は欝蒼としたモウソウタケの竹林になっているので、もしや憧れのキヌガサタケが生えているかもしれないと行ってみたが、キノコの姿はなにもなかった。全般的に小野路町の竹林はキノコの発生が少ないようである。
 そこでもうお出ましになってもおかしくないと美しい雑木林に急いだが、オオムラサキは一頭だにクヌギの樹液には来ていなかった。樹液に来ているものと言ったらオオスズメバチ、コガタスズメバチ、クロヒカゲ位で、煩いくらいにたくさん集まっている筈のカナブンも少なかった。やはりこの天候では、オオムラサキも活動を停止しているようである。しからばと雑木林の中にぽかりと空いた草原に行って見たが、ジャノメチョウが見られるくらいで、その他の蝶の姿はまったく見られなかった。と言う事は、やはり昨日より確実に気温は低くなっていて、どんよりと曇っているという証拠のようだ。しかし、散策にはちょうど良い気温で風もほとんどないから撮影もいたって楽。そこで昼食を早くすませて、午後からはその他に絞って散策しようと車に戻った。途中、ニリンソウの谷を耕すお爺ちゃんに出会ったので、「向こうにあるモウソウチクの竹林にキノコは生えていない」と尋ねると、「生えていないな、でも行ってみな」と言うので、お爺ちゃんの田んぼの畦を通らせてもらって行ってみたが、やはり何も生えていなかった。戻って来て、「お爺ちゃんも山に生えるキノコを食べるの」と聞くと、「キノコに当たったらあの世へ行かなくとも死ぬ苦しみを味わうから、ササコ等の本当に分るものしか食べないよ。キノコは菌を植え付けて出たシイタケが一番さ」と言う。ササコとはどんなキノコかは分らないが、臆病者でキノコに関しては超初心者の私には、やはり菌を植え付けて出たシイタケが一番のようであるなと一人ごちた。お腹を壊すのは、先だってのピーナッツの食べすぎでもうこりごりなのだ。
 午後からはもちろんもう一度オオムラサキが来ていないかと美しい雑木林に出向いたが、状況の変化はなかった。しかし、じゅっくりと地面を見ながら歩き回っていると、濃いオレンジ色のチチタケがたくさん生えていた。また、オオバノトンボソウというかなり珍しい野生ランも見つける事が出来た。美しい雑木林を後にしてTさん宅まで行ったが、去年、オオムラサキの美しい写真を手に入れた雑木林の樹液酒場は、まったくの開店休業中のようで閑散としていた。Tさん宅からキノコ山に向かい、一週間前、可愛らしい幼菌だったシロオニタケはどうなったかと見に行くと、立派に生長して雑木林の中で真っ白く光り輝いて存在感を誇示していた。普通のキノコは地上に顔を出してからかなり短時間で生長し萎びてしまうのだが、シロオニタケは身体が頑丈なようで、その生長にも時間がかなりかかるようだ。今日こそキノコ山はその名の通りになっているのではと期待して登ると、コテングタケモドキが一族郎党を連れて爆生していた。
 そんな訳でこれまで左程の成果は無かったので、そのまま万松寺谷戸には降りないで牧場の方へ久しぶりに足を伸ばした。途中、樹液が滲み出るコナラの木に小さなカブトムシの雌を見つけたが、近づくと地面にぽとりと落ちてしまった。こんな事はカブトムシの観察では始めての事だが、きっとお腹が満腹になっていた時だったので、それ程食事に集中してはいなかったのだろう。この他、期待していた樹液がしたたるクヌギの木や丸太置き場にも寄って見たが、これといった昆虫は見られなかった。そこで丘の上の畑でナスの花とナスの葉を食べているオオニジュウヤホシテントウを撮影した。また、今まで撮りたかったスイカの花も手にすることが出来た。もちろん、もうすぐ夏だからスイカはもうかなり大きくなっているものもたくさんあった。まあ、そんな訳で午後もこれといったものにはお目にかかれなかったが、谷戸へ降りてくる小道で、なんとヤマホトトギスが咲き出しているのにはびっくりした。今日は気温が低くかったが、フィールドは確実に7月のものであった。

<今日観察出来たもの>花/ヤブカンゾウ(写真上左)、オオバノトンボソウ、アキノタムラソウ、ヒヨドリバナ、ヤマホトトギス(写真中右)、オオバギボウシ、タケニグサ、ツユクサ、ネジバナ、オカトラノオ、ホタルブクロ、ヘクソカズラ、コンフリー、ハス、ヒマワリ、ヒャクニチソウ、ナンテン、ナス(写真下左)、スイカ(写真上右)、ヘチマ等。蝶/モンシロチョウ、ジャノメチョウ、クロヒカゲ、ヤマトシジミ、ベニシジミ等。昆虫/カブトムシ、カナブン、コクワガタ、トウキョウヒメハンミョウ、マメコガネ、トホシテントウ、オオニジュウヤホシテントウ(写真下右)、ヤブキリ、トノサマバッタ、オオスズメバチ、コスズメバチ、ベッコウハゴロモの幼虫、フタボシツチカメムシの幼虫等。キノコ/ムラサキヤマドリタケ、チチタケ、ドクツルタケ、ツルタケ、ノウタケ、タマゴタケ、タマゴテングタケモドキ、コテングタケモドキ(写真中左)、カワリハツ、ドクベニタケ、シロオニタケ、ヒメカバイロタケ等。その他/アオダイショウ、アマガエル、キジ、ガビチョー、オニグルミの実、ブルーベリーの実、ブラックベリーの実等。


2005年7月3日、東京都町田市小野路町・図師町

 これまで雨がかなり降ったからキノコはだいぶ発生している事だろうが、それ以外は余り期待していなかったので、今日も見るものは何でも撮るんだという意気込みで散策を開始した。歩き始めると前方に「森のきのこ」さんと「谷戸ん坊」さんの車が止っている。きっと何処かで出会うことだろう。彼らは私と異なってかなり早くにやって来る勤勉家なのだ。私は蚊取り線香が燃え尽きるまで、すなわち持ち時間6時間という事で、散策終了はいつも午後3時から4時位と決めているので、そこから類推すれば、かなり遅くにやって来たと言う事が想像されるに違いない。蚊取り線香は蚊を寄せ付けず殺傷する効果があるのだから、昆虫全般が忌み嫌う匂いないし物質を発すると思うのだが、夏場を中心にもう17年間も使用していて、別に支障なく昆虫の写真が撮れているのだから、蚊以外の昆虫は気にしないのかもしれない。いつものように午前中は陽の射さない雑木林の縁から散策を開始した。このところ、春や初夏の頃がまるで嘘のように、ここでは貧果に泣いているが、今日は僅かにウスモンオトシブミとカシルリオトシブミが見られた。
 しかし、なんと言っても夢中にさせたのはベッコウハゴロモの幼虫である。下草の葉上や低く這うヒメコウゾの葉上に、植物の綿毛をつけた種子ないし小さな花が落下しているとしか思えないベッコウハゴロモの幼虫がたくさんいるのである。しかし、私は図鑑等で予めベッコウハゴロモの幼虫がそのような格好をしていると知っていたが、昆虫観察を始めたばかりのご婦人が、それが昆虫であると見抜いたのにはまことに驚いた。普通、誰もがタンポポの仲間の綿毛を持つ種子が葉の上に飛んで来たとしか見ないだろうからだ。ベッコウハゴロモの幼虫もそれを期待している訳で、天敵である昆虫食のクモやケムシヒキ等が、「なんじゃこれ、植物の種か」と、ぼやきながら通り過ぎるようにするための擬態なのだ。と言う事は事前知識の無いご婦人もそのように通り過ぎる筈だが、なんと恐ろしいことに見抜いてしまった方がいたのである。きっとその方は道端自然観察の達人か、小さな生き物のかすかな鼓動を感ずる事の出来る超能力者なのかもしれない。また、ベッコウハゴロモの幼虫のこの尾端に生える綿毛のようなものは、飛び立って着地する時にパラシュートのような役目をする。「今日も私は植物の綿毛よ」と言わんばかりにお尻をこちらに向けているので、「ちょっと顔をこちらに向けてよ」と指をかざすと、パチンと音がして飛び立つ場面が多々あった。もう幼虫でも擬態の他に、跳ねるように飛び立つ術も持っているのかと感心した。たしかに羽がある成虫に比べて、目で追える位の速さで他所に移動したり地面に着地するので、この綿毛による減速効果がある事は確かなようである。しかし、昆虫はどうしてこんなにまでと思うほどに様々な形態をしているが、このベッコウハゴロモの幼虫もその中の一つであろう。きっとベッコウハゴロモの夫婦が、どうしたら子供たちが捕食されないだろうかと思案して、「綿毛のスカートでもはかせてみるか」と考案した結果のように見える。「お父さんお母さん、この服装なら見つからないわよ。それに地面にふんわりと降りられて最高よ、お父さんお母さん、ありがとう」等と感謝の声が聞こえて来そうだ。このベッコウハゴロモの幼虫の姿を見て、「我々人間だって、その内、渇望すればまだまだ進化の可能性はあるわな」と一人ごちた。また、体調が悪い体調が悪いなんて愚痴らないで、元気になって楽しい道端自然観察及び写真撮影がしたいなと渇望すれば、体調は必ず回復するに違いない。
 ベッコウハゴロモの幼虫の話がだいぶ長くなってしまったが、小野路町、図師町の雑木林でも真っ赤なタマゴタケやユキダルマタケと名付けたご婦人がいたシロオニタケや、ドクツルタケ、タマゴテングタケモドキ、ツルタケ、コテングタケモドキと言った大物のキノコが各所で見られた。やっとキノコ山もキノコ尾根もそれらしき様相を呈して来たが、まだまだ例年に比べ、また秋に比べてキノコの爆生とは言い難いようである。この他、昆虫では例年通りトウキョウヒメハンミョウが発生していた。このハンミョウは民家の庭にもいる位だから全国普通種と思っていたが、なんと沖縄を除いて首都圏と北九州と山口県の一部にしか分布していないそうである。ことによったら横浜港と門司港あたりにひそかに密入国して、広がっているのかもしれないと想像をたくましくした。今度、小野路に来る時はオオムラサキを始め、もっともっと夏の昆虫達で一杯になるだろうと期待して、蚊取り線香が燃え尽きたので帰宅する事となった。

<今日観察出来たもの>花/カセンソウ、オオバギボウシ、ミヤコグサ、コマツナギ、ウツボグサ、ノアザミ、タケニグサ、チダケサシ、ツユクサ、ネジバナ、ドクダミ、ホタルブクロ、ヒマワリ、ヒャクニチソウ(写真上左)等。蝶/アゲハ、モンシロチョウ、キチョウ、ジャノメチョウ、ヒカゲチョウ、ミズイロオナガシジミ、ウラナミアカシジミ、ヤマトシジミ、ツバメシジミ、ベニシジミ(写真上右)、ムラサキシジミ等。昆虫/トウキョウヒメハンミョウ、マメコガネ、セマダラコガネ、ウスモンオトシブミ、ヒメヒゲナガカミキリ、ベニカミキリ、テントウムシ、トホシテントウ、オオニジュウヤホシテントウ、ムーアシラホシテントウ、ジンガサハムシ、ヒメカメノコハムシ、ヒメアカネ、マユタテアカネ、オオシオカラトンボ、ヤブキリ、ナキイナゴ(写真中左)、ホソアシナガバチ、キイロスズメバチ、オオスズメバチ、ベッコウハゴロモの幼虫(写真中右)等。キノコ/ドクツルタケ、ツルタケ、タマゴタケ、タマゴテングタケモドキ、コテングタケモドキ、カワリハツ、ドクベニタケ、シロオニタケ、ヒメカバイロタケ、シロオニタケ幼菌(写真下右)、ヘビキノコモドキ?(写真下左)等。その他/ホトトギス、クマヤナギの実、オニグルミの実等。





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